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「アキヒロ、そっちに行ったぞ! ミロクは援護を! サトルは可能な限り引き付けろ!」
場所はダンジョン13階。
最初に三体のロックウルフと接敵して戦闘になったのだが、途中でモンスターから逃げているだろう探索者パーティとすれ違った。
いや、すれ違ったというよりも、モンスターを擦り付けられたと言った方が正しいだろう。
先に戦っていた三体に加えて十体が追加され、合計十三体と戦う羽目になってしまったのである。
「狙いが難しい!」
ミロクがクロスボウを手に矢を射る。
しかし、その矢は狙ったロックウルフから外れて、更に奥にいるロックウルフに命中する。
「落ち着いてやれ!この程度のモンスターに、遅れを取る事はないから安心しろ。 周りをよく見ろ、やるべきことを見出すんだ!」
「はっ、はい!」
クロスボウに矢を番える。
このクロスボウは本日購入したばかりの物で、一番軽く使い易い物を選んでいる。それでも、ダンジョンに潜る前に試射を何度かしただけの武器を、本来なら、実戦で使うべきではない。
それでもクロスボウを使っているのは、単純にミロクの戦力不足が故だ。
未だにレベル2のミロクでは、ゴブリンにさえ勝つことは出来ない。そして、今戦っているのはロックウルフという、ゴブリンよりも強いモンスターだ。
完全にレベチのモンスターを前にしてミロクが役に立つはずもなく、せめて遠距離攻撃を行い、モンスターの気を逸らすようにしているのである。
「すーふー。やる!」
ロックウルフを五体引き連れたアキヒロは、大きく後方に跳躍すると、大鎌を右手に持ちスキル右腕強化を使う。
そして一気にロックウルフとの間合いを詰めると、横薙ぎの一撃で二体のロックウルフの首を串刺しにする。
それで二体は始末できたのだが、宵闇の大鎌に付いた状態で重量が増し、振り抜いた勢いと合間ってバランスを崩しそうになる。
「ーきっ!」
それを覚えたての身体強化を使い、踏ん張って持ち堪える。
右腕強化に加え、身体強化で強力になった右腕は、正にゴリラ並みの怪力を手に入れていた。
ロックウルフが付いたままの宵闇の大鎌を振り回し、更に一体、二体と始末していく。
その勢いで邪魔になっていたロックウルフも大鎌から外れる。
残りの一体は、多少頭が回るのか不用意に攻め込んで来ない。
じっと待つのではなく、姿勢を低くしてアキヒロを警戒して、いつでも動けるように体勢を取っていた。
「ふっ!」
しかし、それもアキヒロからしたらいい的でしかない。
宵闇の大鎌が振られ、刃の部分が外れて飛んで行く。その刃は警戒していたロックウルフへと真っ直ぐに飛び、大きく飛び上がって避けられてしまう。
そうなるのは予測していた。
だからアキヒロは、右手に持つ柄に魔力を流す。
すると刃がUターンして、避けたロックウルフを背後から両断した。
新たに不動のスキルと玄武の小盾を得たサトルは、正に大岩のようにそこに佇んでいた。
不動のスキルは、その場から動かないことを誓約として発動するスキルである。その効果は、反応速度や膂力などの能力を爆発的に上げるというものであり、タンカーには持って来いの能力となっている。
それに合わせて玄武の小盾は、魔力を流すことで倍の大きさになり、頑丈さを増す能力を保有している。
今のサトルは、生粋のタンカーとしてそこに佇んでいた。
「おらっ!!」
どっしりと腰を落として構えたサトルは、牙を向いたロックウルフを玄武の小盾で殴り倒し、追撃して来るロックウルフに剣で応戦する。
だが、その剣はロックウルフを牽制する事しかできず、空振りに終わってしまう。
だが、それで良かった。
サトルは周囲に目配せし、仲間がいないのを確認すると、地面に手を突いた。
「ロックニードル!!」
呪文を叫ぶと、魔力を大量に消費して魔法を発動する。
ロックウルフの足元から大量の石の棘が伸び、勢いよく突き刺していく。
数にして六体ものロックウルフを一瞬で倒してしまい、それを見ていたミロクから、凄いという賞賛の声が上げられる。
ふっと笑い、ボーズの頭を掻き上げて格好を付ける。
理由は撮られているから。
いつもならしない行動だが、ミロクとカズヤの胸元にはカメラを取り付けられており、どうしても意識して動いてしまうのだ。
これで決まれば良かったのだが、魔力を使い過ぎたサトルは、ぜーはーぜーはーと息を上げて膝を突いてしまう。
もう無理、あとは編集でよろしくと動くのを止めた。
しかし、そんなアホを見逃すほどロックウルフは甘くはない。
動かない標的に飛び掛かる二体のロックウルフ。
仲間がやられ、一矢報いる為に牙を剥き出しにした二体は、その牙を突き立てる前に、頭部を炎に巻かれてしまった。
「調子に乗るからだ」
その言葉は、ロックウルフに向けられた物ではなく、タンカーなのに無茶をして倒れてしまったサトルへ向けられた物だ。
ファイアボールを放ったカズヤの手には、二つの魔法陣が展開されており、そこから先ほどの魔法が放たれたのだと理解できる。
「これで全部かな?」
「そうだな、あのアホが頑張ったおかげで、早く片付いたな」
「はあ、はあ、アホは、酷いだろ、俺の、必殺魔法、なんだぞ」
「動けなくなったら意味ないよ」
「その通りだ。体力も魔力も温存に努めろ、ダンジョンでは動けなくなった者から死ぬんだぞ」
ロックウルフとの戦闘で一番の戦果を上げたサトルだが、他二人の評価は悪かった。
時間を掛けたら倒せたロックウルフを、大量の魔力と引き換えに六体を一気に殲滅したのは良いのだが、魔力が枯渇して動けなくなるのならば、やらない方が数倍マシである。
今は倒せても、次に接敵すればサトルは足手纏いにしかならないのだ。
「マ、マジック、ポーション、くれ」
「却下だ。台車に乗れ、アキヒロが引くからな」
「え、僕?」
なんで僕がと疑問に思うアキヒロ。
大抵、アキヒロかサトルが先頭となり索敵しながら進むのだが、台車を引くとなると最後尾になってしまう。
「じゃあ、先頭はミロクさんが?」
「バカを言うな、俺がやる」
珍しいなと思いながらサトルを台車に乗せて、ロックウルフから採取し終わると、用意が整ったのを見たカズヤが行くぞと告げる。
その速度はミロクに合わせたものであり、それほど速くはない。なので、余裕のあるミロクはアキヒロと台車に乗るサトルに話しかける。
「ねえ、みんな凄いね、魔法まで使えて」
「ん? ああ、言ってなかったね。僕ら三人とも魔法関係のスキル持ちなんだよ」
「アキヒロ君も?」
ミロクはいつの間にかアキヒロの事を、苗字ではなく名前で呼ぶようになっていた。それはサトルとカズヤに対しても同様で、一人だけ苗字で呼び続けるのに疎外感を覚えたのだ。
その影響で、アキヒロもミロクの事を名前で呼ぶようになり、パーティとしての距離が縮まった気がしていた。
「うん、僕は雷属性のスキルを持ってるよ」
「俺は地属性な」
「いいなぁ、私も魔法使いたいなぁ」
「ミシロが使ってるじゃない」
「そうだけど……あれ? 召喚獣って魔法なの?」
「魔法なんじゃない、魔力使って召喚してるし……どうなんだろう?」
その疑問に、先頭を歩くカズヤに視線が集まる。
それを察したカズヤは後方を見ずに、その疑問に答えた。
「魔法に関するスキルで合っている。召喚スキルを使用する過程と、魔法を使うプロセスは同じ。起こる結果に違いがあるだけだ」
「へー、カズヤ君は何の魔法スキルを持ってるの? 火属性とか?」
「魔力量増加だ。俺が使う魔法は、魔法陣を使ったものだ」
「??? っ!? スキルなくても魔法って使えるの!?」
「使える、魔法陣はギルドで売っているから利用するといい。あっ、ネットにあるヤツは使うなよ。劣化版だったり最悪自滅しかねないからな」
右手に横に上げて、ミロクに見せるように魔法陣を展開する。
それに魔力を流すと、魔法陣が発動して一塊の水が発生して地面に落ちパチャリと音を立て、地面が湿る。
それを見て、おおっと驚きの声を上げる。
その様子を見ていたアキヒロがミロクに忠告する。
「魔法陣を使えるようになるには、結構な練習が必要になるらしいよ。それよりも先ずは、召喚獣のスキルを鍛えた方が良いみたい。まあ、個人で練習する分には問題ないんだろうけど」
へーと頷くミロク。
ポニーテールにしているピンクの髪が、歩く振動でひょこひょことなってしまい、どうにも間抜けに映る。
「それにしても、さっきの奴ら何なんだろうな。モンスタートレインしやがって」
回復してきたサトルが口にしたのは、先ほどロックウルフを大量に連れてきた探索者達のことだ。
彼らの年齢は二十歳前後。装備はそんなに充実しておらず、初期装備から毛が生えた程度だった。
一応、初期装備でも、15階までは行けるそうなのだが、それでもロックウルフを相手にするには心許ない装備である。
「うーん、マナー違反になるのかな?」
「どうなんだろ? 生き残る為なら、手段は選んでいられないと思うけど」
交差する通路を左に曲がり、先へと進む。
いつもと違う通路だが、今日は13階までの予定なので、いろいろ好きに回っているのだろう。
「別にそんなルールは無いが、後でトラブルにはなるだろうな。双方生きていればの話だが……ちっ、こっちだったか」
舌打ちをしたカズヤは、左手を上げて停止を指示する。
どうしたんだろうと道の先を見ると、二体のロックウルフが片隅に寄っており、塊に向かって頭を下げて何かしていた。
その塊が何なのか察したアキヒロは、何も言わずにミロクの目を塞ぐ。
「なになに!?」
まさかの背後からの急接近に、顔を真っ赤にするミロク。
「ごめん、アレは見ない方がいいから……」
「えっ?」
それを聞いても理解出来ないミロクと違い、サトルは察したらしく、以前見た人の亡骸を思い出した。
「少し待て」
そう指示を出したカズヤは、一人でロックウルフの元へと向かう。
敵の接近に気付いたロックウルフが、カズヤに向かって駆け出した。しかし、カズヤが何かをやったのか、ロックウルフの動きが止まり、首と足が切り離され一瞬で絶命する。
カズヤは倒れたロックウルフの横を通り過ぎると、横たわる塊に手を伸ばして何かを取った。
そして、その塊に手を合わせて、立ち上がって戻って来る。
「どうだった?」
「女性のようだ。残念ながら、欠損が多くて顔の識別は出来なかった」
「……そっか、引き返す?」
「もう少し進もう、まだ仲間がいるようだからな。ギルドカードくらいは、持って帰ってやりたい」
見付けなければ無視できたが、発見した以上はそれなりの対応をしてやりたかった。
また、今のやり取りで何があったのか理解したミロクは、息を飲み黙ってアキヒロに従った。
失敗した探索者の成れの果ての横を通り、先に進んで行く。
その先には、男性探索者だった物が倒れており、ギルドカードだけを引き抜くと、この探索を終えた。
ミロクにとって、ここがどれだけ残酷な世界なのか、十分に思い知らせる探索となってしまった。




