荒削りな作品
ゲオルグはアンハルト=ザクセン宮廷で行われる音楽家の練習に躍起になっているところ、ツァハウに提案を受けることになる。
「ヘンデル君、今度の音楽会のプログラムはこうしようと思う。
1、トリオ・ソナタ
2、カンタータ
3、独奏楽器によるソロソナタ
4、チェンバロ組曲 にする。
ソロソナタとカンタータは私の既存の作品を使う。トリオ・ソナタとチェンバロ組曲は君の作品を取り上げる。
なので、完成した作品は私が推敲するから早く作品を作り上げてね」そう言うとゲオルグは「ツァハウ先生、私は速筆に自信があります。最高の作品を早く先生に見せます」自身に満ち溢れていた。
ツァハウは含み笑いをし「君のそういうところが好き。チェンバロ組曲は苦にしないだろうが、トリオ・ソナタは苦戦すると思うよ」と話すとゲオルグは「確かに器楽の合奏は経験は少ないです。でも、二丁のヴァイオリンとチェロやテオルボ、チェンバロがどの様な音色になるのか、先生の演奏風景を見て理解しています。お任せ下さい」
「楽しみにしているよ、、推敲が楽しみでならないから待っているよ。半月は作曲と演奏のリハーサルで雑用はお休みで構わない。頑張ってね」ツァハウはニコリと笑い。「期待しているよ、、ヘンデル君」「もう遅いから家にお帰り」「はい」と答えヘ、ゲオルグは家に帰る。
「ゲオルグ、お帰りなさい、ご飯は食べる?」と母親が言ったが「ツァハウ先生の家で食べから大丈夫。あと、お父さんに会いたくないから」「侯爵様の音楽会に参加するから今後、忙しくなるからご飯は要らない」と言って自室に戻る。
「さて、チェンバロ組曲は2日あれは作曲できるので、コレか作曲しよう。先生を驚かせる作品を作る」気合いを入れ作曲を始めた。
作品の内容は「プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、アリア、ジク、メヌエット」である。
当時、この舞曲の配置は伝統的な形であり、フローベルガーの組曲を範としたものだ。古典的な組曲形式なのである。
あっというまにチェンバロ組曲の作曲はできた。6時間で終わり、意気込んでトリオ・ソナタの作曲に取り掛かるが。
「詰んだ、ソリストのメロディーの掛け合いや通奏低音を使い対位法を巧みに使う事ができない」ゲオルグは挫折した。次の日、ツァハウにお手上げの事を言うと「当たり前。全然、このような事を経験していないから尚更だよ。私が意地悪をしてしまった」続けて「組曲を聴かせて」と言った。
ゲオルグは頷き、チェンバロの前に座り演奏を始めた。
「〜♪〜」
プレリュードはドイツ的な音運びで展開はとても大きい。ブクステフーデなどのドイツ人作曲家を彷彿とする。
アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグ、メヌエットはフランス的な作風が強かった。
後のヘンデルらしい作風とは程遠い。後にヘンデルはチェンバロ組曲集を出版するがその作品と同じような、分厚い和音や趣味のよい対位法の処理があまり、感じられない平凡な作風だったが、
「アリア」の楽章はヘンデルの才能の片鱗を見せることになる。
ヘンデルがその、アリアを弾き始めるとツァハウは顔が明らかに変わった。
「他の舞曲は他作曲家のメロディーの借用が強すぎで個性がなかったが、この「アリア」の楽章はオリジナリティと曲想が美しい」「曲想は実に万華鏡を見ているようだ。情熱を主軸にし踊り狂うような気持ちになる。アリアと表記しているが、アリアと変奏が正しいだろうと思う。」「この作品は手直ししたい。他の作品は可もなく不可もなくだが、このアリアは別もので絶品である」
ツァハウは目を瞑りながらそう考えていた。
弾き終わると、「15才の作品なら合格だ。それしか言えない作品だったが、アリアはオリジナリティがあり美しい。この曲想は15才のが作曲したと思わない。なので、手直ししたい」
ツァハウはそう言った。
少しゲオルグはガッカリしていた。また、先生の辛口の評価により少し傷ついていた。
ツァハウはゲオルグが落ち込むだろうと理解していたので、激励する。
「ヘンデル君、何故に落ち込む。まだ15才の君がフランソワ・クープランやクーナウ、ブクステフーデの様な作品の出来や水準なら、私は貴方に教えることはありませんよ。どんなに、才能があっても場数と努力がないと素晴らしい作品はできない。」また、ツァハウは続けて話し「ヘンデル君のアリアを借用させて貰うな聴いてみて」
「♪〜♪」
ヘンデルは聴き入った。自分の作品は荒削りなアリアと変奏曲だったことを思い知らされた。
「先生は私の主題に入る前に踊り狂う用意をする曲想から一変して、情熱的に踊り狂う。また、変奏曲の入り方が上手い。アリアと変奏曲と楽章に明記できる曲想と作品。」「僕の作品が音が万華鏡の様にキラキラしている」「流星群を見ている様な気持ちになる」
ゲオルグはツァハウへの尊敬を再確認する。
師弟で話し会いながらアリアと変奏の手直しを行った。ヘンデルにとって有益な指導そのもので「僕は演奏以外はまだまだの青二才。しかし、負けない。もっと良い作品を作曲して見せる」という気持ちになっていた。
アリアと変奏は完成した。この作品を弾き終わる時間が当初の所要時間よりかなり長くなった。最初は4分だったが改訂版は10分くらいかかる大作になっていた。
「ヘンデル君、アリアと変奏曲はちゃんと練習してね。並行して、器楽曲のリハーサルは丁寧に。アリアと変奏曲だけ練習して、楽団とのリハーサルみたいな感じで」
「明日から宮廷の一室で宮廷楽士とリハーサルを丁寧に長くそのあと、家でリハーサルの感覚を思い出しながら通奏低音の練習をして下さい。今日は疲れただろうからお帰り。また、明日は宮廷に行ってリハーサルをして下さい。侯爵はヘンデル君に期待しているから頑張って」
「先生、ありがとうございました。頑張ります。今日は疲れたので、よく寝れそうです」とヘンデルは言い。
「明日のために早く寝なさい。おやすみなさい」ツァハウはそう答えこの1日が終わった。
しかし、明日からがハードな日常になるの事はヘンデル少年は想像していなかった。