表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生は今日も迷宮に向かう  作者: ハマ
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

18

 高校一年の二学期も、あと三日となった放課後。

 さっさと帰ろうと教室から出て行く生徒、部活に向かおうと席を立つ生徒、席に座ったまま友人との会話を楽しんでいる生徒、友達を誘ってどこか遊びに行く生徒など、周囲が忙しなく動いていた。


 そんな中で、美野アキヒロも帰宅の準備を始める。

 本日は、カズヤが用事があるらしく、いつもやっている特訓は休みとなっている。

 そして友人のサトルも、これから塾のようで「じゃあなアキヒロ」と言ってさっさと帰ってしまった。


「今日は何にしようか」


 そんな事を呟くが、別にこれからの予定が無い訳ではない。

 何にしようかは、晩御飯を何にしようかの意味で、晩御飯の準備が終わればダンジョンに向かうつもりだ。

 最近は訓練にダンジョンに家事に勉強にと、忙しない毎日を送っているが、それが嫌だとは思わない。寧ろ楽しいとさえ思えている。


 さあ僕も帰ろうと教室を出て、下駄箱に向かおうとすると、角を曲がった所でか細い声に呼び止められる。


「美野くん、美野くん、美野くん、ちょっといい?」


 その声は聞き取れるかどうかという声量で、アキヒロ自身どこから聞こえて来ているのか分からずに、辺りを探してしまう。

 どこから聞こえて来るんだと見回すと、消化器が収納されている箱の所に隠れている女子を見つけた。


 その女子は前髪を下ろして目元を隠し、マスクをして口元を隠していた。


「誰だっけ?」


「うぐっ!? ま、まあ仕方ないよね、これまで話したことなかったしね」


 話どころか、こんな怪しい人物を見たこと事態が初めてである。学生服を着ているし、上履きから同級生なのは分かるが、それだけである。

 だから、素直に問いかけたのだが、怪しい女子は胸に手を置き、精神的ダメージを受けているようである。


「じゃ、じゃあ自己紹介から、するね。私は、葉隠ミロク、です……聞き覚えない、ですか?」


 おどおどとした様子の葉隠ミロクは、上目遣いでアキヒロに問いかける。

 だが、残念な事にアキヒロに心当たりは無い。

 なので首を振って知らないと告げる。


「たはーっ!? まあそうだよね、同じ中学だったけど、私影薄いからさ、あはははっ!」


「えーと、なんかごめん。僕も知り合いそんなに多くないから、元気出して」


 急に壊れたミロクに若干引くが、同じ中学出身なのに、知らないというのも失礼な気がして、形だけだが一応謝罪する。


「でも、仲良くしてる人いるんでしょ?」


「いや、まあ、探索者やってるし仲間はいるから」


「それ!それが私には無いの!?」


 先程までの暗そうな雰囲気は何処へやら、それなりの声量で詰め寄って来る。

 幾ら女子とはいっても、目元を隠してマスクをした状態で詰め寄られると、少し怖いものがある。

 だから、話を戻して落ち着かせようと試みる。


「落ち着いて、それで僕に用事ってなんなの?」


「あっ……うん、実はお願いがありまして……」


「お願い?」


 尻すぼみになる声に耳を傾けて、ミロクのお願いとやらを尋ねる。

 その内容は、アキヒロにとってかなり意外なものだった。







「それで、探索者パーティの仲間に入れて欲しいと」


「うん、葉隠さんが探索者に興味あるらしいんだ」


 次の日の放課後、葉隠ミロクからお願いされた内容をカズヤとサトルに説明する。

 この場に居るのは、探索者パーティの三人と加入希望のミロクである。


「葉隠さんってどこ中出身?」


「うぐっ!?」


「サトル、それ禁句だから」


 何気ない一言でダメージを受けるミロク。

 それを止めるように言い、同じ中学だよと告げると、マジで!?とサトルも驚いていた。

 どうやら気付いていなかったのは、アキヒロだけではなかったらしい。


 そんな二人を他所に、カズヤはミロクを見て尋ねる。


「幾つか聞きたいのだが、どうして探索者になりたいんだ?」


「それは……これをどうぞ」


 そう言って手渡された資料を見て、カズヤは顔を顰める。反対にサトルは、興味深々といった様子へと変わった。


「〝探索者配信で人気獲得計画!?”……なんだこれは」


 カズヤが口に出して読み上げると、ミロクは耳元を赤く染めて俯き、モジモジとし出した。


 アキヒロは昨日ミロクから話を聞いており、一応理解しているつもりだ。それを踏まえて、アキヒロはこの場にミロクを連れて来ている。


 それで、昨日の話の中で判明したミロクの目的は二つ。

 一つが探索者に成る事、もう一つが動画配信を行いインフルエンサーとして地位を築くことだった。





 突然だが、葉隠ミロクは動画配信者である。

 中学時代、影が薄く引き篭もりがちな自分を変えたいと思ったミロクは、何を血迷ったのか配信活動を始めてしまった。

 当初はゲーム配信なんかをしており、中学生の、しかも女子がやっている事もあり人気は一気に出た。


 これで私も変われる!


 そう確信して、精力的に活動を行ったおかげか、登録者が一万人、二万人、三万人と増えていった。

 活動の内容はゲームや歌、ピアノの演奏や占いだったりと精力的に頑張っていたのだが、今年に入ってからパタリと数字が増えなくなってしまった。


 ど、どうして?しかも数減ってるし、なんで?


 動画を投稿すると、プラスどころかマイナスに動いたりしている事もあった。その原因が分からず、ショート動画を上げてみたりと試行錯誤してみるがどうにも変わらない。

 単純に飽きられたのか、JCというブランドが消滅したからなのか、とにかく停滞期に入ってしまった。


 どうにかしないとと焦るが、どうにもならない。

 試しに他の配信者を見てみると、同じような状況に陥っているようだった。


 しかし、そんな中でも異様に伸びている動画はある。

 それは、ダンジョンの探索動画だった。

 それも一つの動画だけではなく、幾つものダンジョンの動画の再生数が伸びていたのである。


 これだと思った。

 もう、これしかないと思った。


 なので、探索者登録を行い装備を揃えた。

 そして、モンスター相手に大立ち回りをする様子を動画に収めようとして、死にかけた。

 ゴブリン相手に、ボッコボコのボッコボコにされたのだ。他の探索者に助けてもらわなかったら、間違いなく死んでいた。

 ミロクのスキルは召喚獣(虎)と、割と珍しいスキルなのだが、使えるまでに経験と時間が必要なスキルでもある。


 これで諦められたなら良かったのだが、残念ながらそうはならなかった。


 登録者数や再生数という、目に見える数字で承認欲求を満たす方法を覚えてしまい、その快感を忘れる事が出来なくなってしまったのだ。


 何とかしないと、私のアイデンティティが死んでしまう。


 必死に考えて、簡単に結論を出した。

 一人でダメなら、仲間を募ろうじゃないかと。


 仲間の募集は探索者協会で出来ると聞いていたので、足を運んでパーティメンバー募集のサービスを利用する。

 受付のお姉さんは快く対応してくれたのだが、偶に視線が彷徨っていたりして、少し不安になった。


 そして、その不安は的中する。


 何故か忘れられていたのである。


「あ、あのー、仲間の募集は……」

「え?……あっ、ああー!?ああ、はいはい、あれね、まだ集まってないのよ」


 みたいな反応をされてしまい、結局仲間は集まらなかった。

 ここまで影が薄いのが影響しているのかと、存在感の無さに、自分自身で慄いてしまう。勿論、悪い意味でだが。


 じゃあ自分で何とかしようと行動するが、高校で探索者をやっているのが、三年生の日野を筆頭としたハーレムパーティで、他は生徒会長のパーティや二年のヤリサー的な探索者サークルしかなかった。


 可能なら女子率の高いハーレムパーティが良いのだが、そこに加入した瞬間に敵認定されそうで怖い。というより歳上に囲まれて、撮影させて下さいは絶対に許してくれなさそうである。生徒会長パーティも同様で却下するとして、ヤリサーはヤられかねないので選択肢にすらない。


 じゃあと見回した時にあったのが、同級生の男子が組んでいるパーティだったのだ。

 本当なら女子が良かったのだが、探索者という危険な活動に、女子は誘えなかった。


 モンスターは男子女子関係なく、ボッコボコのボッコボコにして来るのだ。

 普通の女子ではトラウマものである。

 だから、とてもではないが誘えなかった。というより、声を掛ける事も出来なかった。だって友達がいないから、ここ数年、クラスメイトとまともに口を聞いた記憶もなかった。

 何とか家族と配信で喋る事は出来ているが、それがなかったら、自分はどうなっていたのだろう。きっと声を失っていたに違いない。


 まあ、それは今は置いといて、最後の希望である男子三人組のパーティに加入したい。更に言えば、私が活躍する姿をカメラに収めて欲しい。


 その為に協力してくれないかな?

 どうかな?

 どうだろう?


 期待を胸にカズヤの様子を伺っていると、一生懸命作ったプレゼン用の資料から顔を上げた。


「却下だ」


 そして、無慈悲の一言で切り捨てられた。


「そ、そんなぁ」


 かれこれ二日間掛けて作った資料が、無駄になった瞬間だった。


「どうして? カズヤは魔法系スキル持ちが欲しいって言ってたよね?」


「スキルだけ見るなら大歓迎だ。だがな、動画として投稿なんて問題外だ。俺達は遊びでやってるんじゃないんだぞ」


 他にも断る理由はある。

 戦っている姿を撮られるのは良い。だが、不特定多数の人物に視聴されるのは論外だ。その行いは、自分達の手の内を晒す行為であり、悪意ある者の目に止まれば、襲われる可能性が出て来てしまう。


 そんなこと、パーティの命を預かる者として、到底容認できるはずがなかった。


 しかし、そんなカズヤの心を知ってか知らずか、どちらかというと知っていて敢えて邪魔をする輩がいた。


「まあ、待てよ」


 ポケットに手を突っ込んだサトルである。

 斜め下を向きながら、上体を逸らしているのは格好付けているつもりなのだろう。ぽっこりと出た腹が邪魔をして、イマイチ決まってないが。


「なんだサトル、まさかミロクを加入させるとか言うまいな」


「そのまさかだ」


「なに?」


「カズヤ、お前はもう少し柔軟に考えるべきだ。ミロクちゃんだって、別に遊びでやってる訳じゃない。必死に頑張って、人気のインフルエンサーになりたくて来たに違いないんだ。その覚悟があれば、探索者として大成すると思わないか?」


「えっ?」


 違う、ミロクは一流の探索者になりたいのではなく、配信者として承認欲求が満たされればそれで良いのだ。そんなちっぽけな理由なのだが、何故か拡大解釈されてしまっている。

 それを訂正したいが、何と切り出していいか分からず、あうあうしているしかなかった。


「そういう問題じゃない。映像が残るというリスクが、どういうものか理解してないと言っているんだ」


「大丈夫だって、それも俺達が確認してアップさせれば良い話じゃん。なあ、考えてもみろよ、俺達の動画見た奴らがどうするかをさ」


「なに?」


「きっと仲間になりたいって沢山集まると思うぜ、女の子だってウハウハだ。さしたらさ、そしたらさぁ!俺にも彼女出来るかもしれないじゃん!!」


「またそれか、いい加減諦めろ。いざとなれば金で買えばいいだろう」


「おまっ!?最低ー!最低な奴がいますよ、先生ー!女の子を金で買えって言う奴がここにいますー!」


「くっ!?今のは失言だ、許せ。 くそ、まだ感覚がズレてるな」


 結局はサトルの願望の押し付けなのだが、カズヤの失言もあり、流れ的にサトルに傾いてしまっている。

 そのことを察したサトルは更に勢いを付けるために、アキヒロに確認を取る。


「なあ、アキヒロだって仲間加えたいから連れて来たんだろ?」


「僕は単純に、戦力強化がしたかったからだよ。この前だって死にかけたしね」


「死に? え?」


 不穏な言葉に腰が引けるミロク。

 安全に格好良く撮影したいだけで、命までは掛けたくはないのに、何だか思ってたのと違う。


「これで二対一だ。民主主義らしく、多数派の意見を採用すべきだぜ」


「くっ! 仕方ない、戦力の補充は必要だったからな。但し、動画の確認はするからな!」


「あの、え?」


 急な加入決定に困惑していると、肩をポンと叩かれる。


「これからよろしくね」


 アキヒロのイケメンな顔が、少しだけ恐ろしく見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 始まってた~~~!!!! 最高だ!!
[良い点] 忘れてなくて嬉しいです
[一言] 新章楽しみ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ