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「ふーん、それで葉隠さんが仲間に加わったんだ」
「うん、終業式が終わったら、早速ダンジョンに行く事になってるんだ」
「ふーん、冬休みもダンジョンに行くんだ?」
「そうだね、クリスマスと正月は家には居ると思うけど……なんか怒ってる?」
「別にー、怒ってないよ、私も部活で忙しいし、暇じゃないからね」
「そ、そう。えっと、柚月さんも大変なんだね」
「アキヒロ君ほどじゃないから平気だよ」
「……やっぱり怒ってない?」
「平気平気、ぜんぜん怒ってないよ」
柚月の顔は笑顔だが、背後にモヤのような物が立ち込めている。
明らかに怒っているのだが、アキヒロには何で怒っているのかが、理解出来ていない。
二学期最後の日を早目に登校すると、柚月が先に来ており、二人で会話をする流れで新しい仲間が加わると伝えただけだ。勿論、動画云々は隠してだが。
そのどこに怒る要素があるのか分からない。
根暗鈍感系イケメンのアキヒロには、想い人の気持ちを察する事が出来ないでいた。
「なあ、あいつ殴っていいか?」
「青春なんだ、そっとしておいてやれ」
その様子を見ていたサトルの拳に魔力が籠る。
最近、カズヤの特訓のおかげで身体強化が出来るようになっており、殺傷能力が増していた。
今ならリア充を殺せる。
サトルの心には、嫉妬で醜い炎が渦巻いていた。
そんなサトルを制したカズヤは、訳知り顔でふっと笑ってみせる。その姿は、まるで若人を見守る老人のようだった。
そんな余裕ぶった態度にイラッとしたサトルは、標的をカズヤに変更する。
「なに言ってんだよ、カズヤだって非リア充だろう」
「ふっ、俺にとってリア充だろうとチー牛だろうと、何の価値も無い物差しだ」
「愛美ちゃん寝取られてるくせに、何言ってんだよ」
「ふ、ふっ……知らないな、そんな奴」
遠い目をしたカズヤは、少しだけ動揺していた。
愛美とは、カズヤの幼馴染の高遠愛美の事である。
様子の変わったカズヤを心配して、少しの間、共に行動をしていたのだが、もう面倒見切れないと逃げられたのだ。
そして今は、同じ吹奏楽部の同級生と付き合っている。
好きなのかと問われると、間違いなく好きだった。
それも幼少の頃からずっと。
つまり、カズヤは失恋したのである。
俺には関係ないと思いながらも、変な汗が溢れて来る。
そんな反応を見て、こりゃタブーだったなとサトルは今後触れない事にした。
▽
終業式も終わり、午後から探索者協会前で集合となる。
それぞれ準備もあるので、おやつの時間くらいに集まろうと話をしたのだが、何故かアキヒロはひとり早く集合してしまった。
まだ、待ち合わせの時間まで一時間くらいあり、どうしようかなぁと探索者協会の前で悩んでいた。
「あら?アキヒロじゃない」
そんな暇をしていたアキヒロの前に現れたのは、ロリだった。いや違う、九重加奈子という二つ上の先輩ロリだった。
「あっ九重先輩、こんにちは」
九重は先輩と呼ばれて気を良くしたのか、ふふんと鼻を鳴らして腰に手を当てて近付いて来る。
所作の一つひとつが何気に絵になるな、この先輩。なんて感想を持ちながら、何の用だろうと首を捻る。
「おめでとう、ユニークモンスター倒すなんてやるじゃない。流石は私の後輩ね!」
小さい手で拳を作り、ポンッとアキヒロの腹にタッチする。
先日のユニークモンスターの事は、メッセージで九重に知らせており、そのお祝いをしてくれたようである。
何気に顔も誇らしそうだ。
「ありがとうございます」
そう短く返したアキヒロは、少しだけ嬉しくなって頭を掻く。一人でやった成果ではなく、サトルとカズヤと共に成した事が誉められたようで、嬉しかった。
「私達のときも大変だったけど、貴方達もよく生き残れたわね」
「はい、仲間が居なかったら、まず生き残れませんでした。実際、死に掛けましたし」
「でも、その分、得た成果も凄かったでしょ?」
「はい」
ユニークモンスターを倒して得た物は、玄武の小盾というアイテムと、新たなスキルだった。
アキヒロが得たスキルは、右腕強化という部分的な強化能力だが、その力は思っていた以上に使い易い能力だった。
これまで両手で使っていた宵闇の大鎌を、右腕一本で振るえるようになり、下手な防具よりも頑丈な腕になっていた。
因みに、玄武の小盾はサトルが使うようになっている。
サトルが新たに得たスキルが、不動という防御に適したスキルというのもあるが、仲間の中で最も弱いというのもあり、最善の選択だったのだ。
この力があれば、もっと先に進める。
更に、新たな仲間も加わる。
きっと、攻略スピードも上がるに違いない。
「九重先輩は一人なんですか?」
「私は待ち合わせよ、アキヒロもでしょ?」
「そうですね。……実は、これから新しい仲間が増えるんです」
「あら、そうなの。仲間が増えるのって良いわよね、パーティの雰囲気も良くなるし」
「そうなんですか? 新しく加わるのが、これが初めてで、どうなるのか不安になっていたんですけど、それを聞いて安心しました」
「それは違うわよ、私達の場合は巫世がいい子だから良かっただけ。アキヒロ達が合わないと思ったら、さっさと切り離さないとダメよ」
「はい、肝に銘じておきます」
そうこうしている間に、九重の仲間である日野達が通りから歩いて来るのが見えた。
愛する人の登場に、九重は輝く笑顔を披露する。
「じゃあねアキヒロ、頑張りなさいよ」
「はい、先輩もいろいろと頑張って下さい」
「生意気言うな」
舌を小さく出してべーっと顔を顰めて見せた九重は、体と同じ大きさの杖を持って、仲間の元へと走り去ってしまった。
日野達がアキヒロの方を向いて、手を上げていたので、アキヒロも会釈をして返した。
また一人だなと思いながら、スマホで時間を確認すると、あと三十分ほどで待ち合わせの時間になる。
探索者協会の売店で暇つぶしでもしようかなと考えていると、またしても声を掛けられた。
「……の君、…野君、美野君」
段々と近付いて来る声に、どこからだと見回していると、その声は正面から発せられていた。
てか、目の前に居た。
「っ!?」
割とガチで驚いたアキヒロは、咄嗟に宵闇の大鎌で振り払おうとしてしまう。
それが、これから共にダンジョンに向かう葉隠ミロクだと気付いて、ギリギリで動かさないですんだ。
「あっ葉隠さんか、どうしたのその格好?」
平静を装い、ミロクの格好を尋ねるアキヒロ。
今のミロクの姿はロングコートを羽織っており、コートに付いているフードを目深に被り、サングラスにマスクという、何処のサスペンスドラマの犯人だとツッコミたくなるような格好だった。
ましてや、こんな装備でダンジョンに潜れるはずもなく、カズヤが見たらブチ切れるレベルのふざけ具合である。
「その、衣装着てるから、恥ずかしくて……」
「衣装?」
その疑問にコクリと頷くミロク。
「もしかして、今日から撮影するつもりなの?」
「……うん」
サングラスとマスクに隠れて顔を確認できないが、良い笑顔なのが良くわかる反応だった。
マジかよこの女。流石に実力も分かってないのに正気か?
アキヒロにしては珍しく、そんな感想を持ってしまった。おかげで、先ほどの九重の言葉が頭を過ぎる。
〝合わないと思ったら、さっさと切り離さないとダメよ”
あの先輩は、何だかんだで良いアドバイスをくれる良い先輩だと、改めて尊敬する。
「装備とかはどうするの?」
「それ含めての衣装だから大丈夫。ただ、ここだと目立っちゃうから恥ずかしい」
その姿をネットの海に流すのに、恥ずかしいとは何なんだろう。
目立ちたいのか、隠したいのかよく分からないミロクの行動に頭を悩ませる。
ミロクはネットの世界での人気が欲しいだけで、リアルで人気が欲しい訳ではない。
現役JK配信者ミロとしての数字が欲しいだけで、葉隠ミロクとしての人気は求めていない。チヤホヤはして欲しいとは思っていても、それはミロのときだけで良い。
欲を言えば、葉隠ミロクという存在感が増して、周囲に認識してくれたら嬉しいなとは思っているが、その程度である。
その辺りの拘りを理解出来ないアキヒロにとっては、ミロクという存在が未知の何かに見えてしまった。
「……美野君の格好って、わざと?」
「え、何が?」
急にミロクに指摘されて、何の事か分からなかった。
「その……死神みたいなマントと鎌……」
それを聞いて、ああと納得した。
父親の形見を使うようになって、周囲から何度か言われた覚えがある。サトルからも言われたし、田中からも引かれた気がする。それでも、これ以上の装備がないので仕方ない。
「わざとじゃないけど、何処かおかしいかな?」
「おかしくない、よ? えっと、これ着けてみて」
そう言って渡してきたのは、目元が細く開いているだけの白いシンプルな仮面だった。
どうしてこんな物を持っているんだと思わなくもないが、これも衣装の一つなのかと勝手に自己完結して、何も考えずに仮面を着けてみる。
「……似合ってる」
「今の間はなに? 何でスマホを構えてるの?」
スマホで写真を撮ったミロクは、はいと画面をアキヒロに向ける。
「……おお」
そこには、ハロウィンでも見掛けないような、迫力満点の死神が写っていた。
これは妹のリナが見たら泣きそうだなと心配になりながら、仮面を取ってミロクに返した。
「動画に出る?」
「遠慮しとく」
何の誘いだと思いながら、二人でサトルとカズヤが来るのを待つ事にする。
横に立ちふらふらとするミロク。
存在感が極端に薄いが、近くにいると辛うじて感じ取れる。この女子は、どうしてこんなに存在感が無いのだろうかと、アキヒロにとってどうでもいい内容を、待ち時間を潰す為に考察してみる。
ミロクの格好はかなり不審者だが、二人で並んで注目されているのはアキヒロの方である。
その凶悪な格好も関係あるのだろうが、顔を隠しているという不審者具合で言えば、ミロクの方が上だ。
それなのに、アキヒロの方に視線が集まっている。
どうしてだろう?
ミロクはアキヒロに比べて小さいが、視界に入らない程ではなく、見ればしっかりと認識出来るのに、印象に残らない。
存在感が薄いというのなら、それもまた一つの個性でないかと思うが、それすら忘れてしまいそうなほど、印象に残らない。
「…………えっ?」
アキヒロの視線に気付いたミロクは、フルフルと震え始めた。
不審者な格好をしているのに、まるで小動物のような反応をしている。
相手の油断を誘うような行動に、認識し難い存在感。
そこで、一つの可能性を思い付いた。
「葉隠さんって、もしかして暗殺者?」
「……何言ってんの」
ミロクの震えがピタリと止まり、割とマジトーンで返された。
パーティメンバーの中で、割とマシな方だと思っていたアキヒロの株が、ミロクの中で暴落した瞬間だった。
そうこうしている間に、他二人も到着した。




