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『みんな見ってるー!現役JKミロの部屋だよ!今日はぁ、マ◯カー1位取れるまで終わりません耐久配信だよ。みんな参加してね〜』
『この!?どけ!邪魔だっつの!あ゛ーーッ!?!?いじめいじめ!?いじめじゃん!さっさと行けよオラッ! ごめんなさいごめんなさい!調子乗りました!ごめんなさい!』
『じゃあね〜今日も楽しかったよ〜。あと××さんは甲羅当てたからブロックね、まったミッロね〜』
スマホの画面にはピンクの髪の少女が映っており、元気から始まり、激しくなり、最後は疲れたのか、のんびりと動画を締めていた。
「凄いな、同一人物とは思えん」
カズヤ達三人は動画を見て、目の前の女子がこれをやっているのかと驚いていた。
「キャラが変わってる」
「…………」
「あう……もう見ないで下さい」
三人に驚かれて、顔を真っ赤にするミロク。
仲間になった以上、チャンネルは教えるべきだろうと、プリントアウトしておいた自身のチャンネル画面を渡したのだが、まさか目の前で再生されるとは思わなかった。
考えてみれば、同級生で教えたのはこれが初めてであり、こうやって感想を聞くのも初めてで、もの凄く恥ずかしかった。
「ここまで違うのならば、誰も同一人物だとは想像もつかないだろう」
「登録者8万人だって、凄く頑張ってるんだね」
「あぅ」
「…………」
アキヒロの言葉が嬉しくて、ミロクは俯いてしまう。
画面越しに褒められる経験はあっても、面と向かって言われたのは久しぶりだった。
「……」
「さっきからどうしたんだサトル。今日はいつも以上に変だぞ」
「画面の中の子が可愛いくて尊い」
サトルはボーとした表情で画面を見ていた。
「加工だろう」
「それでも可愛い」
「加工してない、から!」
気弱なミロクでも、流石にその言葉は看過できない。
これでも、しっかりとメイクを勉強して魅せ方を学んでいるのだ。その技術は、それなりのものだと自負している。
だから加工疑惑を否定した。
努力して手に入れたものだと、ミロクが胸を張って言える数少ない物の一つなのだ。
そして、その否定にサトルが衝撃を受けたのは言うまでもない。
画面の中の子が実在するのかと、サトルは自身に問い掛ける。
大抵の女性配信者は、一握りの美人か、加工アプリを使っているのだろうと思っていた。だが、それが事実だとしたら、目の前の女子は、サトルが敬愛する九重加奈子に匹敵する人物という事になる。
スマホの画面を見る。
ピンク色の髪をツインテールにして、眠そうなのにぱっちりとした目や、幼いながらも色気のある口元、小ぶりだが整った形の鼻。全体的な見た目はロリ寄りながらも、大人びた雰囲気を持つ神秘的な少女。
こんなのが本当に実在するのか?
いやまさか、期待して裏切られるのが落ちだ。
だから適当に返しておこう。
「マジで!?」
駄目だった。
割とテンション高めの血走った目は、ミロクを酷く怯えさせてしまう。
「ひゃーっ!!」
ゴブリンにボッコボコにされた時のような恐怖が湧き上がる。つまり、サトルをゴブリンと同レベルの危険な存在なのだと認知してしまった。
「サト落ち着いて、葉隠さんが怯えてるって」
「でもよう、本当に加工してないか気になるじゃん。アキだって気になるだろ?」
「全然」
「ちょっ!?どんだけ枯れてんだよ!この画面の女の子、超絶可愛いぞ!それが近くにいるなら、一度は拝んでみたいと思わねーのか!?」
「あっうん、そうだね、気になるね、だから落ち着こうか」
ミロクを庇うようにアキヒロは立つが、サトルの勢いに押されてしまい、少しだけ同意してしまう。
実際の所、ミロクがどんな顔をしていようが、まったく気にはならない。
何故ならアキヒロは、神庭柚月が好きだから。
根暗系イケメンのアキヒロは、一途なのだ。
どうどうとサトルを制して落ち着かせると、ようやく冷静さを取り戻したのか、すーはーすーはー深呼吸を始めた。
その様子を見て、もう大丈夫だろうと思いサトルの肩から手を離す。
すると、今度は土下座をしてしまった。
全然、大丈夫じゃなかった。
「お願いします!一度で良いんです!素顔をお見せ下さい!!」
それはまるで、魂の叫びのようだった。
どれだけ興味があるんだと、ドン引きである。
「醜いな」
「うるさい!それでも見たいんだ!お願いだよ〜」
余りの懇願に、思わずミロクに注目が集まってしまう。
アキヒロもカズヤもドン引きしているが、そこまで見たいのならと、ミロクにお伺いのつもりで、どう?と視線で問い掛けた。
「す、少しだけなら」
本当は嫌だ。
嫌だが、断れる雰囲気ではなかった。
本当に嫌だが、仕方ないなぁと思いながら、薄化粧をした顔を披露する事にした。
もったい付けるようにマスクを取る。
そして前髪を横に掻き分け、その素顔を男どもに披露した。
ドヤァと照れたフリをしながら見せた顔を見て、男どもはおおーと感嘆の息を漏らす。
「驚いたな」
「可愛いい」
「美人だね」
「ふへっ」
予想以上の反応に、思わず変な声が漏れる。
ドヤりたい訳ではないけど、そんなに見たいなら、もう少し見せて上げても良いかなぁ何て思っていると、次もまた予想外の反応が返って来る。
「美人だが、何だろうか……」
「うーん、薄味?」
「印象に残らないね」
「はぐあっ!?」
一番言われたくなかった。
ミロクは所謂、平均的な整った顔立ちなのだ。
決して悪くはない。一般的に美人と言われ、羨ましがられる位には整っている。だが、如何せん特徴が無いのだ。
『可愛いね』『美人だね』とは言われても、記憶に残らない。次会った時には、初めましてから始まり、また顔の感想を言われてしまう。
何度も何度も繰り返したやり取りである。
その何度も繰り返した出来事が嫌になり、いつの間にか、マスクと前髪で顔を隠すようになっていた。まだその方が覚えてもらえるから。
それでもだ、こっちの方がまだマシだと思っていても、それは本当の私じゃないと叫んでいる自分がいた。
だから、配信ではピンクのウィッグを被り、可愛いを前面に押し出したメイクで特徴を出して演じたのだ。
向かっているのは画面でしかないが、その向こう側には多くの人がいる。その人達に見られて受け入れられるのが、途轍もなく嬉しかったのだ。
特徴の無い自分が、唯一特徴を持ち認められる場所。
そこを守る為にも、この三人には力を貸してもらわなくてはならない。
だから、容姿の事で少々言われようとも、折れる訳にはいかないのだ。
マスクをして、前髪を戻して隠すと、血反吐を吐くような思いで、
「……これからよろしくです」
と小声でお願いした。
「ああ、三年までには30階に行くつもりだから、よろしく頼む」
「長い付き合いになりそうだなぁ、配信仲間で可愛い子居たら紹介してくれ」
「えっと、うん、二人の言う事は気にしないで良いからね、無理しない程度でよろしくね」
最後はともかく、前者二人には不安しか感じなかった。




