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高校生は今日も迷宮に向かう  作者: ハマ
1章

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「もう大丈夫ね」


 女性の優しい声音が耳に届く。

 声と同じように、優しい何かに包まれている感覚があり、いつまでもこの感覚を味わっていたいと思ってしまう。

 その優しい何かも、体から痛みが引くと同時に消えてしまい、意識が浮上するのを感じる。


「……んっ、か、あさん?」


 膝枕をされていた。

 その膝は女性のもので、目を開けて、ぼやけた視界に映る人物が母に重なって見えた。


「良かった、意識が戻ったようですね。 あと私はお母さんじゃありませんよ。 そこっ!笑わないでください!?」


 膝枕をしてくれている女性はとても美しく、神庭由香と雰囲気は似ているが、それよりも柔らかい印象を受ける女性だった。


「あはは、ごめんね美桜、お母さんって……あはは!」


 その笑い声の主は、以前、古森のパーティメンバーだと紹介された速水のものだった。

 速水は腹を抱えて笑っており、その隣にいる古森は困ったような顔をしていた。そして、アキヒロが目覚めたのを確認すると、古森がアキヒロの隣にしゃがんだ。


「アキヒロ君、無事で良かった。あんなにボロボロになって、何があったのか覚えているかい?」


「何があった……あっ」


 そうだと思い出し、上体を起き上がらせる。

 しかし、途端に目眩がして頭がくらくらとする。


「急に動いてはいけませんよ、傷は治っていますが失った血までは戻りませんから」


 美桜と呼ばれた女性は、アキヒロの背中を摩り落ち着くように促す。その手から、また温かい何かが流れ込んで来るようで、不思議と落ち着く事が出来た。


「あ、ありがとうございます」


 間近にある美人の顔を見て、思わず赤面してしまう。

 ここ最近、美人や美少女といった人達と接する機会が多くなっているが、ここまで間近に接近されたのは初めてだった。


「あー、また美桜の餌食になった子が一人と」


「麻由里、変なこと言わないでよ、もう」


 麻由里と呼ばれた女性は、呆れたように美桜を見ている。その餌食が自分の事なのだと理解して、アキヒロはなんだか気まずくなった。


「とにかく、一旦ダンジョンを出よう。 そいつは俺が運ぶ」


 そう言ったのは、黒髪のイケメンだ。

 身長はアキヒロよりも高く、体付きは細身なのだが、体幹がしっかりしているのか立ち姿に力強さがあった。


「じゃあ、その子の装備は俺が持つよ」


 最後の一人は、こちらもイケメンの男性だ。

 髪は金髪に染めており、手には薙刀を持っている。その薙刀を肩に掛けると、アキヒロの宵闇の大鎌を手に取ってくれた。


「スゲー物騒な武器だなぁ」


 金髪のイケメンはそう呟くと、一同の視線が大鎌に集まる。

 まるで死神が持っていそうな大鎌は、見ているだけで魂を持っていかれそうな錯覚を覚える。


「行こう」


 黒髪イケメンがアキヒロを担ぐと、地上に戻ろうと口にした。





 古森一行に連れられて地上に戻り、ダンジョンでユニークモンスターに遭遇したと説明すると、酷く驚かれ探索者協会で説明するよう求められた。


 どうやら、探索者協会ではユニークモンスターを倒すと、情報と引き換えに報奨金が貰えるらしいのだ。

 勿論、虚偽の情報を言えば指導されるし、酷い内容であれば粛清の対象にされる。


「では、10階でユニークモンスターと遭遇したのですね?」


「えっと、はい、多分そうだと思います」


 聞き取り調査を受けているのだが、どうにも歯切れが悪い。それも仕方ないだろう、なにせユニークモンスターと戦ったのは初めてであり、あれが本当にユニークモンスターだとは確信が持てなかったのだ。


「……良いでしょう。現在、調査員を向かわせていますので、確認が取れ次第報告いたします。 それと美野さん、ステータス確認はしていきますか?」


 ユニークモンスターを倒せば、大抵レベルが上がり、新たなスキルを得ることが出来る。その確認をするのかと、協会職員は聞いているのだろう。


「えっと、お願いします」


 この一件で古森を始め、多くの人に迷惑が掛かったような気がして、申し訳ない気持ちになり萎縮してしまう。

 その気持ちを察せない職員は、気弱な子だなぁと思いながら鑑定士に連絡を取った。



「加速……ですか?」


「ええ、レベルが上がり、新たなスキルを獲得しています。探索者カードを更新しますので、出して下さい」


 鑑定士にレベルとスキルを確認してもらった所〝加速”のスキルを手に入れていた。

 どういう効果があるのかと尋ねようとするが、鑑定士は仕事が終わったと、さっさと部屋から出て行ってしまった。


 その頃になると、ユニークモンスターの討伐が確認出来たらしく、ついでに棍棒をどうするかと尋ねられる。


「棍棒……ですか?」


 どうやらこの棍棒は特殊な素材で作られた物らしく、ダンジョン産の武器として売却出来るのだそうだ。

 それを聞いたアキヒロは、売りますと即答して、その金額を外で待ってくれていた古森達に渡そうとした。

 迷惑を掛けたのだ。

 古森達が助けてくれなければ、僕は死んでいた。

 そう思うからこそ、恩を少しでも返そうと、棍棒を売却した利益を古森達に渡したいのだ。


 最初は受け取るのを遠慮していた古森だが、アキヒロが譲らないと分かると、ポーション代だけと言って一枚だけ受け取り、美桜に渡していた。


 困った表情の美桜だが、アキヒロは頭を下げてお礼を言うので、何も言えずに受け取るしかなかった。

 これがアキヒロの感謝を受け取る行為だと理解したのと、これを断れば、アキヒロはいつまでも引き摺ってしまうかも知れないと心配したからだ。


 アキヒロという少年は、優しい少年だが、少し歪んだところがある。自分を犠牲にしてでも、家族の為に行動するよう誓いが自己催眠のようになっているが、それもサトルやカズヤのおかげで軽減していた。

 しかし、これまで家族以外の人に頼るという行為をして来なかった弊害が出ている。

 カズヤの登場で少しは人に頼る事を覚えたが、カズヤはパーティ、仲間という枠組みになっている。だから持ちつ持たれつの関係だと、心の中で思っていた。

 そして今回は、赤の他人に助けられた。

 簡単に言えば借りを作ったのだが、それがどうにももどかしくて仕方なかった。

 お礼を言っても、美桜は笑顔で気にしないでと言う。

 それをそのまま受け止めれたら良かったのだが、アキヒロの心はそう受け止める事が出来なかった。

 何かお礼をしないと。

 そう考えていた時に、棍棒を売ってお金を得る事が出来た。これをお願いしますと、古森を通じて美桜に渡そうとするが、やんわりと断られる。

 それでもと頭を下げ続けて、やっと一枚受け取ってくれた。

 それだけで、アキヒロの心は軽くなってしまった。



「アキヒロ君、困った事があれば、人に頼っても良いのよ」


 美桜は諭すように言葉を紡ぐ。

 それに頷くアキヒロだが、よく分かってないといった様子だ。

 古森に話を聞く限り、アキヒロには仲間がいる。

 せめて仲間とは、心から信頼できるようになって欲しいと願う事しか、美桜に出来ることはなかった。





「なに、ユニークモンスターと遭遇した?」


 カズヤの追試も終わり、何とか合格したら所で、アキヒロはこれまでに起こった事を二人に話た。

 

「ユニークモンスターって……なんだ?」


 カズヤが驚いた様子だったので、サトルも驚いてみたが、考えてみたらユニークモンスターが何なのか知らなかった。

 強力なモンスターだと、簡単に説明を受けたが、サトルはへーっと言った感じである。


「大丈夫だったのか?」


「死にかけた」


「おう、さらっと言うなよ、結構大事じゃねーか」


 何でもないようなアキヒロに、呆れたように様子のサトル。

 そんなサトルに、古森さん達に助けてもらったから大丈夫だと答える。


「そうか……無事で何よりだ。古森にも礼を言わなければならないな」


「何で上から目線なんだよ、ちゃんとお礼は言おうぜ」


 相変わらずのカズヤに、サトルが注意する。

 最近、サトルのツッコミが定着しつつある。厨二病のカズヤは普段はしっかりしているが、端々で天然をかまして来る。アキヒロは無口な所もあり、カズヤの軌道を修正できない。

 サトル自身もバカを言っていたいのだが、この三人ではサトルでさえ貴重なツッコミ役になっていた。


 とまあ、そんな話はどうでもいいとして、アキヒロは二人に相談をする。その内容は、ユニークモンスターを倒した時に貰った報奨金の使い道についてだ。

 その額が三百万円と大き過ぎるため、その使い道に困ったのだ。


「アキヒロ、お前はユニークモンスターから逃げたんじゃなく、倒したのか?」


「うん、死にかけたけど」


「……はぁ〜、まあいい、取り敢えず借金返済の為に半分は取っておけ、残りでアキヒロの装備を買おう。 ユニークモンスターにダメにされたんだろ、お前の装備は?」


「そうだね、防具は全部壊された」


「うへ〜、良く生き残れたな。 あっ、古森さんが助けてくれたのか」


「いや違うよ、古森さん達には倒した後に助けてもらった。瀕死の僕を助けてくれたんだ」


「もしかして一人で戦ったのか?」


「逃げれなかったから、仕方なくだけど……」


 カズヤはその返答にはぁと盛大にため息を吐くと、よく生き残れたと心の底から安堵する。

 頼れと言っておきながら一人で行動させて、危険な目に合わせてしまった。まさかユニークモンスターに遭遇するなど、想定外だったとは言え、もっと配慮するべきだった。


「それもこれも、カズヤが赤点取るのが悪いな」


 サトルが腕を組み、当然お前が悪いといった感じで頷いている。

 ぐぬぅと何も言い返せないカズヤは、悔しそうにしている。


「そんな事ないよ! 僕が大鎌の練習で下の階に行ったのがいけなかったんだ。だから、カズヤが赤点取ったからじゃないよ!」


「いや、赤点はダメだろ」


 ぐぬぬぅと更に唸るカズヤ。

 何をどうやっても、カズヤが悪いという結論に至る。

 お前が赤点を取らなければ、アキヒロが一人で行動する事はなかった。一人でユニークモンスターと戦う事もなかったと、全責任がカズヤに擦りつけられた。


「さあ! これからの事を話そう! 俺たちが躍進する為に何をすべきか考えるんだ!」


「その誤魔化しは苦しくないか?」


 ぐぬぬぬぅ〜ともう無理だと唸る。

 このままでは、カズヤは泣くんじゃないかと心配になり、アキヒロは話題を変える事にした。


「で、でもこれからの事は話し合おうよ、何をしたら良いのか分かんないし」


 それもそうだなとサトルも納得したので、一旦これからの話をしようとなった。


「うおっほん! 先ずは現状確認だ……」


 誤魔化すように咳払いをすると、カズヤは今後の課題と目標を話していく。

 その内容は、簡単に言うと装備を購入する為の資金集めだ。

 現在14階まで進んでいるが、15階ではモンスターとのエンカウント率が格段に上がる。今の初心者用装備では心許なく、耐え切れないと判断したのだ。

 アキヒロの分は今回のユニークモンスターの報奨金で揃えるとして、サトルの分をどうにかする必要があった。


「それでどうするんだよ?」


「それはな……」


 カズヤはどこからか取り出したピッケルを持ち言う。


「採掘だ」





 今度の週末は、ダンジョンで採掘をする事に決まった。

 思い返してみると、採掘をするのは初めてだ。採掘跡を漁りはしていたが、自分の手でやった事はない。

 古森に使わなくなったピッケルを貰っていたが、カズヤが提案しなければ、使う事は無かっただろう。


「お兄ちゃん!」


 今日は母に妹のお迎えを頼まれていた。

 前にやっていたように、放課後に剣を振り保育園に妹を迎えに行く。

 宵闇の大鎌があるからそっちの練習がしたいと言うと、却下された。

 カズヤが言うには、探索者にとって最もポピュラーな武器の練習はしておけと言う。大鎌のような特殊な武器は、一度失うと次が無いかも知れないからだそうだ。


 そう言えば、特殊武器の講座でも似たようなこと言われたなと思い出す。

 ましてやアキヒロが使っている大鎌は、ダンジョンから得られた物なので、代えが効かない。

 念の為に剣の練習はしておくべきだと、カズヤに言われて納得した。



 妹のリナと手を繋いで帰る。

 今日は誰と喋れたとか、何をやって遊んだとか、楽しそうに話すリナ。

 前までは保育園での話はしなかったが、最近お友達が出来たようで楽しそうにしている。


「それでね、よっちゃんがね、すべり台からね、飛び降りたの!」


 凄かったと話すリナは興奮気味だ。

 飛び降りたとは不穏な内容だが、よっちゃんと言う子は活発な子のようだ。


 うんうんと話を聞いていると、コンビニの前を通り過ぎる。もう少しでスーパーなので、そこに寄って買い物を済ませるつもりだ。


「おーい、アキヒロくーん」


 誰かから呼び止められる。

 声は後ろからであり、振り返るとコンビニから出て来た柚月とあかりの姿があった。


「リナちゃんもこんにちは」


「……こんにちは」


 先程までの元気はどこかに行き、アキヒロの影に隠れる。

 リナの人見知りは相変わらずだが、柚月には少し慣れたのか返事をできるくらいになっていた。


「ほら、リナ、ベタパンダのお礼を言おうね」


「あ、ありが……とう」


 尻すぼみになったが、しっかりとお礼を言えた。

 柚月はアキヒロ君と似てるなと思いながら、リナと視線を合わせると、どういたしましてと微笑んだ。


「リナちゃんはアンマン好き?」


「アンマン?」


 リナがコクンと頷く姿を見て、紙袋からアンマンを取り出す。


「これ食べて、買い過ぎちゃったの。はい、アキヒロ君も、温かいうちに食べてね」


「良いの? お金払うよ」


「いいよ、本当に買い過ぎただけだから」


「えっと、ありがとう」


 何かお礼をしなきゃなと考えていると、服を引っ張られる。そちらに顔を向けると、リナが困ったように見上げていた。


「いただこうか」


 リナは頷くと頂きますと言って口に運んだ。もぐもぐと食べると、美味しいと言ってニッコリとアキヒロを見上げる。

 アキヒロもアンマンを食べると、ふかふかで甘いあんこの味が口に広がった。


「美味しいね」


 そう笑いかけると、リナも笑顔で頷く。

 そんなリナの反応に柚月とあかりが、だよねーと嬉しそうに声を上げ、自分達もアンマンを食べていた。


 以前、巻き込まれた事件をきっかけに、アンマンを好きになったらしいのだが、本当に美味しそうに食べている。

 そんな二人とアキヒロは少しの時間だが談笑する。

 二人はリナにも構うのだが、人見知りのリナは小声で反応するので、それが余計に可愛いのか楽しそうにしていた。


 その様子を、道の反対側から見ている視線に気付かずに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 助けて広がるアンマン [一言] 繋がっていくのいいですねぇ
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