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「おお!マジでミロミロが居る!」
「本当に加工してなかったんだ」
合流した当初、サトルもカズヤもミロクの格好に困惑していたが、ダンジョンに入ってから脱ぐと言うので移動する。
そして10階の角部屋に移動すると、ミロクはコートとサングラスとマスクを外した。
そして現れた姿は、正に動画にアップされていた現役JKミロそのものだった。
しっかりとメイクをしており、装備も女性向けの店で購入した物だ。
最近は、探索者女子なるワードが発生しており、オシャレな探索者としてファッション性に特化した商品も販売されるようになって来ていた。
白い生地にピンクの刺繍があしらわれた上下の防護服に、肩当てと胸当てを装備し、茶色いベルトを腰に巻き、クリーム色の布で腰から下を隠している。
カーキ色のブーツにはダメージがあり、使い古された風を装った作りをしている。
動き易いようにピンクのウィッグをポニーテールしており、腰に刺さった短剣が武器のようだ。
そんな短剣を引き抜いて、ミロクはシャンシャンと振り回してポーズを取る。
どう、似合ってるでしょと主張しているのだ。
「おお〜」
アキヒロとサトルは、ぱちぱちと拍手をしてミロクの姿に感嘆の声を上げる。
決して洗練された動きではないが、自分がどう動けば美しく見えるかが分かっているようで、何度も練習したのだろうと予測できた。
実際に、鏡の前で何度も練習しており、アキヒロ達の予想は間違いではなかったりする。
「よろしくね!」
これまでのミロクでは考えられないような明るい声を発して、二人を驚かせる。
「葉隠、さん?」
「ミロって呼んで」
「はい?」
「この姿の時は、ミロかミロちゃんかミロミロって呼んでくれると嬉しいなぁ」
「う、うん、ミロちゃんさん」
「ミロちゃん」
「……ミロちゃん」
「よろしくね、アキヒロくん!」
どう接していいか分からず、戸惑っているアキヒロに迫るミロク。
メイクの効果もあるだろうが、顔の雰囲気がまるで違っており、本当に同一人物なのか疑ってしまうレベルだ。
「凄くね?こんなに人って変わるんだな」
これほど人が変わってしまうのなら、葉隠ミロクと配信者であるミロを同一人物と考える者はまずいないだろう。
感心したようにサトルが呟くと、ミロクは今度はサトルの方を見てよろしくね!と改めて挨拶をした。
「可愛い」
素直な感情を口に出す。
そんなサトルの心情とは裏腹に、カズヤは先程から無言で見守っていた。
「もう良いか? ミロク、これから確認したいことがある」
「なになに、何でも言って!」
「じゃあ、召喚獣を出してみてくれ」
「えっ?」
「えっじゃない、召喚獣を出してくれ。確認しなければ、ミロクが戦力としてどの程度使えるかが分からない」
「どうしても?」
「絶対だ。早くしろ」
「…………」
「どうした、もしかして召喚獣というスキルが嘘なのか?」
「……もう、召喚してる」
「なに?」
昨日のミロクの話では、召喚獣の形は虎だという話だった。召喚したのなら、大きな虎が目の前に現れると思っていたのだが、そうではなかった。
もしかして、当たりか?
そうカズヤの胸には期待が込められる。
召喚獣には稀に、特殊能力を持つ個体が存在する。
これは、余り知られていない情報だが、召喚獣のスキルを持ち、プロ探索者になるような者の召喚獣は、大体が特殊能力を保持している。
カズヤはとある事情から、その事を知っており、ミロクの召喚獣に期待していた。
姿が見えない。
召喚主の特徴を受けた隠密系の能力か?
そう失礼な事を考えていると、どこからともなく「な〜」と鳴き声が響いた。
「ミロ、ちゃん。もしかして、それが召喚獣?」
そう言ってアキヒロが指差した方向はミロクの足元で、そこには白猫がちょこんと座っていた。
また「な〜」と鳴いた猫をミロクは拾い上げ、カズヤの方に向けた。
「ミロの召喚獣のミシロちゃん、です!」
可愛らしくウインクして、誤魔化そうとするミロク。
分かっている、無理があるのは。虎の召喚獣と昨日言ってしまったので、何を期待していたのか理解している。
「……貴様、騙したな」
「騙してない騙してない!本当に虎だから!ギルドカードにも書いてあるから確認して!」
腰にある剣を引き抜いたカズヤを見て、本気でビビりながら弁明する。
急いでポーチからカード入れを取り出し、その中にあるギルドカードをカズヤに差し出す。
そのギルドカードには葉隠ミロクの名前と顔写真、そしてスキル召喚獣(虎)の文字が記載されていた。
嘘ではなかった。確かに召喚獣(虎)だ。だが、目の前にいるのは、白猫にしか見えない。
「その猫を貸してみろ」
「ミシロですぅ、あっ!乱暴にしないで!」
ミロクから白猫をぶん取ったカズヤは、その姿をじっくりと見る。
それは確かに虎だった。
ただし、生後間もない子供のホワイトタイガーだが。
それは、詰まる所、戦力としては期待出来ないという事になる。
外れを掴まされた。
そんな気分になるかと言うと、そうでもない。
小さいなら成長させれば良い。時間は掛かるが、その方法をカズヤは知っている。召喚獣については、ここにいない友人から詳しく聞いている。
「まあ良いだろう」
「良いんだ」
「始末するかと思ったぜ」
「そんな無慈悲はせん、俺を何だと思っている」
「頼れるリーダー、厨二病」
「馬鹿、イキリくそ野郎」
「今度、じっくり話し合おうか」
いろいろと誤解がありそうなので、拳を交えて二人とは話し合いが必要だと感じたカズヤだった。
二人の事は一旦置いておいて、ミロクと向き合う。
「ミロク、お前は召喚する時、何をイメージして行っている? 強い虎か?弱い虎か?」
「どんなって、ぬいぐるみ?」
「やっぱりそうか、そんな所だと思ったが、これは難しいか?」
「あの、やっぱり駄目、だった?」
「……これは、召喚に詳しい友人から教わった話だがな」
カズヤの話は、そんなに長くはないがミロクにとっては、いろいろと勉強になる内容だった。
召喚獣は召喚主のイメージにより、その姿は形作られている。但し、最初の召喚した姿から変更するのは難しく、変化させるにも、相応の魔力と魔力操作が必要になるという。
次に、召喚獣は召喚主が成長すると、共に強くなる最高のパートナーになるそうだ。
召喚獣の中には稀に特殊な能力を持った個体もおり、中には、主人の能力をそのまま使える個体もいる。
カズヤが見たところ、ミロクの召喚獣であるミシロは魔力量は多いらしく、今後の成長次第では特殊能力を手に入れる可能性があるのだという。
「へー、じゃあミシロって戦力になるってこと?」
「お前の成長次第だ。むっ、ちょうど良いところにゴブリンが来たな。ミロク、やってみろ」
「へ?」
手早く説明を終えたカズヤは、登場したゴブリンを見てミロクに戦えと指示を出す。
召喚獣のことは分かったので、次は召喚主の力量を測る番だった。
「無理無理無理無理っ!!この前フルボッコにされたの、ゴブリンにぃ!死んじゃうよ私ぃ!」
「安心しろ、しっかりとサポートしてやる。死んでも骨くらい拾ってやるから安心しろ」
「なにも安心できない!」
絶叫するミロクに気付いたゴブリンが、醜悪な顔を更に歪めて走って来る。
そのゴブリンを見て、悲鳴を上げるミロク。
これはダメかなと思い、カズヤに僕が行くよと目配りしたアキヒロは、大鎌を手に動こうとした。
だが、それをカズヤが静止する。
「待てアキヒロ、ミシロが行った」
「え?」
その声は、カズヤ以外の三人の疑問の声だった。
カズヤは見ていた。ミロクが怯え始めてから、ミシロの様子が変わったのを。
そして、ミロクが悲鳴を上げると同時に、召喚獣のミシロは影に潜ったのだ。
トプンと波打った影は、猫が走る速度でゴブリンに接近する。そして、影から飛び出したミシロの爪はゴブリンを浅く切り裂いた。
「シャー!」
ミシロのよって付けられた傷は、致命傷になるようなものではなかったが、腹から胸、鼻に右目と確かなダメージを与えていた。
特に右目は有効で、ミシロはそれを理解しているのか、ゴブリンの死角に入るように立ち回り、その爪で傷を増やしていく。
「おお、小さいのにやるな」
「うん、戦い方が上手いね」
「ミシロ……カッコいい」
まさか戦えるとは思っていなかったミシロが、ミロクに変わって必死に戦っている。その姿が頼もしく、うちの子カッコ良いと素直に思えた。
そうだ、この勇姿を映像に収めようと、ミロクはスマホを取り出して撮影を始める。ミロクはどこまでも配信者なのである。
ミシロはチクチクとゴブリンにダメージを与えていくが、残念ながら、その命にまでは届かない。
だが、それでも十分だった。
予想以上の働きに、カズヤは満足していた。
「アキヒロ」
「うん」
カズヤが呼び掛けると、その意図を理解したアキヒロが走る。
その動きは速く、ゴブリンとの距離をあっという間に詰めて、その首を大鎌が刈り取った。
「ひょ!?」
その動きに驚いたのはミロクだ。
アキヒロの見た目は優男であり、運動が出来そうには見えない。それが、探索者登録のときに指導をしてくれた探索者よりも、動きが凄くて驚いたのだ。
ミシロを抱っこして戻って来るカッコいい死神を見て、ミロクの胸はキュンとしたのだった。




