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高校生は今日も迷宮に向かう  作者: ハマ
1章

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13/32

13

 次の日、アキヒロは朝から呼び出された。

 呼び出して来た相手は小川太平だ。

 野球部の朝練がまだ行われているようだが、小川と仲の良いクラスメイト達に囲まれて、強制的に体育館裏に連れて来られてしまう。


 体育館裏と言っても、フェンスを挟んでこちら側は丸見えなので隠れられていない。

 ただ、駅とは反対側なので、登校する生徒数はそれほど多くない。


 この状況を見れば、暴力的な出来事が起こるだろうと誰もが思うだろう。そう思わせる程の苛立ちが小川から伝わって来る。


 そんな小川達に向かって一歩前に出る。


 カズヤが。


「それで何の用だ」


「……お前に用はねーよ」


 登校途中で呼び止められたアキヒロを見ていたカズヤが、仕方ないなとやれやれしながら付いて来たのだ。


「こっちは大アリだ。 うちのメンバーを連れて行ってどうするつもりだ? ふざけた事ぬかすようなら、唯では済まさんぞ」


 内容は少々乱暴だが、声音が平らで恐ろしさは感じない。そのせいか、カズヤの厨二病が広まっているからなのかも知れないが、小川達は完全に侮っていた。


「おいオタク野郎、邪魔すんじゃねー。 用があるのは美野だけだ、邪魔するなら力尽くで退かすぞ」


「お前は話が通じない猿か? 俺はどうするつもりだと聞いたんだ。暴力で来るなら、こっちも容赦せんぞ」


 片目をつぶり髪を掻き上げて、やれやれ仕方ないなをするカズヤ。それにピキる小川達は悪くないのかもしれない。


「なあ、こいつやっちまって良いか?」


「美野の前にやっちまおうぜ」


「朝から不快にさせんじゃねーよイキリ野郎が!」


 小川の仲間もカズヤの態度に苛立ち、暴力的になっている。元々この三人は、小川がやり過ぎないように止めるつもりで来ていたのだが、それをカズヤが台無しにしていたりする。

 もうコイツはやってもいい、きっと誰も文句は言わない、むしろ感謝されるに違いない。

 ある意味使命感のように、コイツには分からせる必要があると彼等の中の正義感が駆り立てていた。


 そんな彼等を見て、はぁと溜息を吐いたカズヤは、手をクイクイッと手招きをして挑発する。

 もう彼等の血管は、はち切れんばかりに浮かんでいた。


「ちょっと待って!ちょっと待って! 僕に用があるんでしょ!? 僕の為に喧嘩は止めてよ!」


 これは流石にまずいと思ったアキヒロは咄嗟に止めに入る。若干、言動が乙女だが、それだけ焦っていたのだろう。


「……やっぱり」


 しかし、その様子を影から見て勘違いする存在がいた。

 それは柚月の友人の有明あかり十五歳。

 彼女はそっち方面に敏感で、アキヒロが呼び出されたのを見て、もしかしてと思ったのだ。

 そしてそれは的中しており、歓喜のあまり声を出してしまった。それが原因で全員が彼女に注目する。

 しまったと思った彼女は、顔を赤らめて走り去って行く。

 もっと見ていたかったが、私が邪魔で発展しないかもと心配したのだ。

 きゃーっと歓喜の声を上げて、これからの学校生活が楽しくなりそうだと嬉しくなった。

 アキヒロ×小川かアキヒロ×カズヤ、はたまた複数で……あかりの脳内は腐っていた。



「……今の絶対勘違いされたぞ」


「……あとで誤解だって言っとくよ」


 その前に広まったら意味がないだろうがと思いはするが、今はこっちが先だと小川はアキヒロに向き直る。


「前にも言ったよなぁ、神庭に近付くなって」


「それは聞いたよ、でも、僕は頷かなかったよね?」


 その回答が気に食わなかったのか、小川はアキヒロに近付き胸ぐらを掴んで引き寄せる。

 間近に迫った小川の顔は怒りに満ち溢れており、その手はいつでも殴れるように拳を握っていた。


「舐めるなよ、少し優しくされたからっていい気になりやがって。 テメーと神庭じゃつり合ってないんだよ!」


「なるほど、恋慕ってやつか」


 怒る小川にアキヒロも反論しようとするが、何故か横に立っているカズヤが、顎に手をやりフフッと笑いながら答える。

 何でお前が出てくんだよ。

 誰もがコイツ邪魔だなと思いながらも、無視する事に決めた。


「そんなっ「青春だな。若い者の特権でもあるが、暴力に訴えても何も解決はせんぞ」


 しかし、無視は許さないとばかりに、カズヤがしゃしゃり出て来る。しかも、小川の耳元という接近ぶりである。


「さっきから五月蝿いんだよ! 何なんだテメーは!?」


「何なんだ……か、そうだな、救世主、とでも言っておこうか」


「ただの厨二野郎じゃねーか!」


 フッと笑い、ドヤ顔のカズヤに苛立ちが向かう。

 こんなに不快な奴がこの世にいるのか?

 いやいない、こいつは人じゃない、きっとゴキブリか何かに違いない。

 美野よりも先にこっちだと、虫を潰すために拳を握る。


 邪魔するのが悪い、面白がって他人様の事情に首を突っ込むのが悪いと、小川は自分に言い聞かせて、今度こそカズヤに襲い掛かった。


「フッ、暴力に訴えるか、そんな事では女にはモテないぞ」


 小川の拳をひょいひょいと躱わすカズヤ。喋りながらでも余裕で、暴力的な男はモテないぞと教えてあげる。

 そんな余裕な態度に、更に怒りを募らせる小川。とその仲間達。


「うるせー! お前みたいな下らない奴に言われたくないんだよ!!」


「俺のことを何も知らないのに、酷い言い種だな。 まあ、小川程度では、俺の底は測れん。 それにしても、何故アキヒロに突っかかる? そんなに柚月が好きなら告白すれば良いだろう? いや……そうか、小川、お前、フラれたのか?」


 小川の攻撃を難なく避け、去なし、言葉を続けて、肩をポンと叩いた。

 事実を察したカズヤの顔は悲しみに満ちており、小川に深く同情しているように見えて、実の所かなり小馬鹿にしていた。


「……テメー」


 小川は動きを止めて、怒りでプルプル震えている。

 どんなに表情が同情的でも、バカにしているのは分かるものなのだ。

 それに、小川が柚月にフラれたのは事実だったりする。中学で一度、高校で一度告白してフラれているのだ。その理由は暴力的な性格が原因なのだが、それに気付いていないのは小川だけだった。


「小川……悪い事は言わない、諦めろ。 お前には似合わない」


「殺す!」


 怒りが増した小川の攻撃は苛烈さを増す。

 以前、アキヒロがやられた時よりも勢いは上で、運動部の高い身体能力を活かして拳と蹴りが繰り出される。

 それでもカズヤには届かない。

 激しく動いているだけで、その動きに技術は無く、真っ直ぐでフェイントも無い。

 この程度なら、アキヒロでも楽に避けれるレベルだ。

 それも当然だろう、小川は運動部ではあるが格闘技経験などなく、大振りの拳を振り回すだけ。

 対してカズヤは、運動部ではないが、ダンジョンに潜りレベルアップという基礎能力向上を行い、モンスターとの戦闘で戦いの経験を積んでいる。更に何処で学んだかもしれない技術を多く持っていた。


 例えどんなに劣勢な状況から始まったとしても、カズヤに負けは無いのだ。


「どうした、殺すんじゃないのか?」


 腕を組んで、足捌きだけで避けるカズヤ。


「はあ、はあ、はあ、黙れ、直ぐに、殺してやる!」


 息を切らして体力の限界が近い小川には、その動きに最初のキレは無く、気合だけで動いている状態だった。


「威勢だけは良いな」


 その必死さに小川達の仲間が動き出す。

 カズヤが背を向けた時、一斉に襲い掛かったのだ。

 その様子を見ていたアキヒロは、助けようと動こうとするが、カズヤに視線だけで制された。


「背後を取るのは悪くない、しかし、足音は消しておくべきだな」


 カズヤは大きく横に飛び、三人を避ける。

 着地と同時に腕を解き、間髪入れずに三人へと向かう。


「なっ!?」

「かっ!?」

「いっ!?」


 カズヤは顎を打ち抜き、鳩尾に掌底を食らわせ、金的をチョンとやって倒す。その動きは流れるように無駄が無く、熟練の格闘家のようでもあった。


「仲間を思ってやった行動だろうと、暴力を振るうのであれば、それ以上の暴力で応えるのみ」


 残心を決め、横目で倒れた者達を見る。

 顎を打たれた者は脳が揺らされ、掌底を食らった者は吐きそうにしており、金的を食らった者は何とも言えずにあーっと叫んでいた。

 弱い者いじめをしてしまった。

 カズヤはアキヒロの為とは言え、少しだけ心が痛ん……だりしていなかった。寧ろスッキリしていた。


 カズヤがアキヒロに付いて来たのは、危険な目に合わせた埋め合わせを出来ればと思っての行動だったが、逆にストレス解消の機会をもらったような気さえして来ていた。

 勉強勉強でストレスが溜まっていたのだ。

 仕方ない、仕方ない、カズヤにもこういう日はあるのさ。


「フッ、たわいない」


「テメー!!」


 仲間をやられ、すかした態度のカズヤに怒り心頭の小川。動こうとするが、今のカズヤの動きを見て只者ではないと警戒する。

 あっという間に三人を無力化するなど、カズヤにそんな力があるとは思いもしなかった。


「もう止めよう」


 そんな警戒している小川に、アキヒロが声を掛ける。


「僕は小川君の望みには応えないし、屈しないよ」


「強い奴の影に隠れているだけのクセに、何を偉そうに言っていやがる!」


「暴力で言う事を聞かせようとする小川君には言われたくないよ。それに、僕だってやられたらやり返すよ」


「何も出来ない奴が調子に乗るなよ! お前みたいなネクラ野郎が一番嫌いなんだよ!」


 激昂した小川がアキヒロに殴り掛かる。

 疲れているせいか、その動きは遅く避けるのは簡単だった。だが、アキヒロは敢えてそれを受けた。


「ーっ!」


 顔を殴られ、唇から血が流れる。

 殴られた箇所が熱を持ちジンジン痛む。

 それでも、この前のユニークモンスターに比べたら、大したことはない。

 あの時の経験が、確実にアキヒロを成長させていた。


 殴られても怯まないアキヒロに驚いたのか、小川は二歩三歩と後退りしてしまう。


「一発は一発だよ」


 そう笑顔を向けて言うと、小川は雄叫びを上げて殴り掛かって来た。


「おおあぁぁーー!?!?」


 アキヒロは冷静に小川の動きを見切る。

 雄叫び上げて気合いの入ったパンチに、やや左に体を傾け一歩踏み込み、今度はこちらの番とばかりに右の拳を顔面に叩き込んだ。


 カウンターが綺麗に決まり、小川は崩れ落ちる。


 意識はあるようだが、三半規管がやられているらしく、起きあがろうとしても立ち上がれないようだ。


「もう止めよう。話しなら聞くけど、力尽くで来るならこっちもそれなりに対処するよ。 僕にだって、譲れないものがあるんだ」


「く、そ!」


 悔しそうにしている小川だが、もう動く気力も無いのか、起き上がろうともしていなかった。


「無事かアキヒロ?」


「うん、大した事ないよ」


「おっ? チャイムが鳴ったな、教室に急ごう」


「え? 小川君達はどうするの?」


「自業自得だ」


「でも……」


「怪我も無い、少し脳が揺らされた程度だ、直ぐに起き上がれる。 仮に遅刻しても、コイツらは朝練という言い訳は立つが、俺達はそうは行かないんだぞ。急ごう」


「う、うん」



 アキヒロとカズヤは体育館裏を後にする。

 その後ろ姿に何も出来ず、取り残された四人は、チャイムが鳴り止んでも立ち上がれずにいた。


 あの二人を格下に見ていた。

 普段から漫画やアニメの話ばかりしていて、碌に運動していないような奴等だと侮っていた。

 その筈だったのに、何も出来ず、手加減もされてやられてしまった。

 どうなってるんだと自問自答するが、答えは一つしか見当たらなかった。


「……あいつらさ、ダンジョン行ってるよな?」


「そうだろうな」


「クソ……クソクソ!」


「すまん、俺のせいだ」


 小川が謝るが、他の三人は何も反応しなかった。





 土曜日の朝からダンジョンに向かう。

 朝食は作ってあるので、起きたら食べてと寝ている母に書き置きして家を出た。


 まだ日も出ていない時間帯から、ダンジョンに潜りモンスターを倒して行く。

 今日は昼前からダンジョンで採掘をする予定だ。

 その採掘が、どれくらい時間を費やすか分からないので、早い時間から大鎌の練習をしておきたかった。


 ユニークモンスターを倒してからも、少しの時間でも練習はしているが、思っていた以上に大鎌の扱いは難しい。

 重量があるので、下手に振り回すと体が引っ張られて転倒し、気の向くままに振れば体勢を崩す。アキヒロの能力が足りていないのもあるが、それが原因で死んでは意味がない。

 ダンジョンでは言い訳は通用しないのだ。


 勢い良く大鎌を振り、体もそれに付いて行こうと必死に動かす。

 特殊武器の講師のようにはいかないが、勢いを落とさずにひたすらに振り続ける。

 しかし、その勢いも数分で途切れる。

 無酸素運動の連続で、体力が持たなかったのだ。

 大鎌を持ち替えようとして腕に負担が掛かる。それを連続して行うのには、限界がある。


「はあ、はあ、はあ……ふっ!」


 離れた場所にいるモンスターに向かって大鎌を振る。

 とても届く距離ではない。

 だが、宵闇の大鎌に魔力を流すと、刃が切り離されモンスターに向かって飛んで行く。

 ギャッと声が聞こえ、モンスターが倒れたのも確認できる。飛んだ刃がモンスターに突き刺さったのだ。


 再び、柄だけになった宵闇の大鎌に魔力を流せば、刃が飛んで元の位置に戻る。


 宵闇の大鎌についての説明書を読み直して、運搬用に使うと思っていた脱着式の方法を試してみたのだが、上手くいっている。

 これまでに何度か試したのだが、百発百中の命中率だ。


 それでも、この攻撃方法が有効かと問われると微妙である。飛び道具としては使えるが、雷属性魔法の方が殺傷能力も上なので、飛距離を除いては魔法の方が上だ。

 それに刃を無くした状態では、肝心の攻撃ができず、防御にも支障が出るだろう。


「……課題が多いな」


 時間も昼前に差し掛かり、ひたすらに練習をしていた手を止め、倒したモンスターの素材が乗った台車を引いて地上に戻る。





「おっ、おお〜、話には聞いてたけど、なかなか物騒だなぁ」


 サトルがアキヒロの持つ宵闇の大鎌を見て若干引いていた。その原因は大鎌だけでなく、アキヒロが羽織っているマントも真っ黒で、イメージが死神そのまんまだからかだ。


「その姿を小川達に見せてやればいい、何も文句は言って来なくなるだろうからな」


 面白がっているのはカズヤだ。

 良い装備が手に入ったのなら、見た目など気にしないのだが、思っていた以上にアキヒロに似合っていて、冗談の一つでも言いたくなったのだ。


「は、早く行こうよ、採掘するんでしょ? 時間も掛かりそうだから急ごうよ」


 気まずくなって先を急がす。

 二人が何かを言うので、周りの人達も注目し始めたのだ。

 正確には、アキヒロが二人を待っている時から注目されていたのだが、ぼーっとしていたアキヒロは気付かなかった。


 探索者協会で借りた台車にピッケルやスコップなどの道具を乗せ、引っ張ってダンジョンに潜る。

 既に11階には多くの探索者がおり、殆どが採掘をしていた。

 空いている場所を探して歩き回るが、どうにも他の採掘しているパーティと距離が近くて良い場所が見当たらない。

 だからか、緊張感無くダラダラと雑談しながら進んでしまう。


「なあ、なんでこんなに採掘してんのに、ダンジョンから資源は無くならないんだ?」


「……ダンジョンは再生しているからだ」


「再生?」


「……俺も詳しくはないがな、一定まで掘り進めた場所は、時間の経過と共に元に戻るそうだ。その速度も早くてな、一晩で元の姿になるらしい」


「凄いね」


「……確かに凄い、だが、そのエネルギーは何処からやって来ているんだろうな」


 カズヤの話を聞いて、薄ら寒いものを感じた。

 多くの資源が眠り、モンスターという不可解な生物を生み出し、人に力を与えてくれるダンジョン。

 それを維持するエネルギーは何処から来ているのか、その予測が不吉なものに行き当たったので、話題を変える。


「そう言えば、小川にどうとかって言ってだけどさ、何かあったのか?」


「ああ、アキヒロに嫉妬して襲って来たんだ」


「何だよ、その面白そうな話!聞かせろよ!」


 話が小川との出来事に移り、アキヒロが事情を説明する。その中で、以前にも絡まれた話をする事になり、どうやって切り抜けたかを教えると。


「……九重先輩と知り合いになったのか?」


 それはドスの効いた声だった。

 嫉妬を含んだ感情が声に乗って、アキヒロに叩き付けられる。

 その声は、可能なら殺してやりたいという感情が滲み出ており、この時ばかりは友達選び失敗したかもなと思った。


「お、落ち着いてサト、何もないよ、何も無いから落ち着いて、落ち着いて」


 どんよりとした目が、お前は裏切り者なのかと訴えかけて来る。

 何に対しての裏切りなのかは知らないが、きっとサトルにとっては大切な事なのだろう。


 首をぶんぶんと振って否定するアキヒロ。

 呆れたように両手を上げ首を振るカズヤ。


「……まあ、そうだよな!」


 急に明るくなったサトルは、九重先輩と仲良くなるなんてある筈ないもんなと、意気揚々と前に進んで行った。

 どうやらアキヒロが小川に絡まれた話など、どうでも良かったようだ。


「おい、丁度良い所があったぞ」


 採掘に適した場所を見つけたカズヤが、二人に向かって声を掛ける。

 そこはよく見る洞窟の壁面だが、再生すると聞くと、まるで生物のようにも感じてしまう。


 壁の前に立つと、さあやろうと台車からピッケルを取り出した。

 ピッケルを振り翳し壁に振り下ろす。

 壁は思っていたよりも固く、ガンガンと打ち付けても中々掘り進める事が出来ない。

 コツがあるのかも知れないが、素人の三人には分からない。カズヤは調べては来たようだが、それは採掘方法ではなく、売れる鉱石の種類と特徴だった。

 それでも、近くの探索者がやっているのを見様見真似でやってみる。

 すると、下手くそながらに段々と削れて行き、土や岩をスコップで外に出していく。


「はあ、ドリルがあればなー」


「待って来るなら、ドリルじゃなくて掘削機だろう」


「掘削機ってなんだ?」


「工事現場なんかで地面を削っているやつだな。まあ、所謂ドリルだ」


「同じじゃねーか!? だったらさ、それ買って使えば良くないか?」


 サトルの提案に、確かにと納得する二人。

 だが、しかしとも考える。これまで11階を探索していて、掘削機を使っている人を見た事がない。使えない訳ではないのだろうが、何か事情があるのかも知れないと考えたのだ。


「それは調べてから検討しよう。 それよりも、掘削機より役に立ちそうな物があったぞ」


「何だよ、そんなのがあるなら早く言えよ」


「すまない、今思い出したんだ」


「それで何なの、役に立つ物って?」


 カズヤは徐ろに指差して、それだと教えてくれる。

 その指差された方向には、サトルがいた。


「俺?」


「そうだ。 地属性魔法の使い手ならば、壁を砂に変えて、目的の鉱物だけを取り出せる筈だ」


 それは以前出会った太った探索者、田中が見せてくれた地属性魔法を使った採掘方法だった。


「無理無理、出来る気がしない。 田中がやっていた方法だろ? あそこまで魔法使いこなせないって」


「やる前から諦めるな、一度やり方を見たんだ。試してみる価値はある」


「サト、頑張れ!」


 二人に言われて、渋々魔法を使ってみようとするサトル。

 壁に手を付き、地属性魔法を使用する。

 壁に魔力を流し込み、砂に変えようと操作する。壁の中には何か違う感触もあり、それは残すように操って行く。

 そして地属性魔法を発動する。


「おえぇぇ〜!?」


 魔法を発動した途端、サトルは膝から崩れて嘔吐する。

 魔力切れによる副作用で、激しい倦怠感と吐き気を催したのだ。


「サト大丈夫?」


「無理、死ぬ」


 死ぬ思いをして使った魔法は、50cm四方の空間が砂となり、ザラザラと崩れていた。その中には、換金可能な鉱物は何も無く、残念ながら失敗に終わる。


 四つん這いでえずいているサトルの背中を摩り、落ち着くのを待つ。

 カズヤは自分でも試しているのか、壁に手を当て集中しているが、やはりダメかと言って手を離した。


「俺では無理だな。地属性魔法スキルがなければ、この採掘方法は不可能なようだ」


 カズヤは未だに四つん這いでへばっているサトルの肩を叩いて、笑顔を向けて言い放つ。


「まだやれるよな?」


「お前は鬼か」


 容赦無いカズヤの発言に戦々恐々とする。

 こいつは何処まで人をこき使うだと、もしかしたら擦り切れて無くなってしまうまで酷使するんじゃないだろうか。

 もしかしたら、自分達はヤバい奴をリーダーに持っているのかも知れない。


「と言うのは冗談だ。 どうだ、やれそうな感触はあったか?」


「……練習すれば、出来るようになると思う」


 サトルの返答に満足したのか、カズヤはそうかと頷いてピッケルを手に取った。

 どうやら、採掘は続行のようだ。


 アキヒロもサトルに休んでいるように言うと、ピッケルを手に取り採掘を再開する。

 サトルは横になり、採掘している二人を眺めていると、道の先から太った人物が歩いて来るのが見えた。


「あっ、田中だ」


 太った探索者、田中が胸元辺りに小型のカメラを付けて歩いて来る。手にはダンジョンでは使えない筈のスマホを持っており、何かを確認しながら進んでいた。

 田中の格好は、ダンジョンだと言うのに防具を身に付けておらず、大剣を背中に携えているだけだった。


 サトルの声に反応して、採掘の手を止めて田中の方に注目する。しかし、田中はこちらに気付かずに通り過ぎて行く。画面に集中していて、周囲の探索者を気にしていない様子だ。


「おい、田中」


 カズヤが呼びかけると田中は立ち止まり、何だよと顔を顰めて振り返った。

 すると、ようやくこちらの存在に気付いたのか、笑みを浮かべて話しかけて来た。


「おう、久しぶりだな」


「ああ、田中も無事で何よりだ」


「相変わらずだなぁカズヤ、アキヒロもサトルも元気そうだな。 どうしたんだよその格好は?採掘か?」


「そうだ。田中は何をやっているんだ?」


「俺? 俺は依頼された道具のテストだな、カズヤ達は順調に探索出来ているのか?」


「順調かと問われると難しいな、取り敢えず今は採掘をやって資金を貯めている。 これから先は、十分な装備で挑みたいからな」


「そうか、魔鋼石の買取強化月間中らしいからな、高値で売れるし良いんじゃないか」


「そうだ、それを狙っている。 田中、一つ提案なんだが、前回やった地属性魔法での採掘方法を見せてくれないか?」


「ん?別に良いが……サトルがバテてるのって、採掘を魔法で試したからか?」


「そうだ。 そのお手本と言っては何だが、もう一度見せて欲しい」


 カズヤが田中にお願いすると、胸をドンと叩いてお腹が大きく揺れた。どうやら任せておけと言う事なのだろう。


「いいだろう、先達として若者にお手本を見せてやろう」


「まだ言っているのか? 歳上ぶりたい気持ちは分からんでもないが、余り引き摺るとただのイタイ奴になるぞ」


「お前ら、まだ信じてないのか? 俺はお前らよりも歳上でだな……ってこの件は前にもやったわ!」


 田中は反論を諦めたのか、壁に近付くと手を当て地属性魔法を使う。


 一瞬だった。

 一瞬で壁が砂に変わり、その砂が吐き出されて横に積み上げられた。

 その後に残ったのは、魔鋼石は勿論、鉄鉱石や他の鉱物が取り残されていた。


「どうよ、ざっとこんなもんだ。 どうだサトル、お前にも出来そうか?」


「無理無理無理無理っ!」


 首を横に振り、不可能だと主張するサトル。

 アキヒロも一連の流れを見ていて唖然としていた。魔法を使ったのは分かった。そうお願いしたのだから当然だが、それでもどうやって、この速度でこの精度で魔法が使えるのか理解出来なかったのだ。


 田中はサトルに、練習すればお前も直ぐに出来るようになると言っていたが、それはどれ程の練習が必要なのか想像も付かなかった。


「……田中」


「何だよ?」


「仲間になれ」


「嫌だよ、学生は学生同士で組んだ方が良いって、俺みたいな異物が入ったら上手く行かなくなるぞ」


 田中の能力は間違いなく高い。

 それは最初から分かっていた事だが、武器を持って戦い、魔法を使えるようになったからこそ分かる。

 田中は異常だ。異物ではなく、異常に強いのだ。

 自分達とそう変わらない年齢の筈なのに、どれ程の訓練と経験を積めばここまで強くなれるのかと疑問に思ってしまう。

 そして、もし、田中が同じパーティに入れば、きっと田中に頼りきりになるだろうなと、何となく想像出来てしまった。


「あっ、さっきから気になってたんだが、いいか?」


「なんだ?」


 田中が何か尋ねて来る。


「あの立て掛けてある大鎌って誰のだ?」


 田中が指差した先にあるのは、アキヒロが使っている宵闇の大鎌。

 アキヒロはピッケルを置いて、宵闇の大鎌を手に取り肩に掛けると田中に振り向く。


「僕のです」


 そう主張すると、田中の口元が引き攣っていた。


「おっ、おう、そうか、何つーか凄い似合っているな」


 そう口にした田中は、じゃあなと言って去って行った。



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