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高校生は今日も迷宮に向かう  作者: ハマ
1章

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 いつも通りに高校に通い、放課後には家事をしてダンジョンに向かう。そんな生活を送るようになって二ヶ月と数日が過ぎた。


 本年も師走に入り、アキヒロも誕生日を迎えて16歳になる。

 誕生日は家族でお祝いをして、学校ではサトルやカズヤ、柚月にあかりもお祝いしてくれてプレゼントも貰った。

 あかりに至っては、何やら薄い本が梱包されたモノを貰ったのだが、取り敢えず机の奥に封印してある。


「大事に使ってね」


 あかりから言われた通り、大事にしているので問題ないだろう。


 一応、小川達とのやり取りに関しては、あかりの勘違いだと言ってはいるのだが、私は分かってるから安心してと聞く耳を持たなかった。

 実害がなければ良いやと放置したのだが、誕生日に渡されたモノを開ける勇気は無かった。


 そんなこんなで高校一年の二学期も終わりに近付き、冬休みに入ろうとしていた。


「どうしたんだ? サトルが虫の息だが……」


 昼休み、隣の教室からやって来たカズヤは、教室の片隅で燃え尽きたようになっているサトルについて尋ねる。


「ん〜、前に見せろって言われたやつ見せたら、ああなってた」


 アキヒロはスマホを取り出し、ある人とメッセージのやり取りをしている画面を見せた。

 それは、九重加奈子とのメッセージのやり取りで、内容の半分が日野トウヤの話で埋め尽くされており、どれだけ好きなんだと胃もたれするような内容だった。


 そんなメッセージの羅列を見たサトルは、まるで魂が抜けて燃え尽きたように真っ白になったのだ。


 引き摺るかな?

 いや、サトルなら一分後に復活してもおかしくはない。

 そう考えたら、取り敢えずそっとしておこうと放置していた。


 事情を聞いたカズヤはサトルの元に行き無理矢理立たせると、物理的に引き摺って連れて行った。


「場所を変えよう」


 カズヤの提案で向かったのは、またしても屋上に続く階段の踊り場。そこには上級生がいたのだが、前回と同じようにカズヤが前に出ると、上級生達は何処かに行ってしまった。


 二度も見せられると、いくら何でも気付く。

 カズヤが魔法を使って、誘導しているのだ。

 事実、上級生達の目線は下を向いており、こちらを見ようともしなかった。

 洗脳、催眠、人を操る魔法をカズヤは使えるのだと知り、少しだけ怖くなった。


 もしかしたら、自分も操られているのではないかと。


 そんなアキヒロの心情を悟ったのか、カズヤは笑って大丈夫だと言う。


「安心しろ、今の魔法の効果はせいぜい半刻だ。出来る事も、今みたいに移動させるくらいしか出来ない。掛けた人物に危害が及びそうになると、強制的に解除されるしな」


「そうなの? でも、凄い魔法だね」


「ああ、この魔法は覚えるのに苦労したからな」


 少しの効果でも、人を操る魔法が使えると言うのはやはり恐ろしい。使う側に悪意があれば、危害が及ばない範囲で好きに出来るという事でもある。

 そして、それに目を付ける者も出てくる。


「……それって俺にも使えるか?」


 そう、サトルのような奴が。


「……使えたとしても、お前には絶対に教えん」


「何でだよ!? いいじゃん!俺だって美人操って良いことしたい!」


「アホか、なおのこと教える訳にはいかんな」


「勉強教えたんだから、それくらい教えてくれよ!」


「誰が犯罪者になる手伝いをするか、バカ言ってないで前回の探索の報酬の話だ」


 カズヤは懐からクリアファイルを取り出すと、中からプリントを二人に渡した。その内容は、前回の探索での収入の合計から一割を渡すというものと、支出について記された物だった。

 本来なら探索終了と同時に、その日の成果は渡されているのだが、前回はユニークモンスターの素材が幾らになるのか検討する必要があり遅くなったのだ。


「どうして二割じゃないんだ?」


 当初の約束では、報酬は二割だと約束していた。それが今回は半分に減らされており、何か事情があるのだろうかと聞いたのだ。


「それは裏面にも書いてあるが、減らした分はお前達の防具を購入するのに使わせてもらう。その分は、分割にはなるが補填していく。 今は、早急に装備を整えたい」


 プリントの裏面には購入予定の防具が書かれており、金額はアキヒロが前回購入した物より上の物だった。


「おいおい、こんなもん買って大丈夫なのか? ゼロが一杯あるぞ」


「それだけ、あのユニークモンスターが高値で売れたという事だ」


「……サト、下の方に金額が書かれているよ」


「イチ、ジュウ、ヒャク、セン……六十万円」


「これで一割って書いてあるけど、前回の合計金額って……」


「そうだ、六百万だ」


 端数はプールしてあると言って、ごく当然のようにしていた。


「たった一回の探索で、それだけ稼げるのか? 探索者すげーな」


「馬鹿言うな、前回はユニークモンスターが出たからだ。あれの素材が高値で買い取ってもらえた上、ユニークモンスターを討伐した報奨金を合わせた結果だ。 何百万も稼げるようになるのは三十階以降になる」


 逆を言うと、そこまで行けば稼げるという事だ。

 改めて探索者というものが、稼げる仕事なのだと実感する。そしてそれは、命をベットしての成果なのだと理解もしている。

 前回の探索では死に掛けた。

 カズヤが治療しなければ、アキヒロとサトルの命は無かっただろう。

 強かった。

 恐ろしく強いモンスターだった。

 その恐ろしいモンスターを倒して得たお金だと思うと、これが適正価格なのかと疑問にさえ思えて来る。


 ダンジョンは稼げる。

 但し、命の保証はない。


「稼ぎたいなら、生きて実力を身に付けるんだ。話はそれからだ」


 カズヤはそう言って言葉をしめた。


 そんな話を物陰から聞いている者がいるのに気付かずに。



ーーー



 放課後になり、いつも通り剣を振って家路に着く。

 帰ったら晩御飯を作り、ダンジョンに向かう。

 食事は母が作ってくれると言っていたが、長い間作っていなかったせいか腕が落ちており、弟と妹に不評だった。なので、改めてアキヒロが料理担当になっていた。


 おかげで母の存在意義が失われかけたが、掃除や洗濯はしてくれるので、それだけでもアキヒロからしたら助かっている。


「兄ちゃん、おかえり」


 家に着くと、妹のリナが出迎えてくれた。


「ただいま」


 リナの頭を撫でて家に上がる。

 リビングに入ると子供番組の音楽が流れており、リナがテレビを見ていたようだ。

 台所には母が立っており、食器を洗っている。

 弟の姿は見えず、まだ外で遊んでいるのだろう。暗くなる前に帰って来るよう言っているので、それまでには帰って来るはずだ。


「お帰りなさい」


「ただいま。 求人?母さん仕事探してるの?」


 テーブルの上に求人情報誌が置かれているのを見て、母に尋ねる。体調は回復しているとは言っても、まだ以前のように働けるとは思えず、無理をしているのではないかと心配になる。


「そうね、リナが保育園行っている間に、数時間だけど働くつもりよ」


「……無理しないでね」


 長時間働かないなら大丈夫かなとも思うが、それでも一抹の不安は残る。

 母は条件に合った仕事を見つけており、既に申し込んでいるらしい。自転車で行けなくもない距離だが、採用となれば交通費が出るらしく、電車での通勤になると言っていた。


「ホント株式会社って、最近どっかで見たけど何の会社?」


「探索者向けのアイテムを製造しているみたいね。お母さんが申し込んでいるのはライン作業だから、受かっても関わる事はないわね」


 母の話を聞いて、どこで見たのかを思い出して納得する。

 最近目にしているのは、探索者協会の売店に行く事が多いからだ。カズヤに連れられて三人で売店に行き、良さそうな商品がないか物色している時に見たのだ。


 便利な物の多くはホント株式会社の社名があり、アキヒロ達でも手が出し易い値段の物もある。

『動きソゲール君』というアイテムも正にそれだ。

 ユニークモンスターという強力なモンスターに遭遇して、手札は多い方が良いという事になり、購入を決めている。

 尤も人気商品なので、購入出来るかは運次第になるが。


「場所はダンジョンの近くか、受かると良いね」


「ええ、かなり良い企業みたいだから、競争率も高そうだけど頑張るわ」


 笑顔の母には活力が宿り、やる気に満ちていた。




 晩御飯の準備を済ませて家を出ると、辺りは暗くなっており、弟のユウマも丁度帰って来た所だった。

 外で遊んでいたからか、服は汚れており、右脇に抱えたスケボーの車輪には泥が付いている。


「おかえり。 晩御飯出来てるから」


「ただいま。 うん、兄ちゃん今からバイト?」


「そうだね、帰りはいつも通りの時間になるから。汚れた服は籠に入れといて」


「うん。 ……あのさ」


「なに?」


「ダンジョンって大変なのか?」


 ユウマの唐突な質問に息が詰まる。

 アキヒロは、母以外にダンジョンに潜っている事を話していない。二人が危険なダンジョンに興味を持たないよう、自分が探索者になった事を告げなかったのだ。

 それなのに、ユウマは知っている。

 アキヒロがダンジョンに潜っている事を。


「……どうして、ダンジョンに興味あるんだ?」


「だって、兄ちゃん探索者なんでしょ?」


「誰から聞いたんだ? 兄ちゃんが探索者だって?」


「……兄ちゃんのスマホに書いてあったから」


 ユウマから聞いて、しまったと思った。

 アキヒロとユウマは同じ部屋で寝ており、九重とのメッセージのやり取りもユウマの近くでやっていた。いくら隠していたつもりでも、完全に隠す事は出来なかったのだ。


「リナには内緒にしてね、心配かけたくないから」


「やっぱり危ないのか?」


「……うん。 でも、大丈夫だ。兄ちゃんには仲間がいるからね」


 弟の肩に手を乗せて、安心させるように言葉を紡ぐ。

 探索者になってまだ日は浅いが、危険な目に何度も遭っている。

 それでもと思うのだ。


 それでも、あの二人とならどんな困難にも立ち向かえるのではないのかと、自然と思えるようになっていた。


「だからユウマも安心して、兄ちゃんは必ず帰って来るから」


 そう、だから大丈夫。

 僕には仲間がいるからと、誇らしい思いを持ちながら弟の不安を和らげた。


 ユウマにアキヒロの思いは届いたようで、うんと頷いた。


「でも、兄ちゃん」


「なに?」


「それ、死亡フラグだよ」


「…………大丈夫だよ」



 こうしてアキヒロは今日もダンジョンに向かう。

 借金の返済もまだまだ終わらない。食べるためにも潜らなければならない。カズヤの目的は知らないけど、きっとそれを達成するまでは潜るのを辞めないという予感がある。


 きっと長く長く、探索者をやって行くんだろうなと、そんな予感を抱いてアキヒロは自転車を漕いだ。

一旦終わります。

続きを書くとしたら、無職の方でカズヤの話が終わった後になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編のファンですが、スピンオフも面白くて一気に読んでしまいました。 良い話だなー的に終わると思った時に、弟の最後のセリフがグサっと刺さって、読んでて変な声が出ました。 読者の感情を揺さ…
[良い点] 面白かった!田中のデブでの能力アップがずっと気になっていたけど、やっぱり異常なんですね。 [気になる点] サトルが、人の話聞かない、人の気持ちより自分優先なところ。催眠とか手段与えたら、積…
[良い点] 面白いです [気になる点] 危うく本編より面白く感じてしまいました やはりラブコメと個性ある友人と主人公気質のある主役の王道の物語は惹きつけられます
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