表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生は今日も迷宮に向かう  作者: ハマ
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/32

32

「失態ですね」


 総司は仕事が完了したので、探索者監察署の本部ビルへと戻り、上司に報告していた。

 今回の事件の顛末を記した資料は予め送っており、今は直接報告しているのだ。そして、もらった言葉が叱責だった。


「え? 何が?」


 今回の仕事は、正月を返上して動き回らなければならず、とても苦労したが、何とかやりきり総司自身は満足していた。

 地元の学生を巻き込んでしまったが、そのおかげで早期に解決したのである。褒めこそすれ、責められるとは思って……思いっきり巻き込んでるな、関係ない人を。


「いや、確かに関係ない人を巻き込んだな」


「違いますよ、そこを責めている訳ではありません」


 上司である男がモニターの画面を総司に向ける。

 そこに映っていたものは、警察車両の内部カメラの映像で、先日捕まえた羽谷ユウスケとその仲間達が映っていた。


「これは逮捕した当日の映像です。このあと、ここに映る一名が逃亡します」


「へっ? そんな報告は受けて…」


「ええ、護送車で送られている以上、警察の管轄になりますから、形式上警察の責任になります。ですが総司君、君は犯人の持ち物検査をしませんでしたね?」


「ふ、10階を行き来するだけの雑魚には必要ないからな」


「その油断から、彼の逃亡を許してしまったんです」


「だが、どうやって……」


 その疑問の答えは、モニターに映る映像にあった。

 護送される者達の中でも、一際大きな体を持つ男が懐から透明な球体を取り出した。そして、それを自身の握力だけで砕くと、強く光を発したのだ。

 光の影響で画面が白く映り数秒もすればそれも治る。

 だが、次に映った映像には男の姿は無かった。


「馬鹿な!転移宝玉!?」


「いえ、恐らくランダムで飛ばすタイプの物でしょう。その結果も出ていますので……」


「それは、どういう?」


「逃亡した羽谷ユウスケが、高所から落下したのが見つかりました。既に息の無い状態でしたが」


「それは何とも……」


 エグい。

 どんな状態なのか想像が出来る上に、地上でランダムジャンプのアイテムを使用するのは、自殺行為に等しい。

 転移宝玉ならば、指定した場所に飛ぶ事は出来て、逃亡は成功していただろう。だが、ランダムジャンプでは、どこに飛ぶのか完全に運任せである為、事故が起こり易いのだ。

 過去の事例でも、同様の事故は発生しており、このアイテムを得た者には、探索者協会から説明があったはずである。


 それを使うとは……。


「何とも業が深い」


「そういう問題ではありません。今回の問題は、アイテムを見逃した事が一つ」


「一つ? 他にもあると?」


「ええ、こちらの方が重要です。総司君、この事件を調べる過程で、被害者からどのように聞きましたか?」


「それは、被害の内容と犯人の特徴を……ん?」


「この報告書にもある通り、学生にやられたと言っています。彼らの中にも学生はいましたが、果たして見た目で彼を学生だと思いますかね?」


 次にモニターに映されたのは、今回捕まった者達の全身の写真である。顔だけ見れば、確かに若く学生と思うかも知れない。しかし、全身を見ると服装の柄が悪く、チンピラにしか見えない。


「学生服を着て犯行に及んだのでは?」


「それはありません、証言では探索者の装備を身に付けていたとありますから」


「じゃあ、どうやって学生だと?」


「それは分かりません。被害者が犯人を知っているか、何か学生と分かる物を持っていたかでしょう」


「だが、そんな証言はされていなかった」


「総司君……」


「……はい」


「それを調べて、犯人を特定するのが貴方の仕事です」


「はい」


 手伝ってはくれないんですか?と聞きたいが、残念ながらこの上司にそのつもりは無いようだ。というよりも、この事件に興味がないのだろう。

 相手が学生というのもあり、楽しめる要素がどこにも見当たらないのだ。

 まだ付き合いは浅く、それほど知っている訳ではないが、この上司の好みは把握している。

 それは、程よく罪を重ねて、そこから更生しようと足掻いている人物である。しかも、その人物を応援するのではなく、更に底に落とそうとするのが趣味なのだ。


 マジで悪趣味極まりない男だが、誰も逆らおうとはしない。

 何故なら強いから。

 この上司の力は隔絶しており、その気になれば一人で探索者監察署を壊滅させるくらいの力がある。

 こんな化け物に誰が勝てるというのだろうか。


 去年、太った探索者が挑んでいたが、あっさりと撃退されていた。決して太った探索者が弱いという訳ではない。寧ろ強いくらいだ。それこそ、総司よりもずっと強かった。

 それなのに、何も出来ずに負けてしまった。


 あの光景を見て、総司は絶対に逆らわないと決めていた。


「とはいえ、初動を失敗してしまった以上、この犯人は証拠隠滅を行い、今後の行動は控えるでしょうね」


「んだらば、捕まえられねーだ」


「口調が素に戻ってますよ。 それでも、捜査は引き続き行って下さい。事が冷めれば、また動き出すでしょうから」


「んっんん〜、だが、動かない可能性もあるのでは?」


「いえ、必ず動きます。この犯人は味を占めていますし、まだ学生では、それを自制をするのも不可能でしょう」


「そういうものか?」


「そういうものです。そもそも、自制出来るのなら最初からやっていませんから」


 それは誰を見て言っているのだろう。

 そう疑問に思うが、それを口にする事はなかった。







 冬休みが終わり、三学期の始業式が行われる。

 退屈な校長先生の話を聞いて終わりの面倒な行事だが、今回は違っていた。


 冬休み期間中に起こった事件に、当学校の生徒が関わっており、二年生の数人が退学、十人以上が停学処分を受ける事になったそうだ。

 事件のあらましは伏せられたが、ニュースにもなっている内容なので、ほぼ全員が知っていた。

 それを理解した上で校長は話を続け、最後に、若いからといって許される訳ではないと告げて終わった。


「探索者活動、禁止にされなかったな」


「うん、今回の事件で何か言われるかと思ったけど、何も無かったね」


 始業式が終わり、サトルと並んで教室に戻っていると、先ほどの校長の話になった。

 アキヒロもサトルも知らなかったが、昨年に探索者サークルなるものが立ち上がっていたらしく、事件に関わった人達がここに所属していたそうだ。

 そのサークルの存在を知っていたからといって、何かが変わる訳ではないが、身近にそういう集団がいたという事が怖いなと思ったのだ。


「それは、国が主導で探索者活動を推進しているからだろう」


 二人で会話をしていた内容をカズヤに伝えたところ、このように返答された。

 本来なら、探索者活動を禁止したいのだろうが、国の施策として探索者優遇処置ならぬ法案が可決された以上、一公務員に過ぎない校長では、サークルや部活は解散出来ても、個人での活動まで停止させる事は出来ないのだ。


「校長も、生徒に危険な目には遭って欲しくないだろうが、上から睨まれたら、言葉も選ばざるを得ないだろう」


「大人って大変だね」


「大人だから大変なんじゃない、守るべきものが多いから大変なんだ」


「どゆこと?」


「人間、歳を取るといろんな物を積み重ねていく。それは立場だったり、人間関係だったり、家族だったりと様々だ。それらを守りたいのならば、相応の行動をしなければ失ってしまう。 アキヒロ、お前が一番実感しているんじゃないか?」


「……うん」


 今の説明で思い浮かんだのは、家族の姿だった。

 アキヒロが探索者を始めたきっかけは、サトルの邪な目的から誘われてからだが、大元は家族を養うためだ。

 今は母が回復して仕事を始めて多少余裕はあるが、当時はそれどころではなかった。下手をすれば、一家離散なんて最悪の結末を迎えていた可能性すらあった。それほど追い詰められていたのである。

 家族を守る為、その為に自分の時間など考えずに、日々ダンジョンに挑み続けているのだ。


 当時も、今も、それは変わっていない。


「校長にも守るべき地位も家族もいる。勿論、生徒も守りたいだろうが、その中で優先すべきものを選んだに過ぎない」


「ふーん、まっそんな固い話は良いからさ、これからの話しようぜ」


「お前から振っておいて……。 まあいい、それはミロクと合流してからにしよう。 ……で、なんで神庭と有明がいる?」


「いや、ちょっと聞きたい事があって」


 始業式が終わり、三人で話していると柚月とあかりが何故か加わっていた。その背後に、影の薄い女の子であるミロクもおり、何故か教室の隅っこに座ろうとしていた。


「ミロク、お前はこっちだ。パーティメンバーなのに何で離れた所に行くんだ?」


「えっと、その、眩し過ぎて」


「何がだ?」


 ミロクはカズヤに促されて、近くに寄って来る。

 そして、柚月達の方を見ると、うおっと眩しそうに手を掲げて視界を遮るのだった。


「この前、一緒に遊んだから距離が縮まったと思ったんだけど……そうでもないのかな?」


「えっと、私服と制服では、その、何というか、プレミア?感的なものが違いまして」


「何だそれは……。まあいい、価値観は人それぞれだ。それで、聞きたい事とは何だ?」


 ミロクの理解に苦しむ思考は放っておいて、あかりに尋ねる。

 あかりの表情が、これまでより一段階くらい明るくなっており、何かを期待しているようだった。


「あのさ、召喚獣って私でも呼べるようになる?」


「む? 有明は探索者になるのか?」


「今は分からないけど、なるんだったら、確実に召喚獣呼べる方法ってない?」


「難しいな、ダンジョンで得られるスキルの種類がどう決まるのか、解明されていないからな」


「え? 貰えるスキルって運じゃないの?」


 カズヤの返答に反応したのはアキヒロだ。

 アキヒロはこの中で最も多くのスキルを得ている。その全てが戦闘向きであり、とても重宝している。使う度に運が良いなぁと実感していたが、このスキルを得た理由が運以外にもあるのなら、それが何なのか気になってしまう。


「俺も最初はそう思ったんだが、どうにも違うような気がする。その人物に合ったスキルを、優先的に与えられているような傾向が見受けられる」


「どういうこと? 私に適性が有ったら召喚獣のスキルが得られるの?」


「いや、俺の感覚で言っているに過ぎない。もしかしたら、完全な運かも知れないからな」


「ふーん、じゃあ、召喚獣が呼べるようになるかは運次第なんだ」


「いや、それも違う。ダンジョンで得られるアイテムの中に、召喚獣が呼べる物も存在している」


「本当!?」


「ああ、安い物でも家が建つくらいの値段だがな」


「そうなんだ……」


 その話を聞いて、肩を落とすあかり。

 それだけ、召喚獣に思い入れがあるのだろうと察したカズヤは、余計なことを言ってしまう。


「……もし、ダンジョンで召喚可能なアイテムが手に入ったら、格安で譲ってやらなくもないぞ」


「良いの!? でも高いんでしょ?」


「待て、まだ手に入れた訳でもないんだ。そもそも、そんなに都合よく手に入る代物でもないんだ」


「うん、でも、ありがとう」


「……ああ」


 あかりに笑顔を向けられて、少しだけ照れ臭そうにするカズヤ。

 その意外な反応に、アキヒロ達は何だかおかしくなって笑いそうになった。


 一名を除いて。


 カズヤの肩に、嫉妬に狂った手が置かれる。


「なあにニヤついてんだよ、この裏切り者」


 ギチギチと鳴る肩に怨念が流れ込んで来る、ような気がする。

 サトルを見ると、目の笑っていない笑顔を浮かべており、ドス黒い嫉妬の炎を燃やしていた。


「何を勘違いしている。ただ、目的のアイテムが手に入ったら、優先的に渡すと話していただけだろう」


「照れるなって、そうやって俺に見せつけたいんだろ? お前だけは味方だと思っていたんだけどなぁ。何だろこれ、親友に裏切られた気分って、こういうの何だろうなぁ」


 斜め上を向いて、涙を堪えるような仕草をするサトル。

 何だこいつ、面倒くせーなと思いながらも、思い思いに慰めの言葉を掛けていく。


「さ、サトル君、あの、えっと、助けてくれた時の、サトル君、かっこよかった、です」


「そ、そうね! あの時のサトル君、凄く良い感じだったよ!」


「城戸先輩も見惚れてたよ!今度、二人っきりでお礼がしたいって言ってたし」


 城戸先輩とは、柚月達が巻き込まれるきっかけとなった女性である。サトルの塾の先輩で、何度か話した事がある程度の顔見知りだが、今回の一件で気に入られたようだ。

 ただ、城戸めぐりと他二名は、探索者サークルを立ち上げた者として停学処分を受けている。

 別に犯罪を犯した訳ではないのだが、今回の事件はそれだけの影響があり、警察からの事情聴取も含めて、いつでも対応出来るようにと処分を受けたのである。


「城戸先輩が? ……まあ、仲間を助けるのは当然だしぃ!別に気にしなくても良いよ?」


 もっと褒めても良いんだよ、という副音声が聞こえて来そうな流し目で見てくる。

 お前がモテないのはそういう所だぞと、誰かが忠告してくれたら助かるのだが、サトルに助けられた事実は変えられないので、誰も何も言えない。


 だから、無理やり話を元に戻す事にした。


「カズヤは召喚獣に詳しいの?」


「そこまで詳しい訳じゃない。召喚獣の知識は又聞きで得たようなものだし、余り当てにはならないぞ。一応、その人物も召喚獣を使役していたがな」


「そうなんだ。じゃあ、ミロクさんの召喚獣以外にも見たことあるの?」


「それほど多くはないが、見ているな」


「その中で、一番強かった召喚獣って何だった?」


「一番か……そうだな……」


 カズヤは暫く考えて、何かを思い出すような仕草をして答えを出した。


「馬だな、馬の召喚獣が最も強かった。他にも特殊能力を持った召喚獣はいたが、彼が召喚する馬の召喚獣に勝るものはいなかった」


「馬? んっ、でも、前に召喚者によって召喚獣の強さは変わるって言ってなかった? その人も強かったの?」


「ああ、強かった。一流の槍の使い手で、多種多様な魔法を使う誇高き騎士だった」


「騎士?」


「おっと、そこは気にするな、言葉の綾だ」


「何が言葉の綾だ、俺を無視すんじゃねー」


 サトルが鬱陶しかったので、二人で会話をしていると恨みがましく加わって来た。

 女子の方を見ると、そちらは其方で盛り上がっており、サトルは放置されてしまったようだ。


「無視はしてない、落ち着くのを待っていたんだ。 さあ、これからの話をしよう、関係のない二人は抜けてくれ」


 カズヤがそう告げると、柚月とあかりはまたねと言って去って行った。二人もこれから部活があり、別に暇という訳ではないのだ。


 じゃあ、これからの話をしようとカズヤが切り出し、今後の探索者活動の話し合いが始まる。


 カズヤが話しを進める傍に、アキヒロはメンバーの顔を見る。


 探索者を始めたきっかけを作ってくれた親友のサトル。

 頼れるかは別として、厨二病なリーダーのカズヤ。

 新たに加わった配信が趣味のミロク。

 それに、アキヒロを加えた四人で、これからも活動をしていく。

 もしかしたら、今後も仲間が増えるかも知れないが、それでもこのメンバーならば、きっと大丈夫だと何故か思えてしまった。


「なにかおかしな事でもあったか?」


「何でもない、気にしないで進めて」


 いつの間にか笑みを浮かべていたらしく、指摘を受ける。

 この思いを伝えたら、みんなは引くだろうなと思いながら、アキヒロは胸の奥にこの思いをしまった。










「はあ、はあ、はあ」


 警察に捕まった羽谷ユウスケは、護送車から逃げ出すために転移宝玉を使い、魔力不足に陥っていた。

 ダンジョンで得たアイテムの多くを使用するには、魔力を消費する必要があり、今回使った転移宝玉を発動させるには、ユウスケの魔力でギリギリだったのだ。


 予め指定していた場所は建物の屋上で、ここに飛んだのは、この建物に住んでいる協力者に匿ってもらおうと思ったからだ。


 スマホは没収されており、連絡手段が無く直接行くしかない。


 息を整え、屋上にある扉から中に入ろうとすると、タイミングを見計らったかのように、内側から扉が開かれた。


「もう、困るよユウスケ君、こんな夜中にさぁ」


 扉を開いて現れたのは、中学生くらいの年齢で、髪をキノコカットにしているごく普通の少年だった。

 その男子は、眉間に皺を寄せてユウスケに苦情を言い、後退させて扉を閉めた。


「あ、ああ、すまん。 いや違う、そうじゃない。警察から逃げてるんだ。暫くでいい、匿ってくれ」


「見てたよ、誘拐するなんて大胆な事するねー。しかも失敗してるし、笑っちゃうよね」


 呆れた様子の少年は、ユウスケのことを小馬鹿にするが、それを聞いても、ユウスケは怒る気にはならなかった。

 普段なら即殴り倒しているだろうが、今は状況が状況なだけに、そういう気分は湧いてこない。


「ああ、ヘマしちまったんだ。良いだろう?俺とお前との仲なんだしよう」


「嫌だよ、君みたいな犯罪者連れ帰ったら、パパとママに怒られるじゃないか」


 しっしっと手を振って拒絶する少年。

 その対応には、流石に頭に来たのか顔を真っ赤にするユウスケ。だが、怒りに任せて動く事はない。別に理性的になろうと抑えているのではなく、何故か行動に移せないのだ。


「君たちのせいで、僕達も動けなくなっちゃうじゃないか。せっかく隠れ蓑に使ってあげてたのに、こんな簡単に捕まっちゃってさ、僕らの投資をどうしてくれるんだよ」


「テメー、さっきから訳分からない事言いやがって」


「あれ? まだ気付いてない感じ? もしかしてスキルを掛けすぎたのかな? 一応聞くけど、僕らのこと誰にも話してないよね?」


「あ? 当たり前だろ、友達を売るような真似はしねーよ」


「……そっか、じゃあ証拠見せてよ」


「証拠?」


「うん、ここの隣にマンションが建ってるでしょ。実は隣のマンション、去年出来たばかりの新しいマンションなんだけどさ、ここと近過ぎてるっていうので問題になったんだよ」


 隣のマンションを指差して説明を始める少年。

 マンション同士が近過ぎて、昼間はこのマンションに日が差さない時間があり多くの苦情が出たのだ。日照権やらで争いはしたが、残念ながら違法性無しという事で訴えることは出来なかったが


「っていう事なんだけど、そんなのはどうでも良くて。この距離だったら、飛び越えれると思わない?」


「この距離をか?」


 どんなに近いと言っても10m以上は開いており、とても飛び越せるとは思わなかった。ましてや、フェンスが張られており助走を付けられる環境でもない。いくら身体強化のスキルを持つユウスケでも、不可能な話だった。


「無理だ、落ちて死んじまう」


「大丈夫だよ、ユウスケ君ならきっと出来るさ。僕の目を見てよ、ほら行けると思わない?」


 ユウスケは少年の目を直視してしまう。

 すると、何だか少年の言う通り跳べるような気がして来る。それと同時に全能感に包まれていき、俺なら出来ると残り少ない魔力を燃料に、身体強化を施していく。


「……ああ、そうだな、俺なら楽勝だ」


「流石はユウスケ君!かっくいい!!」


 頑張れ!と声援を受けながらフェンスをよじ登り向こう側に立つ。

 一歩で終わる助走を準備して、少年の方を見る。


「これが成功したら匿えよ」


「嫌だよ、でも、みんなには相談してやっても良いよ」


「チッ、じゃあ行って来る」


「いってら〜」


 次の瞬間、ドンッと音が鳴り放物線を描いてユウスケは空へと飛び出した。

 身体強化を施した一歩ということもあり、それなりの距離は飛んだが、当たり前のように中間辺りで失速し、落下して行った。


 何かが潰れるような音が響くと、少年はあ〜あと呑気な声を上げて、スマホで仲間にメッセージを送る。

 内容は暫く大人しくしようというもので、仲間からは一部不満の声が上がったが、概ね仕方ないと了承してくれた。


「不満言ってる奴らって何なんだよ、捕まりたいのか?」


 そう愚痴をこぼしながら、キノコ頭の少年は家族が待つ家へと帰って行った。

今回の投稿はここまでです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
めっちゃ面白かったです! 続き楽しみ
[一言] 今更ですがカズヤはデミンズ王国の誰かから知識を受け継いでいるのかも知れませんね
[一言] 面白かった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ