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「なあミロミロ」
「なに?」
「探索者になって動画撮るって言ってたけど、どんな動画撮るつもりなんだ?」
ミロクのスキルを見て、十分に使えると確信したカズヤは、正式にミロクの加入を認めた。ミロク自身の戦闘能力はゴミだが、そっちの方はこれから鍛えて行けばいい。
伸び代を考えると、下手な戦闘系スキル持ちよりも上なので、将来性は抜群と言って良かった。
10階で何度かゴブリンを倒したあと11階に来ており、ここでは相変わらずモンスターとエンカウントしない。
他にも探索者が多くおり、モンスターは現れ次第狩られている。
ただ、稀に狩られている者もおり、油断していい環境ではない事に変わりはない。
そんな中をアキヒロを先頭に進んでおり、真ん中に居るサトルがミロクに話し掛けた。
「どうって、ミロが可愛く活躍するところだよ」
「でもさ、探索者の活躍ってモンスターとの戦いじゃん。それって大丈夫なのか?」
「どういうこと?」
「いや、コンプライアンス的にって言うか、投稿サイトの規制は大丈夫なのかなって思って」
「え?」
「ミロミロの配信しているところって、グロ厳禁じゃん。そんな所にモンスターの死亡シーン流したら、BANされるんじゃないの?」
「…………大丈夫だよ、探索者の動画、たくさん出てるから」
「そうなのか、グロに対して寛容になったんだな」
大丈夫と言ったが、サトルの指摘を受けて心配になる。
モンスターとの戦っている動画がバズっているのは見た覚えがあるが、その投稿者のアカウントがどうなったのかまでは見ていなかった。
あれ?もしかして消されちゃってる?
もしかして、私間違えてる?
不安になるが、それは帰ってから確認すれば良いと結論付けて、今は撮影に集中しようと気持ちを切り替える。
一応、挨拶とミロクがジャンボフロッグを倒す場面は撮影させてもらっているが、正直、これでバズれるとは思えない。
せめて、一番人気が出た動画に匹敵する映像が欲しい。それもミロクが活躍しているものを。
あの動画の人は凄かった。
正直、何をやっているのか分からなかったが、人を惹き付ける魅力があった。
体型はお世辞にも褒められたものではなかったが、それを上回る衝撃的な映像だった。
人を守り、まるで物語に出てくる勇者のような活躍だった。
私もあんな風に……。
そう思うと、自然と活力が漲って来るから不思議だ。
そんなミロクを横目に、サトルの質問は続く。
「因みに、ダンジョン関連の動画で人気なジャンルって何なんだ?」
「うーん、モンスターの討伐が一番で、次にキャンプよ様子かなぁ。あとは、スキルをお披露目するのが流行だよ」
「スキル云々は却下だな」
二人の会話にカットインしたのはカズヤだ。
「どうして?」
実は、ミロクの探索者としての最初の投稿は、スキルでミシロを召喚する所をアップするつもりだったのだ。
それが却下されては、最初の掴みが空振りに終わる可能性が出て来る。
「スキルとは探索者にとって命綱だ。それが外部に漏れて、犯罪を生業にしている者にでも知られてみろ、誘拐されるか、襲われる可能性がグンッと高まるぞ。 それを自ら公表するなど愚の骨頂だ。襲われても文句の言えないレベルのな」
「そんな……」
そこまで大変な事なのかと疑問に思うが、以前に治癒魔法スキル保持者が誘拐されたというニュースを見たのを思い出した。
確かに危険かも知れない。
召喚獣のスキルがどこまで注目されるかは不明だが、それが原因で襲われたのでは、笑い話にもならない。
「あれって、ミロミロじゃね?」
どこからかそんな声が届く。
その声は通路の途中にあるフロアからで、恐らく現役JKミロの配信を見た事がある人物がいたのだろう。
「おお、本当にミロじゃん!うけるー、何でこんなとこいんの?」
「誰ぇミロって?」
「なに、有名なの?」
「インフルエンサーだって、登録者十万近くいたんじゃないか?」
「まじぃ、すごっ」
わいわい騒がながら現れたのは、アキヒロ達とそう歳の変わらない奴らだった。
男が四人、女が三人おり、装備も初心者用の物で、更新されている様子はない。その上、武器がバットというふざけているとしか思えない代物だ。
彼らは探索者に登録したものの、碌に先には進まず11階で小遣い稼ぎをしている一般人にしか過ぎない。それを一目見て、ミロク以外の三人は理解した。
「近くで見ると可愛いな」
「俺達と遊ばない、これからカラオケ行くんだけど」
「やめて下さい。僕達、探索に来てるんです」
ぐいぐいと来る男に怯えたミロクは、喋れなくなっていた。その様子を見て、アキヒロは近付いて来る男達との間に入り、静止する。
その姿を見て、人知れずキュンとするミロク。
何だろうかこの男子は、さっきからカッコいいを出し過ぎじゃないだろうか。
「邪魔すんなよ、女の前で格好付けたいんだろうが、ここでは調子乗んない方がいいよ」
「それは、そっくりそのまま返そうか。調子に乗るなら、相手の力量くらい計れるようになってからにしろ」
アキヒロが立ち塞がりイラついた男が、眉間に眉を寄せて凄んで来る。だが、まったく怖くない。一般人がスキルを持った程度では、死線を超えたアキヒロを威圧することなど不可能だった。
更に、カズヤが男に忠告すると、一人だけでなく、他の奴らも釣られてしまったようだ。
「調子に乗んなよガキ」
「そう歳は変わらないと思うが、あんたのような脳足りんには理解出来んのだろうな」
「あ゛あ゛っ!?殺すぞテメー!!」
「待て待て、こいつらガチ勢だ」
「あん?」
「マジで探索者やってる奴らだよ、相手が悪いって」
「はあ?何で知ってんだよ!?」
「こいつら、高校の一年だよ。小川がやられたって言ってた奴だ。間違いない」
小川とは、野球部の小川太平の事だ。
以前、体育館裏に呼び出されて、殆どカズヤが片付けてしまっており、奴らが言っているのは、この事だろう。
「何だ、あんたら先輩なのか? 恥ずかしい行動は控えてくれ、俺達まで、同レベルだと思われるだろう」
「カズヤ、余計な煽りは辞めて」
「舐めやがって……」
短気なのか、今の煽りで怒り、手に持ったバット振りかぶる。そして、バットを振り下ろすよりも速くアキヒロの鎌が走り、バットを半ばから切り落とした。
カランと音が鳴り響き、場が静寂に包まれる。
その中で、黒い布が擦れる音だけが異様に目立ち、大鎌を持ったアキヒロに注目が集まる。
「やめましょう、これ以上はお互いの為にならない」
それだけで気圧された男は後退り、何も言えなくなってしまった。それに気付いた仲間は、おい行こうぜと言い、逃げるようにこの場から去って行った。
「ふむ、全員で襲って来ると思ったのだがな」
「やめてよ、僕人と戦いたくないよ」
「冗談だ」
そう肩をすくめて言うと、カズヤはミロクを見て再び口を開く。
「分かったか、スキルが知られれば、今みたいな奴らに悪用され兼ねない。運の悪いことに、お前の容姿は優れている。馬鹿をやる奴は何処にでもいると、肝に銘じておけ」
「えっ? う、うん……」
「それにしても、珍しくサトルが出しゃばらなかったな。どうしたんだ?」
そう指摘されたサトルは、気まずそうに頬を掻く。
「実はさ、今の中に同じ塾の先輩が居たんだよ。最近来なくなってたけど、まさかこんな所で会うと思わなくてさ」
「今の男?」
「女の先輩。真面目な人だったんだけどな……」
「学生の火遊びだろう。思春期なんだ、道を間違える事もある。将来、笑って話せる程度で済ませれるなら、問題無いだろう」
「どういう目線でのセリフだよ?」
「先達としてだ」
「お前は幾つなんだ」
「ふっ、男には秘密の一つや二つあるものさ」
「誰もカズヤの秘密なんて興味ねーよ」
そんなどうでもいい会話をして時間を置くと、ミロクも落ち着いて来たようで、震えが止まっていた。
カズヤとサトルは、何も無駄に話をしていた訳ではない。仲間に気を使えるくらいには余裕があり、それを実行したまでの事だ。
じゃあ行こうかとアキヒロが歩き出して、探索を再開する。
モンスターと出会わない分、スムーズに進む事ができ12階に到着した。
ここまで来ると、探索者の姿も疎らになり、モンスターともエンカウントするようになる。
ゴブリンにビックアント、そして12階から現れるロックワーム。
特にロックワームについて説明を行い、幼体が壁や地面にいる事があるから注意しろと忠告する。
「あの岩がロックワームなの?」
「うん、ロックワームは擬態が得意だからね。安全に進むなら、岩は避けて進んだ方が良いよ。あと、小さい穴があったら注意して、幼体が貫いて来るから」
「え゛?」
思っていた以上に危険で怖くなる。
歩くだけでも危険なんて、まるで地雷原の中を歩いているようである。木っ端微塵にはならなくても、足を貫かれたら、痛いどころではない。
きっとショック死する。それくらい痛いに違いない。
そう想像すると、また小さく震えてしまう。
そんなミロクの気持ちを知ってか知らずか、カズヤが一つアドバイスする。
「ミシロを召喚してみてくれ」
「え?うん、出て来てミシロ!」
現れたミシロを抱き上げたカズヤは、その目をじっと見つめて匂いを嗅ぎ、間違いなと頷く。
「ミロク、お前の召喚獣には特殊な能力があるのは分かっているな?」
「うん、ゴブリンに向かって行ったときの、だよね?」
「そうだ。あれは闇属性魔法による移動術になる。つまり、ミシロは闇属性魔法が使える」
「そうなの?ミシロ超優秀!」
「それで『モンスターを探知しろ』と命じてみて欲しい」
「モンスターを探知?ミシロってそんな事も出来るの?」
「可能性で言えば十分にある。魔法を使える者は、その属性に合った探知方法が使えるが、闇属性はその中でもずば抜けて優秀だ。もしも使えるのなら、それは大きな武器になる」
それを聞いたミロクはニンマリとして、これで撮影よろしくとスマホを渡し、ミシロを前にして片手を上げて格好良さげなポーズを取った。
「我が召喚獣ミシロよ、この地に眠るモンスターを探知しなさい!」
「なー」
ミシロは間延びした声で鳴くと、トプンと影に潜ってしまった。そして波紋のように、辺りに何かが広がっていき少し先で消失した。
「はうっ」
「魔力切れか、今ので限界のようだな。範囲にして10mといった所か、初めてにしては上出来だ」
「お疲れ様、はいお茶」
魔力切れにより座り込んでしまったミロクに、お茶を手渡す。
召喚獣の特殊能力を使うには、召喚主の魔力が必要になる。まだ探索者として、活動を始めたばかりのミロクでは、一度の狭い範囲の探知で尽きてしまう魔力量しか保有していない。だがそれも、これから増やしていけば良いのだ。アキヒロもサトルもこの短期間に、かなり増えている。
これは思わぬ拾い物だと、カズヤは内心喜んでいた。
このあと、ミロクが動けなくなったのもあり、持って来たリアカーに乗せて帰還した。
何故かこのとき、ミロクがドナドナを歌っていたが理由は不明である。




