31
羽谷ユウスケは、最近ダンジョンのあるこの街に引っ越して来た。
理由は兄から誘われたのと、元の場所に居られなくなったからである。
まだ十八歳だったが、地元の半グレに所属して色々と悪さを行っていた。その体格の良さと、腕っぷしの強さから争い事には率先して参加しており、その成果はかなりのものだった。
しかし、その快進撃も長くは続かない。
他所から勢力を伸ばして来た集団に襲われて、組織ごと壊滅させられてしまった。
組織が壊滅して居場所が無くなり、過去の所業で警察からも目を付けられ、いろいろと面倒になり、出所した歳の離れた兄に着いて引っ越して来たのだ。
兄は、ここで探索者として再出発しようとしているようだが、ユウスケはそんな事に興味はなく、適当に何処かの集団に所属しようと考えていた。
しかし、兄はそれを許さなかった。
「おめーも一緒にやるんだよ」
ユウスケよりも大きな体格を持つ兄が、力尽くで探索者協会へと連れて行かれる。
前科三犯の兄にとって、これが生まれ変わる最後の手段だったのだろう。歳の離れた弟を巻き込んでまで来たのだ、この時の希望はどれほどのものだっただろうか。
そして、その希望は断たれる。
「は? 登録出来ない?」
「羽谷様には前科がございます。先日、服役後から三年間は探索者協会で登録が出来ないと決まりました。申し訳ありませんが探索者登録は出来ません」
「はぁ!? ふざけんなよ!わざわざ来てやったんだぞ!登録出来ないってのはどういう了見だ!」
「はい、半年前に行われた市議会におかれまして……」
「うるせー! さっさと登録すりゃー良いんだよ!」
「ですから……あの、お離し下さい。協会への敵対行為と捉えますよ」
ゾッとするような一言だった。
受付をしている女性はユウスケやその兄と比べて小柄で、何処にでもいる普通の女性だ。
そう、見た目だけなら。
兄が胸ぐらを掴んだ女性の眼光は鋭く、とてもではないが一般人のそれではなかった。
その女性から発せられる圧力だけで呼吸が出来なくなり、周囲の気温が凍えるほど下がったような気がした。
受付の女性に恐れた二人は、何も出来ずに探索者協会を後にする。
二人は探索者というものを甘く見ていた。
ダンジョンに潜り、ゲーム感覚でモンスターと戦い、資金を得るものだと思っていた。
それがどうだろう、あそこにいる者全てが殺し合いを経験しており、また殺す事に躊躇しない者達だった。
殴るのにすら手加減する必要のある世界とは違っていた。
くそ、くそ!と悪態を吐いて悔しがる兄の怒りがユウスケに向く。
「なに見てんだよ!」
理不尽に殴られて怒りが湧くが、体格も経験も何もかもが上の兄に逆らう気にもならず、面倒くさとそっぽを向いてやり過ごす。
「貴様は良いよなぁ、前科がなくてよ!警察が無能で良かったなぁ!」
警察は関係ないだろう、その無能な警察に捕まったあんたはゴミ以下だろうと内心で悪態を吐く。
ここで喧嘩でもすれば、きっと二人揃って警察に捕まる。そうすれば、兄は間違いなく刑務所行きになり、ユウスケも下手すれば同行するハメになる。
せっかく前科の付いていない自分は大丈夫なのだと、チャンスをものにする為、ここはグッと我慢をする。
そうすれば、この男ともおさらばだと自分に言い聞かせて、内心渦巻く怒りを抑え込んだ。
だが、その別れの時は、思ったよりも早くやって来た。
兄がその仲間達と誘拐事件を起こして捕まったのだ。
しかもその状態は酷く、顔の形は変わり、足と腕の骨が折られ、正に半殺しと言った状態だった。
こうして解放されたユウスケは、同じような境遇にある者に誘われて探索者登録を行う。
兄と別れた以上、探索者登録をする必要もないのだが、誘ってくれた奴に、何故か逆らう気にもならずに従ってしまった。
まあそれも、今では文句を言うつもりはなく、寧ろ感謝している。
何処かの高校に探索者サークルが作られて、それを利用したらどうだろうと提案してくれたのもそいつだ。
おかげで生き甲斐を見つけ、女を好きに抱けるようにもなり、金を得て、やりたい放題できるようになった。
正に人生の絶頂だっただろう。
言う事を聞かない部下を力で従わせて、更に勢力を拡大してやろうと考えていた。
今回、連れ去った女達は楽しんで、下の奴らを満足させてやれば、また従うはずだと都合の良いように考えていた。
ユウスケは何も考えていない。
戦いを楽しんで、暴力を楽しんで、女を楽しんで、無理やり人の上に立つのを楽しんでいるだけだった。
だから探索者監察署に目を向けられている事を、警察にマークされている事を、他の探索者から恨みを買っている事に気付いていない。
ワンボックスカーが三台カラオケ店に到着する。
営業を停止して間もない店で、バリケードを立て進入を禁止していたが、それを破壊してユウスケ達の拠点としていた。
「早く連れて行け」
「ああ。なあユウスケ、残ってる奴ら先に楽しんでるんじゃないか?」
「なに? なら半殺しだなぁ、俺が一番だって言ってんのによぉ」
話ているのは、先に捕らえていた二人の女子の事だ。
ここまで人を攫ったのは初めてだが、何だかんだで上手く行っている。
「今回はマジで上玉じゃね? この根暗っぽいのも結構綺麗だしよ」
「そいつは俺の好みじゃないな、好きにしたら良い」
少なくとも、この時まではユウスケにとって最上の時間だった。
口と手を縛った女達を歩かせてカラオケ店に入る。
店の電気は止められているが、誰かが持って来た発電機を使って照明や暖房を利用していた。
それが何故か止まっている。
「なんだ、誰もいないのか?」
店内に向かって声を発するが、返答は無い。
女を二人捕らえているはずなのに、見張りもおらず暖房も付けていない。
もしかして逃げられたのか?
一度逃げられている以上、二度目があってもおかしくはない。女達のスキルは調べてあるが、それに対処出来るかは別の話だ。
これからお楽しみだと思ったら、それを邪魔されて、無能な奴らがと苛立ちを覚える。
「おい、待っていた奴らに連絡しろ!」
チッと舌打ちをしてエントランスに入る。
スマホのライトで照らし、正面に見えるカウンターとその隣に置かれたソファと多くの椅子。
椅子は各部屋から持って来た物で、元はここには無かった物である。
照明と暖房を点けて来るように指示を出し、廊下の奥に置いてある発電機に向かわせる。
それまで、いつもの定位置であるソファに腰を下ろして、他の奴らが店内に入って来るのを待つ。
四台の車に別れて乗車しており、その内一台は残った奴ら用に工事現場に残している。なので、三台に分乗した女合わせて二十一名がカラオケ店に入って来た。
この人数ともなると、流石に店内が狭くなり窮屈になってしまう。しかも其々がスマホのライトを点灯しているので、チカチカと光って鬱陶しい。
「おい!まだ照明は点かないのか!?」
廊下の奥に向かって叫ぶが、それに対する返答は無い。
その代わり、何か黒い物が動いたような気がした。
「……おい、お前行って見て来い」
何か嫌な予感がして、近くに居た者に指示を出す。
なんで俺がといった様子の男が、嫌々ながら発電機のある方へと進んで行く。
スマホのライトに照らされて少しは明るくなっており、そして自身もスマホを点灯させて照らしながら進む。
やがて奥にある発電機の場所に到着すると、その奥で倒れている仲間を発見した。
「だっ!?」
男が仲間の無事を確認しようと近付こうとすると、近くの部屋から闇が伸びて絡め取られる。そして、部屋に引き摺り込まれてその姿を消した。
「なんだ今の!?」
「何か居るぞ!」
「武器を持って来い!襲撃だ!」
明らかに敵対する何かがいる。
ここら付近に、抗争する勢力はなかったはずだが、何処かに目を付けられた可能性もある。若しくは、自分達と同じようなチームが新たに出来たのか。
これは明らかに敵対行為である。
これまでの好き勝手やっていたものとは違い、このチームを、組織を守る為に戦う時が来たのだ。
ユウスケはガントレットを装着し、コンバットナイフをその手に持つ。
その程度の刃でモンスターが殺せるのかと言うほど、心許ない武器だが、ユウスケにとって使い慣れた武器でもある。
それにこれは、モンスターを相手にする訳ではない。
敵は同じ人間なのだ。
しかもここは室内。ならば、小回りの効いた武器の方が優位である。
準備を即座に終わらせたユウスケは、今度は二人を前に出して三人で進んで行く。
二人が襲われれば、即座に動いてカウンターを食らわせる。
体に魔力を漲らせて、スキルを発動する。
いつでも来いと、一瞬で終わらせると意気込んで進んで行き、先ほど男が姿を消した場所に到着した。
発電機の先には男が意識を失って倒れており、部屋の中を見ると、そこには引き摺り込まれた男が倒れていた。
だが、その男は倒れているだけで意識はある。
しかも、何か怯えた表情で廊下側を見ており、何に怯えているのか分からなかった。
「ん?あいつ、口塞がれてないか?」
先頭にいる男が気付き部屋の中に入る。
そして続く男は部屋の中を確認しながら入って行く。
カラオケ店である以上、この部屋に窓は無く逃げ出せるような場所は無い。
更にユウスケも中に入って、室内に誰か隠れてないかを確認していく。すると、口を塞がれて倒れていた男が五月蝿く騒ぎ出し、何事かと皆が注目する。
「おい、早くその口のやつを外してやれ」
「あ、ああ」
最初に助けようと部屋に入って行った男は困惑していた。口を塞がれて倒れていた男は、手足が折られており身動きが取れないようにされていたのだ。
なぜ意識を残して、わざわざ手足を折ったのか理解出来なかった。何か意図があるとすれば何だろうかと、無い頭を必死に回転させて考えていた。
だがそれも、倒れた男の口を解放する事で理解する。
「いぃ、今、黒い奴が部屋を出て行った!」
それに反応して扉の方を見る。
同時にエントランスの方から悲鳴が上がり、争う音が聞こえて来た。
「ちっ!」
部屋を出ると、エントランスの方で黒い何かが伸びて、仲間が吹き飛ばされて行く。
及び腰になった男達は腰が引けて距離を置いてしまい、同時に女達からも離れたしまう。恐らく、それが狙いだったのだろう、捕まえていた女達が解放されてしまった。
「くそが!?」
急いで戻ったユウスケは、その勢いで黒い何かに殴り掛かるが、まるで闘牛士のように避けられてしまい拳は空を切る。
頭上を通過する黒いマント、その中に正体を見た。
まだ幼さを残した顔立ちに、死神を思わせるような大鎌と黒いマント。
見る者全てを恐怖させるような佇まいに、思わず息を呑む。
「貴様、さっきの奴の仲間か!?」
思い浮かべたのは、先程の小太りの異様に強いサトルと呼ばれた男。
あいつも女を助けに登場していたと思い出し、こいつもそうだろうと思い至った。
だが、今それを言うのは悪手だった。
「さっきのって、サトの事だよね? お前ら、覚悟は出来てるな?」
カウンターの上に立つ死神は、まるで虫ケラを見るような目でユウスケ達を見下ろし、ただ踏み潰すために動き出した。
▽
カズヤの転移魔法でカラオケ店に到着したアキヒロは、速攻で襲撃を掛けた。
店の中には五人の男がおり、容赦なく無力化する。
その際、男達の負傷する程度など考えていなかったので、かなりの傷を負わせてしまったが、犯罪者に容赦する必要はないと切り捨てる。
カズヤも命さえ取らなければ問題ないと言っていた。
だから、大丈夫なはずだ。
そう言い聞かせて、カラオケ店の部屋の中を探し回る。
しかし、どこにも柚月達は居らず、代わりに二人の女性を救出した。
何故だか物凄くお礼を言われて泣かれたが、もう大丈夫ですよと安心させるくらいしか、アキヒロには出来なかった。
カラオケ店から逃げて行く女性を見送って、あの女性がダンジョンで出会っていた事を思い出す。
いろいろ遊んでいるから、危ないことに巻き込まれるんだろうなと失礼な事を考えてしまう。
倒した男達を、近くの部屋に移動して拘束する。
起きて暴れられても面倒なのでやっているが、素人のアキヒロでは手加減が分からず、口と鼻を塞いでしまい窒息死させかけてしまう。
難しいなこれと思いながら、カラオケ店にミロクや柚月達がいなかったとメッセージを送ると、まだ到着してないだけだろうと返信が来た。
ならば準備をして対応しようと、発電機を停止させて到着を待つ。
やがて車三台が到着して、大勢が店内に入って来る。その中にはミロクや柚月の姿があり、今すぐにでも助けに入りたかった。
だがそれでは、四人が人質に取られてしまう可能性があり、奥の部屋に隠れて冷静に機会を待った。
発電機を作動させようとした者を、一瞬で無力化して廊下に転がす。続いて来た奴を、魔変のマントで捕らえて引き摺り込む。
「黙れ、声を出すな、分かった?」
カズヤの口調を真似して短く告げると、手足を粉砕して口を近くにあった粘着テープで止める。
粉砕した時に悲鳴は出たが、カラオケ店というのもあり、防音設備のおかげで敵に届くことはなかった。
近付いて来る気配に気付いて、魔変のマントを使い、出入口の上に張り付く。そして、一人二人と室内に入り、警戒すべき三人目が部屋に入ったと同時に部屋を出て、柚月達を捕らえている男達の元へと走った。
「何か来た!?」
「馬鹿っ逃げるな!」
「こいつ速っガハッ!?」
先頭にいた男を大鎌の石突で殴打し、怯んだところを魔変のマントで掴んで、他の男達に向かって投げる。
三人が巻き込まれて倒れるのを横目で確認して、柚月達を囲んでいる男達に強襲を掛けようとする。だが、そこまではまだ人がおり、接近する前に人質に取られる恐れがあった。
だから魔変のマントを爪の生えた手へと変え、天井を掴んで男達を飛び越える。
殆どの者は見ているだけだったが、ボーガンを持った男だけは、アキヒロの動きに反応した。
「っ!?」
咄嗟にスキル加速を使用する。
ゆっくりと動き出す光景に、迫るボーガンの矢を見る。
身体強化を使いゆっくりと動く世界で大鎌を振り、その矢を切り落とす。更に、刃を切り離してボーガンを使う男に向けて投げた。
加速のスキルを解除して、元の時間の流れに戻る。
「ぐあっ!?」
切られた矢が地面に落ち、放った刃がボーガンを破壊して壁に突き刺さる。
そして、アキヒロは着地と同時に大鎌の柄を使い、柚月達を囲んでいる男達を薙ぎ払った。すると、周囲にいた者達は恐れを成したのか、少しでも離れようと距離を取り出す。
一度周囲を見て、近づく者がいないのを確認すると、拘束された柚月達を解放した。
「アキヒロ、くん?」
いつもとは違う姿のアキヒロを見て、柚月は同一人物なのか自信が持てなかった。
家族を思う心根の優しい彼が、こんなにも荒々しく暴力的な行いをしている。そして、その原因が自分達が捕まったせいだと理解して、どうしようもない罪悪感を抱いてしまう。
「柚月さん話は後で、今は逃げて。ミロクさん、みんなをお願い」
「う、うん」
「アキヒロ君、また後で」
「うん」
ここにいては邪魔になると嫌でも理解した四人は、カラオケ店から避難する。
柚月達が店内から出終わると、店の奥から獣のような声が上がった。
「くそがっ!?」
その大柄の男は警戒すべきと判断した者で、間違いなくこの中でも最も強い存在だった。
迫る拳に向かってマントを使って目眩しをすると、飛び上がって距離を取り、柄に魔力を流して宵闇の大鎌の刃を回収する。
カウンターに立ち、誘拐犯達を見下ろしていると、どこからか息を呑む音が聞こえる。その音に連動したように、辺りに緊張が伝わるのが分かった。
「貴様、さっきの奴の仲間か!?」
必死に取り繕うように吠える男が異様に小さく見えた。
先程の勢いはどこに行ったのだろうか、只々吠えるだけの情けない男に見えた。
「さっきのって、サトの事だよね? お前ら、覚悟は出来てるな?」
冷静に努めていたが、最後は怒りからドスの効いたものになってしまった。
殺すつもりはない。だが人質の心配がなくなった以上、遠慮するつもりもない。
「ライトニング」
放たれた魔法はエントランス全体に広がり、全員がスタンガン程度の電圧を浴びる。そして、レベルの低い者はこれだけで行動不能になってしまう。
「グッ!? 舐めるなーー!!」
大柄の男、ユウスケが叫び手に持ったコンバットナイフを投擲する。
かなりの勢いで投げられるが、その大きなモーションのせいで避けるのは容易い。
魔法を解除して、大鎌を腰に携え接近すると同時に刃を反対にして、柄の部分でユウスケの腹部を殴り付ける。
その一撃でえずくユウスケだが、これを好機と捉え、吐き出すのを堪えて、身体強化した拳を接近したアキヒロに叩き込んだ。
ユウスケにとってその一発は、確かに全力とは程遠いものだった。だが、今出せる魔力を注ぎ込んだ最後の一発だった。
「……馬鹿な」
「これで全力? こんなものじゃサトは倒せないね、他にも人がいるのかな?」
ユウスケの腕と比べて半分太さしかない細腕に軽々と受け止められていた。
拳を受け止めたのは、スキル右腕強化による効果だが、それを知らないユウスケにとって、その自信を打ち砕くには十分効果的な光景だった。
戦意を喪失したユウスケだが、だからといって容赦するアキヒロではない。
罪には罰を。サトルやミロク、柚月やあかり、他に沢山の人達を不幸にして来たであろう男を見逃す気はなかった。
拳を掴んだ右腕に更に力を込めて、その拳を粉砕する。
「あがっ! 止めグッ!?」
石突で足を殴り、重心の偏った足を蹴って転ばせる。
ガラ空きになった腹に蹴りを叩き込み、助けようとする仲間に向かって宵闇の大鎌を飛ばす。
「邪魔するなら、次は当てる」
まだ動ける男に向かって警告し、柄に魔力を流して刃を元に戻した。
そして、ユウスケを残酷に見下ろした。
その目は酷く冷たく、到底人に向けていいものではなかった。まるで無機物を見るように、感情はなく冷酷に断罪する死神のように、ただユウスケを見下ろしていた。
「お前達は、学生の犯罪者集団だな?」
「何の話だ?」
アキヒロの問いを理解出来なかったユウスケは、逆に問い返してしまう。
この集団は、高校のサークルを主体に作ったこともあり、学生は多いが、全てが学生という訳ではない。
「婦女暴行に窃盗、強盗なんかをやっているんだろう? 現に誘拐までしているじゃないか」
「……ああ、それなら俺達だ」
ダメージを受け過ぎたのか、体の痛みからか意識が朦朧とし出す。
確かに、それだけの罪状があるような行いはやって来た。今更、否定するつもはなく、だからと言って償う気もなかった。
その返答と態度を見て怒りが湧く。だが、それよりも、ユウスケの様子が変わったのに違和感を覚えた。
もしかしたら、何もかもを諦めて自棄になっているのかも知れないが、それにしては、さっきまであった猛々しさを全く感じなくなっていた。
「それで、俺達をどうするんだ? 警察に突き出すのか? それなら覚悟しろよ、出所したらお前の友人も家族も全てが俺達の標的になるからなぁ!!」
しかし、それも気のせいだった。
こいつは放置してはいけない存在だ。
世に放つと、また大勢の人が不幸になる。
邪悪な存在は、ここで終わらせた方がいい。
宵闇の大鎌が音もなくスッと持ち上がる。
「お、おい、待てよ、冗談だろ?」
脅しのつもりで言った言葉が仇となる。
いや、寧ろユウスケ自身、どうしてそんな脅しをしたのか理解していなかった。
だが、その理由も関係ない。
死神の大鎌が、ユウスケの命を絶つのだから。
殺意に満ちた、冷たい刃が振り下ろされる。
刃先はユウスケの首元を正確に狙っており、振り抜かれれば、その首は確実に跳んでいた。
だが、そうはならなかった。
「なっ! はっ、動かない」
突然、大鎌が動かなくなり、力を込めてもビクともしなくなったのだ。しかもそれだけでなく、全身が動かせなくなり、呼吸以外の行動が出来なくなってしまった。
また、他の男達もアキヒロと同じように動けなくなっており、倒れているしかなかった。
そんな時である。
カラオケ店の出入口から気取った声が聞こえて来たのは。
「ふっ、間に合ったか」
髪をかき揚げなら登場したのは、総司という対探索者専門の警察機関、探索者監察署所属の人物だった。
ミロクが連絡は入れているが、全く返答が無いと言っていた人物でもある。
今頃来たのかと内心呆れるが、その後にパトカーのサイレンが聞こえて来て、ここまでだなとアキヒロはユウスケの首を諦めるしかなかった。
「ふっ、安心しろアキヒロ。ここから先は、全て俺に任せておけ。必ずこいつらに罪を償わせてやる」
そう格好付けるのはいいが、いい加減この動けない状態から解放してくれないだろうかと言いたくなる。
この状況も、総司の力で起こされているものだと理解している。
何をされてこうなっているのかは分からないが、40階を超えた男の実力だと、これくらいは当たり前なのかも知れない。
アキヒロ程度では理解出来ない力。
それ程、圧倒的な力を総司から感じ取っていた。
この後、警察がカラオケ店に突入して、ここを拠点にしていた集団は一斉に検挙される。
アキヒロは、総司の力もあり特に捕まるような事はなかったが、危険な事は控えるようにと警察官から注意を受けた。
こうして、この事件は幕引きとなる。
まだ未成年の学生が中心となり起こった事件というのもあり、メディアではそれほど報道はされなかったが、SNSが発達した現代ではそちらの方で注目を集めてしまった。
被害者の特定などはされなかったが、加害者の特定はあっという間に行われ、多くの人達がこの街を去らざるをえなくなる。
それは彼ら自身の身を守る為にも必要な行動だったが、同時に捕まった者達の帰る場所が無くなってしまった事を意味していた。
アキヒロにはどうにも出来ない。
どんなにダンジョンでレベルを上げて、スキルを得て強くなっても、社会という世界の中では無力な一般市民に過ぎないのだから。




