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高校生は今日も迷宮に向かう  作者: ハマ
1章

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 それとの出会いは唐突だった。

 10階のボス部屋を出て道を曲がると、開けた場所を見つけた。

 そこには誰もおらず、新たに探索者登録した者達が通るルートとも被っていない。丁度良いなと思い、大鎌を持って講座の復習をしていた。


 見様見真似の動き、手だけで大鎌を回転させようとすると、体が引っ張られて倒れそうになる。

 ロングソードと同じように腰を使って大鎌を振り抜く。しかし、勢いを止められずに体が持って行かれそうになる。

 今度は大鎌を振った勢いのままに体を動かし、勢いを殺さずに振り続ける。

 大鎌を振り、体を捻り回転させ、何度も何度も繰り返す。すると、大鎌を振るのではなく、大鎌に動かされているようになり足を凭れさせて転倒する。

 それを何度も何度も繰り返し、少しでも上達するように練習する。


 講師の動きは凄かった。

 軸がしっかりとしており、体勢が崩れたように見えても、大鎌の勢いを活かした大振りだったのだ。

 その光景はしっかりとアキヒロの瞳に焼き付いており、少しでも近付こうと大鎌を振るう。


 集中していた。

 だから、アレの存在に気付かなかった。


 ヒタヒタと足音を響かせて、何かが近付いて来る。

 その何かに気付いたのは、この広場の唯一の出入り口に、その何かが立ち止まったときだった。


 最初は人だと思った。

 身長が高く、ガッチリとした体格、手には棍棒を持ち、ボロくはあるが服を着ている。肌の色は濃い緑色だが、その顔には知性が感じられ、対話が可能なように見えた。


 それが人でないと理解したのは、雄叫びを上げたからだ。


「ギャギャギャギャーー!?」


 顔から知性が欠落し、アキヒロに向かって敵意を向ける。

 その目には、先程と違い狂気が宿っていた。


「ーっ!? モンスター!?」


 初めて見るモンスターに驚いて後退る。

 後退りながらも、大鎌を構えたのはアキヒロもダンジョンに慣れて来たからだろう。


「な、なんで!?」


 なんで、ここに見たこともないモンスターがいるんだ。

 そう思いながらも、最悪の予想をする。


 ユニークモンスター。

 ダンジョン内で出現する強力なモンスター。

 倒せば新たなスキルや装備を手に入れる事が出来る。しかし、遭遇した殆どの探索者が、その命を落としているとされている。そんな凶悪なモンスター。


 そんなモンスター、ホブゴブリンがアキヒロに向かって駆け出した。


 動きは決して遅くはない、それでもロックウルフを経験したアキヒロにとって、それ程の速さには感じなかった。

 それでも、ユニークモンスターという強力なモンスターの存在に当てられて、恐怖で体が萎縮していた。


「ぐっ!?」


 大振りの棍棒は、いつもなら避けれるものだ。

 しかし、萎縮した体は動いてはくれず、大鎌の柄で受け止めるのが精一杯だった。


 軽トラックに轢かれたような衝撃が走り、アキヒロの体は吹き飛ばされる。


 しっかりと受け止め防御したはずなのに、ホブゴブリンの一撃はアキヒロを浮かせ地面に転がした。

 これまでに受けた事のない威力に、驚愕し受け身も取れずに地面に転がる。


「がっ!?」


 攻撃は続く。転がるアキヒロに向かって、大きく飛び掛かり棍棒を振り下ろす。

 転がりながらも、その動きを視界の端で捉えていたアキヒロは更に転がって回避する。


 ダンッと音を立てて地面が叩かれ、地面が僅かに陥没する。ホブゴブリンは避けられた怒りからか、唸り声を上げながら、まだ立てないアキヒロを蹴り飛ばした。


「かはっ!?」


 そこでようやく、立たないとまずいと考えが巡るアキヒロ。倒れていても、敵は待ってはくれず、見逃してもくれない。戦わなければ、何も出来ずに終わるのだと、ようやく理解したのだ。


 ここにカズヤはおらずサトルも居ない。

 誰かに助けてもらえる状況ではない。

 自分だけの力で、立ち向かわなければならないのだ。



 アキヒロは痛む体にムチを打ち、一気に立ち上がると大鎌を構える。

 既にホブゴブリンの二度の攻撃でダメージを負っているが、動けない程ではない。

 僅か一ヶ月半ではあるが、レベルアップがアキヒロの体を強くしていた。


 ホブゴブリンはアキヒロの気配が、何も出来ない弱者から、噛み付く牙を持った野良犬に代わり、侮りながらも警戒して動きを止める。

 だが、警戒するのも馬鹿らしいと思ったのか、醜悪な顔に笑みを浮かべ、先程と同じように棍棒を振り回して襲って来る。


 先程も言ったが、ホブゴブリンの動きは速い。だが、ロックウルフ程ではない。

 棍棒が振り下ろされると同時に、背後に飛び避ける。

 棍棒が空を切り、風がアキヒロの顔に吹付、その威力を知らせる。


 当たればタダでは済まない。


 一撃でもまともに食らえば終わり、受け止めても弾き飛ばされる。

 当たってはいけない。

 体が痛みながらも、必死に避ける。

 背後に引き、横に飛び退き、体を捻って大鎌を振るう。


「はあ!」


 初めての反撃だったが、ホブゴブリンは上体を逸らすだけで避けて見せた。

 ならばと大鎌の軌道を変え、上から体勢の悪いホブゴブリンを襲うが、柄の部分を棍棒で受け止められてしまう。


 鍔迫り合いのようになるが、均衡は一瞬で終わり、アキヒロが力任せに後退させられる。

 体格差もあり、ホブゴブリンの方が圧倒的に膂力が強い。


 またホブゴブリンの攻撃は続く、一気に距離を詰めて来るホブゴブリンは、段々と棍棒を振る動作が小さく、そして鋭くなっていく。

 それは振る度に顕著となっていき、まるで棍棒の振り方を学習していっているようだった。


 それでも、何とか反撃しようと大鎌を操り、刃で裂こうと振り、石突きでの殴打を試みる。しかし、そのどれもが未熟な技であり、身体能力の優れているホブゴブリンには当たらない。


「くそ!」


 思わず悪態を吐く。

 最初に攻撃を受けて以降、棍棒には当たっていないが、それも段々と苦しくなって来ている。

 体力が削られ、最初に受けたダメージが地味に痛んで来ていた。


 そしてホブゴブリンの棍棒がアキヒロを捉える。


「ぐっ!」


 大振りでなくなったホブゴブリンの攻撃は、速い上に鋭く、避け切るのは不可能だった。

 棍棒を大鎌の柄で受け止め、走る衝撃に体が悲鳴を上げる。

 鋭く早くなった分、威力が落ちているが、それでもまともに食らえば、死んでもおかしくはない。

 そんな攻撃を何度も柄で受け止めれば、大鎌を持つ手にも限界は来る。

 受ける動作が少しずつ遅くなっていき、それを好機と見たホブゴブリンが動く。アキヒロとの距離を一歩詰めると、これまでの技術を無視して力任せに振り抜いたのだ。


「ギッ!!」


「っ!?」


 これまでで一番の威力の攻撃は、アキヒロの力では抑えきれずに、最初と同じように弾き飛ばされてしまう。

 何とか受け身を取ろうとするが、勢いをを殺しきれずに地面に叩き付けられてしまう。


「がはっ」


 地面を転がり止まると、口から血を吐き出す。

 何とか立ち上がろうとするが、体に力が入らない。

 大鎌も離れた所に落ちており、身に付けていた装備もマントを除いて損傷している。


 腕を無理やり動かして、腰に付いたポシェットに手を伸ばす。中にあるのはポーションで、カズヤから持っておけと渡された一本と、城戸からお詫びとして貰った一本が入っていた。それが一本は割れており、残り一本しかなくなっていた。


 アキヒロは必死に手を動かして、ポーションを口に含む。

 何とか飲み干すと、少しだけ体が動くようになっていた。


 体を動かして、ホブゴブリンの方を見る。

 するとそこには、ニタニタと笑うホブゴブリンがいた。

 遊んでいるのだ。いつでも殺せる存在だと認識して、甚振って殺すつもりなのだ。

 ホブゴブリンにとってアキヒロは、敵ではなく、遊びの道具にしか過ぎないのだろう。それ程の力差が二人にはあるのだ。だからこそ、アキヒロの回復を見過ごして、再び立つのを待っていたのだろう。


 それなら、それでいい。侮るなら、侮ればいい。


 どちらにしろ、アキヒロに出来る事は限られているのだから。



 アキヒロが大鎌を拾うと、ホブゴブリンが動き出す。

 ポーションで動けるようになったとは言え、負傷しているアキヒロではホブゴブリンの攻撃を受け止める事は出来ない。

 一度でも棍棒を受ければ、立つ事も出来なくなるだろう。


 だから、アキヒロが一方的に攻めるしか活路はない。

 だからこそ、距離を取った今しかないのだ。


 手を伸ばし、魔力に集中して魔法を使用する。


「……ライトニング」


 呟きと共に雷光が走り、ホブゴブリンに直撃する。


「ギャ!?」


 この戦闘が始まって、ホブゴブリンは初めての痛みを知る。

 ゴブリンなら即死するような雷撃を受けて、体が硬直した。


「ライトニング」


「グギャ!」


 続く雷撃に焼かれ、ホブゴブリンの肌が爛れていく。


 アキヒロは魔法使いだ。雷属性魔法という、殺傷能力の高い魔法属性を持っている。

 もしも別のパーティに所属していれば、サトル共々、後衛で最高火力として魔法で攻撃する役割を担っていただろう。

 少なくとも、前衛で積極的に武器を振るう事はなかったはずだ。

 それが、どこかの太った探索者の計らいで、カズヤと組んでしまった。おかげで、サトルと一緒に近接戦闘も可能な魔法戦士になってしまっている。

 それが良いのか悪いのか分からないが、本来のアキヒロの得意分野は魔法だ。


 どこかの太った探索者のように、近接戦闘しながら魔法は使えないが、魔法だけに集中すれば、それなりの威力が出せるまでに成長していた。


「ライトニング!」


 雷撃がホブゴブリンを焼く。

 それでも、致命傷には至ってはおらず、膝を突いた状態でアキヒロを睨みつけている。

 敵意はまだあり、意思は折れていない。


 アキヒロは大鎌を構えると、最後の魔法を使用する。


「ライトニング!!」


 雷撃が敵を焼くと同時に、駆け出した。

 大鎌を両手で持ち、勢い良く飛び込んで大鎌を薙いだ。

 振り抜いた大鎌は動けないホブゴブリンを斬り裂き、その命を狩る……はずだった。


 それなのに、ホブゴブリンは動いており、棍棒で大鎌を受け止めていた。


「……そんなっ!?」


 ホブゴブリンは立ち上がると同時に、拳をアキヒロの腹に減り込ませる。マントが邪魔で感触が浅かったようだが、骨を砕いた手応えはあった。


「ごぼ」


 血を吐き出し、今度はアキヒロが膝を突きそうになる。


 ここで倒れたら、どんなに楽だろう。

 そう地面が誘惑して来るが、その先には死しか待っていなかった。一度倒れたら死ぬ。それは紛れもなくホブゴブリンの手によって起こるだろう現実だ。

 だから膝を突くわけにはいかなかった。


「かはぁ!!」


 声にならない声を上げ、残りの魔力を操る。

 残り少ない魔力では雷撃も使えず、魔力切れを起こして倒れるだけだ。

 だから必要最小限を残して、魔変のマントに流し込み、マントを操った。

 操ると言っても少しの動作だけだ。

 マントが翻り、ホブゴブリンに覆い被さる。


 突然の出来事に、ホブゴブリンは反応できずに視界が遮られる。しかし、そのマントは被せられただけであり固定された物ではない。


 マントを掴んで外すと、視界からアキヒロが消えていた。


「ごめん」


 ホブゴブリンは、最後に聞いた音の意味を理解できなかった。だが、視界が回転して地面に落ちる衝撃を感じて、己が負けたのだと悟りその意識を終わらせる。



「かはっ! はあ、はあ、はあ、はあ……」


 傷が痛み、魔力も切れかけており意識を失いそうになっていた。


 アキヒロはホブゴブリンにマントを掛けると、即座に背後に周り首を刈る為に大鎌を振り抜いたのだ。

 上手く行くか一か八かだった。

 身体能力で圧倒的に負けており、武器の扱いも雲泥の差に感じた。侮ってくれなかったら、二度は死んでいただろう。


 足元にスキル玉が転がっている。

 ガラスで出来たピンポン玉のような見た目だ。

 痛む体を屈めて、スキル玉を拾うと手の中に消えていく。

 田中に連れられて、10階のボスモンスターを倒したとき以来のスキル玉だ。これで新たなスキルを手に入れて喜ばしいのだろうが、それ以上に問題があった。


「……帰らなきゃ」


 魔変のマントを羽織り、宵闇の大鎌を杖にして歩き出す。

 この場所から、10階ポータルまでそんなに離れていないのだが、余りにも遠く感じる。

 重たい体は、動かす度に痛みが走り転びそうになる。


 一度でも倒れたら、もう起き上がれない。


 その恐怖がアキヒロを前に進ませる。

 運が良いのか、ボス部屋の前までモンスターに遭遇する事はなかった。

 ボス部屋を通り過ぎ、ポータルのある部屋に到着する。


 良かった。助かった。


 そう気持ちを緩めたのがいけなかった。


「ーあっ」


 アキヒロは膝から崩れ落ち、倒れて動けなくなってしまう。誰かが呼ぶ声が聞こえるが、遠のく意識の中で最後に思い浮かんだのは、家族の顔とサトルとカズヤの顔だった。



ーーー


ホブゴブリン(ユニークモンスター)


産まれて間もないユニークモンスター。長年勤めた前任者の代わりに用意されたモンスター。レベル9以下の探索者を狩り、新人キラーとなる予定だったが、この階不相応の強力な装備を持った新人に倒されてしまう。

《スキル》

怪力 順応


ーーー


美野アキヒロ(15)

レベル 5

《スキル》

雷属性魔法 加速

《装備》

宵闇の大鎌 魔変のマント


ーーー

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