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高校生は今日も迷宮に向かう  作者: ハマ
2章

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 ミロクは困っていた。

 あの日、総司の連絡先を無理やり登録させられた流れで、柚月やあかりとも連絡先を交換したのだ。


「それで、ミロクはアキヒロ君の事をどう思ってるの?」


 それを尋ねて来たのは、有明あかりという同級生である。


「あうあうぁぁ」


 それに応えられず、向かい側の席で右往左往してしまうミロク。


 どうして人見知りのミロクがあかりと居るのかと聞かれたら、流れでそうなったとしか言いようがない。

 連絡先を交換した当日からメッセージのやり取りを行い、あそこのコスメ可愛いよねーから始まり、数日を経て、明日二人でショッピングに行こうねとなったのだ。


 はっきり言って、どうしてこうなった状態である。


 人との関わりは苦手な上に、この存在感の無さから気付いてもらえないことも多いのに、こうして陽キャのようにカフェでお茶をしているなんて想像もしていなかった。

 当然、こんな所に入るのも初めてだ。それもついこの間知り合ったばかりの人とである。コミュ障気味のミロクからしたら、かなりハードルの高い状況だった。


 何で行くって言っちゃったんだろう。


 あかりの話術というか、メッセージの内容が興味を引かれたのもあるが、あかりのコスメへの拘りと知識が凄く、食い入ってしまったのだ。


 配信者JKミロとしては、その情報は是非欲しい。

 配信バエする為の知識は、あって無駄にならないのだ。


 実際に午前中からコスメの説明と購入を行い、十分に成果は出ていた。なので、じゃあこれでと帰ろうとすると、いやいや本題はこれからだからと無理やり連れて来られたのである。


「うーん、じゃあ二択です。アキヒロ君が好きかYESかNOで答えて」


 言葉にならない呻き声を上げるミロクを見て、こりゃダメだと選択式の質問に変更する。

 もじもじとしたミロクを見ていると、目線を外して下を向きながらも一応答えてくれた。


「い、イエ……ノーで」


「YESね、面白くなって来たぁ!?」


「い、え?ち、違っ」


「態度が物語ってんの、ミロクはコミュ障だろうけど、しっかりと態度には出てんのよ」


 スプーンを持った手で指摘されて、何も言い返せなくなる。

 他人との接触が過去最高に増えて来ているミロクだが、人とのやり取りのなかで、物事を誤魔化したりという経験が少ないせいで、いろいろとバレてしまうのだ。


「別に責めている訳じゃないから安心して」


「でも、神庭さんは……」


「んふっ、だから面白くなって来たのよ!このままじゃ、柚月とアキヒロ君が簡単に付き合っちゃって、何も面白味の無い展開になりそうだったから!」


「えー」


 こいつ結構やばくないか。

 柚月は友達選びを失敗したんじゃなかろうかと、同情してしまう。

 友人の恋仲を引っ掻き回して楽しもうとするなんて、いくら柚月でも想像出来ないだろう。


「何言ってんの」


 なんて思っていたらミロクの背後に人が立ち、呆れた声をあかりに向けていた。


 恐る恐る振り返ると、案の定、モデルのような柚月が立っていた。

 ベージュのワンピースにニットベストとシンプルな着こなしをしているが、その身長と立ち姿、そして優れた容姿が人の目を惹きつけていた。


 おっおおー、喉の奥から変な声が漏れて、これが本当に同級生かと恐れ慄く。

 ミロクは自分の服装を見る。

 ダボっとしたジーンズにタートルネックのセーター、今日は冬の割に暖かいからと上着は薄手のジャケットは用意しているが、とても柚月には勝てない。というより、比べるのも烏滸がましい。


 この差は何だろうか?

 食事か?睡眠か?環境か?遺伝子か?何処をどう間違ったら、こんなに差が出るのだろう。


「早かったね、家の用事はもういいの?」


「うん、パパの付き合いは食事会で終わり。それより何て話してんのよ」


「え? 柚月にライバル現るって面白くない」


「どうしてそうなるのよ」


「おっ? 余裕ですな柚月さんはぁ」


 テーブルに肘を突き、両手を絡めて顎を乗せたあかりが、ニヤニヤとした顔付きで柚月を見る。

 挑発されたような柚月だが、眉をぴくりと動かすだけでその態度に変化は無い。ただし、圧力のような何かが増したような気がする。


「うっ、あの、こんにちは」


 その圧力に当てられたミロクは、恐る恐るといった感じで挨拶をする。すると、柚月から漏れていた圧力は霧散して、ニコリと笑顔に変わりミロクを見る。


「こんにちは葉隠さん、貴女とは一度お話したいと思ってたの」


 ヒュッとミロクの口から音が漏れる。

 圧力は消え去っても、柚月を見る目力は変わっていない。まるで獲物を前にした肉食動物のような目だ。(ミロク視点)


「威嚇しちゃダメでしょ、ミロクが怯えてるでしょ」


「そんなことしてないわよ!?」


 柚月は失礼ねと言いながら、ミロクの隣の席に座る。

 これは絶対に逃さないという意思表示だろうかと不安になる。

 丸いテーブルに四脚の椅子が置いてあるだけなので、向かい側にあかりが座る以上、自然と隣になるのだが、それすらも忘れて威嚇に感じでしまっている。


「あ、あの、私、アキヒロ君のことは、あの、その、す、好きとかは、えーと、な、ないですから」


 柚月から牽制される前に、さっさと降伏する。

 きっと柚月の話とはアキヒロについてで、正妻は私だと現実を叩き付けて来るに違いないと思っている。


「葉隠さんも勘違いしないで! そういう話をしたい訳じゃないの!?」


 怯えるミロクの姿に、腹這いになって降伏する子犬の姿を連想して、物凄く悪いことをしているような気分になる。

 ただでさえ存在感が薄く小さく見えるのに、縮こまると小動物通り越して存在自体が消えてしまいそうだ。


 この子はどうやってこれまで生きて来たんだと心配になりながら、柚月は話を続ける。


「えっとね葉隠さん、私は別にアキヒロ君のことが「好きでしょ」とかじゃ?」


 柚月は邪魔をするあかりを見る。

 見られたあかりはホットラテを一口飲み、改めて柚月に言う。


「好きでしょ?」


 グヌヌッとなった柚月は、再びミロクを見て口開く。


「好きだけど、そういう話じゃないの。彼が誰を選ぶのかは、アキヒロ君が決める事だし口出しする気はないから。ただね、葉隠さんがアキヒロ君を思っていたとしても、今はそういう関係になって欲しくないの」


 どうして?と疑問に思う。

 柚月ほどの美少女ならば、男子なら喜んで付き合うだろうし、アキヒロが少なからず柚月のことを思っていると察している。

 どちらかが、一歩踏み出せば成立するだろう関係なのに、何でそんなことを言うのだろうかと不思議に思ったのだ。


「彼の家庭環境は知ってる?」


 その問いに首を振って知らないと答える。


「アキヒロ君のところは母子家庭で、最近までかなり厳しい生活を送っていたみたい。その生活が改善したのがごく最近、アキヒロ君が探索者になってから。それでね、何が言いたいのかって言うと、アキヒロ君の探索者活動の妨げになるような行動は控えて欲しいの」


「……どうして、どうしてそれが妨げになるの?」


「今の彼は一杯一杯な状態。余裕があるように見えて、家族のことで精一杯。そこに、ただ自分の感情を優先した人が入れば、彼はきっと持たないと思うの。勿論、彼の方から支えて欲しいって言って来たら、受け入れるつもりだけどね」


 この女子高生は、本当に自分と同い年なんだろうか?


 とてもではないが、そこまで考えが及ばなかった。もしも感情を抑えきれなくなったら、なりふり構わず行く自信があ……は無いが、少なくとも、何らかのアプローチはしていただろう。

 そして、それが重荷になってしまうなんて想像もしなかった。


 目の前の柚月という女性が、遥か遠くにいる存在のように感じてしまう。


「ミロク、騙されちゃダメよ。これは柚月の牽制だから、アキヒロ君のことは、私が一番分かっているっていう遠回しな主張よ」


「もう!変なこと言わないでよ!」


「うえーん、柚月が怒ったー」


 そんな遠くに行った柚月の存在を、あかりが近くに引き戻す。

 その反応は普通の女子のもので、そう変わらない気付いて安心する。


「でもさ、柚月もうかうかしてられないよ」


「何の話よ?」


「さっきミロクの素顔見たけど、結構可愛いよ。しかも、メイクすれば幾らでも綺麗になるタイプ」


「ぐふっ」


 いかん、思わず声が漏れてしまったと慌てて下を向くミロク。その様子を見て、柚月は品定めをするような目をする。


「ふーん、それも含めて決めるのは彼よ」


「いいの、お姉さんみたいに積極的に行かなくて?」


「姉さんを見てるから、私は待つのを選んだの。あの修羅場を見てたら、とてもじゃないけど無理だわ。だけど、それなりに、アプローチはするつもりよ」


「あの、お姉さんって……」


「うん、神庭由香っていう、ある意味学校では有名な人ね」


 ミロク達が通う高校の中でも、一際目立つグループがいる。それは割と普通な男子の周りに、学校でも指折りの美少女が集まっているという、何ともギャルゲー感漂うハーレムのような集まりだった。

 一応、探索者としても成功しているようで、20階を突破したと噂にもなっていた。


 そのメンバーの中に、柚月の姉である神庭由香がいる。

 はっきり言って美人だ。十人中十人が美人と言うくらいには美人だ。どうしてこんな美女が、あの冴えない男に擦り寄っているのか分からない。

 そのせいで、一部の男子が嫉妬に駆られて、闇討ちに走っているが、そのどれもが返り討ちに合っている。


「姉さん、最初は日野さんに一途だったんだけど、最近変なのよねー」


「へー、どんなふうに?」


「日野さんとだけじゃなくて、パーティのみんなと一緒にいたいんだって」


「ほふっ!?」


「どうしたのミロク!?」


「びっくりした!」


 ミロクは思い出していた。

 探索者云々で、同じパーティ内では恋愛は成就しないという噂を。

 まさか、あれだけ好き好き言っているようなパーティでも、そんなことになるなんて、これじゃあミロクがアキヒロにアタックしても無駄じゃないのかと思ってしまう。


 そもそも、こんな美人に勝てる要素などあるのだろうか?


 うーん、無理。

 勝ち目が無いどころか、比べるのも烏滸がましいほどの差がある。

 ワンチャン、JKミロでならいい勝負できそうだが、あれはあくまでもカメラの前での顔だ。プライベートでもJKミロをやり続けるのは、とてもではないが無理な話だ。


 もしも他に手があるとしたら、寝込みを襲って既成事実を……。


「きゃー!?」


「なに!どうしたのミロク!?」


「ちょっと、この子大丈夫なの!?」


 突然発狂し出したミロクに驚いて、アキヒロ達、厄介な娘を仲間に入れたんじゃないだろうなと心配になるのだった。







「え?何だよお前ら、女に負けたの? ダッサ、それで俺に泣き付いて来たのか?」


 新年が明けて少し経ち、あと数日で冬休みも終わろうとしていた。

 そんな残り少ない休日の日に、閉店したカラオケ店に侵入して拠点にしている連中がいた。


「いや、そういう訳じゃ……」


「何だよ、はっきり言えって、僕ちん女に負けて恥ずかしい写真撮られまちた〜、助しゅけて下しゃい〜ってよぉ」


「誰がっ!?」

「止めろ!」


 彼らは学生や不良で、数にして二十人余りが集まっていた。

 学生達が通う学校はそれぞれ違っているが、ある共通のサークルに所属して知り合った仲間だ。

 そのサークルは探索者サークル。

 殆ど名ばかりのサークルだったが、その名を聞いて探索者を志す者達が集まって来たのだ。

 そのまま、探索者を目指す者だけが集まっていたら問題なかったのだが、残念ながらそうはならなかった。


 外部から、面白そうという理由だけで加わる者が加入して来たのだ。

 本来なら、関係ない奴らを追い出すことは出来た。しかし、サークルを立ち上げた者のやる気がなく、好きにしたらという態度だったので、あれよあれよと数が増えてしまい、好き勝手に振る舞う者達が増えて来たのだ。


 最初は真面目にやろうと思っていた者達も、好き勝手する奴らに飲まれてしまい、僅か二ヶ月で、そこらの不良では敵わない荒くれ者の集団が出来上がってしまった。


「何だ? 文句あるなら言ってみろや!!」


「何でもねーよっ!?」


 反抗的な態度を取っていた者が蹴り飛ばされ、地面に転がる。

 同じサークルの仲間だが、体格差があり、今の一撃で大きなダメージを受けてしまい動けなくなってしまう。


「文句があるなら言ってみろや! オラッ、速く立てよ!」


「ユウスケやめてくれ! 亮二が死んしまう!」


 体格の大きな男であるユウスケは、その静止を無視して、反抗的な態度を取った亮二を蹴り付ける。

 足を蹴り、腿を蹴り、腹を蹴り、手を蹴り、腕を蹴って、ガラ空きになった頭部を蹴り飛ばして、その意識を刈り取る。


 満足したユウスケは、はぁーと息を吐いて上着を脱いだ。

 その下には、まるでボディビルダーのような逞しい肉体があり、それだけで、この場にいる者達を威圧する。その上、獣のような顔つきと鋭い目付きで、反抗は許さないと睨み付けた。


「それで、俺に何をして欲しいんだ?」


「い、いや、俺たちは別に……」


「気にすんなよ、俺達仲間じゃねーか。ちゃーんと仲間価格で請け負ってやるぜ」


「か、勘弁してくれよ、俺たち、そんな金無いんだよ」


「働いて稼げば良いだろうが? お前ら探索者だろ?直ぐに稼げるって。一人五十万で良いからよ、明日までに用意しとけよ」


「そんな……」


「何だ?文句あんのか?」


「いや、何でも……」


「ああ、そうだ。亮二に伝えとけ、お前は百万だってな。俺に口答えした罰だ」


 反抗すれば、お前達も同じようにする。暗にそう示しており、何が言えば亮二と同じ末路を辿るだろう事は、容易に想像が出来た。


「んで、その女がどこにいるのか分かってんのか?」


 悪意ある探索者のなりそこないが、仲間を引き連れて私欲を満たしに動き出した。

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