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「正義のヒーローっていると思う?」
「海外映画の話?」
学校の昼休み、一緒に昼食をとるようになった五人でいると、柚月がそんなことを言い出した。
映画の話かなと予想して尋ねるが、柚月とその友人のあかりは顔を見合わせて微笑んでいた。
この二人は昨日まで学校を休んでいた。
何か事件に巻き込まれたという噂が流れていたが、今日の二人の様子を見る限り、その心配は無さそうだ。
二人共、何だか嬉しそうで、楽しそうでもある。
何か事件に巻き込まれたら、笑ってなんていられないだろう。
「違うよ、現実の話」
「現実ね、俺のヒーローは断然ウル○ラマンだな」
「それは特撮だ」
「じゃあ、カズヤは何がヒーローだと思うんだよ?」
「俺はアント○オ○木だな、彼の闘魂は俺の中で永遠に生き続ける」
「プロレスラーじゃん」
「違う、彼は伝説だ」
「何が伝説だよ、伝説ってのはな……」
話は脱線して、サトルとカズヤの話になる。
何だかんだ言って二人の仲は良く、何かのお題を出されると、二人だけで話が盛り上がるので、付いていけなくなってしまう。
そして今も、柚月とあかりの話ではなくなってしまった。
だからアキヒロは、改めて柚月達にどうしたのか尋ねる。
「ヒーローって何かあったの?」
確認の為に聞いてみる。
嫌な顔をされたら、何があったのか追及しない。
それでも、何か困った事に巻き込まれていたら助けようと思い尋ねる。
「うん、ふふふっ、ごめん、ちょっと思い出したら笑えてきちゃって」
「そうだね、やっぱりあの格好は凄かったね」
「私達のヒーローなんだけどねー」
「ビニール袋ってチョイスは独特だよね」
今度は女子二人で盛り上がっており、アキヒロは置いてけぼり状態だ。
困った表情のアキヒロに気付いた二人は、ごめんごめんと謝って、詳しくではないが事情を説明してくれた。
期末テスト明けの休みに、二人はよくない連中に絡まれたそうだ。その相手はしつこかったようだが、そんな所にコンビニのビニール袋を被った男が登場して、二人を助けてくれたそうなのだ。
「……事件に巻き込まれたって聞いてたけど、もしかしてその事?」
「多分そうだと思う」
「でも、何でビニール袋?」
「それなの。それが分からなくて、あかりと話してたら正義のヒーローだから、ビニール袋で変身したんじゃないのかなって話になったの。 アキヒロ君はどう思う?」
「変質者かな……あっごめん、その人、助けてくれたんだよね」
「うん、そうだよ。 一緒にアンマンもくれたんだ」
「何だか、ア○パ○マンみたいだね」
「うん、だから正義のヒーローみたいだったんだよ」
柚月は楽しそうに正義のヒーローだと言っているが、ビニール袋を被った男を想像すると、やはり変質者か妖怪の類にしか思えなかった。
「とにかく、二人が無事で良かったよ」
正直な感想を言う訳にはいかず、事件に巻き込まれたという二人の無事を祝う。
教室の一角から敵意が向けられていたが、無視して柚月達との会話を続けるのだった。
▽
土曜日になり、特殊武器の講座に参加するため探索者協会に来ている。
休みと言うこともあり、多くの人が探索者協会とダンジョンを行き来している。その中には高校の先輩もおり、話掛けられた。
「久しぶりね、元気してた?」
「ご無沙汰してます九重先輩」
背の小さい女の子、九重加奈子がパーティで探索者協会に来ていた。どうやら、これから潜るようで、全員が装備に身を固めている。
アキヒロは九重と会うのは久しぶりだが、メッセージのやり取りはしていたので、それほど懐かしいとも思わなかった。
「君がアキヒロ君? 日野トウヤだ、よろしく」
「美野アキヒロです。 よろしくお願いします」
九重が所属するパーティのリーダーである日野と自己紹介をして握手を交わす。
サトルに聞いていた情報だけならば、その先入観で警戒していただろうが、九重から聞いた日野という人物像のおかげで、普通に接することが出来た。
他のパーティメンバーである桃山悠美と神庭由香と挨拶を交わした。そして最後に、唯一名前の知らないメンバーと挨拶をする。
「私は三森巫世って言います。私だけ別の高校なんだけど、アキヒロ君は日野君達の後輩なんだよね?」
「そうですね、九重先輩には相談に乗ってもらってます」
「ほ? ほうほう、それはどんな内容なんだい?」
「なに変な詮索してんのよ、普通にダンジョンの話よ」
興味津々といった表情で距離を詰めて来る三森だが、九重によって遮られる。
事実、アキヒロからはダンジョンの話しかしておらず、九重からは日野との惚気話が殆どだった。
残念ながら、三森が期待するようなやり取りは一切ない。
「……何と言うか、凄い武器持ってるね」
アキヒロが持つ武器を見て、日野が感想を漏らす。
初めて見る大鎌に、どう扱うのか想像が付かないのだろう。
「今、練習中なんです。その、これの扱い方を教えてくれる特殊武器の講座があるみたいで……」
そう言って、これから講座を受講するのだと告げる。
「特殊武器の講座なんてのもあるんだね、私も変わった武器試してみようかな?」
「やめた方が良いですよ。特殊な物には、それなりの使い難さがありますよ。使い熟すにしても、相応の時間が必要になりますし、下手をすれば自己流で変な癖が付いてしまいます」
桃山の提案を神庭が止める。
桃山の背には弓が背負われており、腰には片手剣を携えている。体は軽装の防具で守られているが、スタイルの良さまでは隠しきれていない。
神庭は柚月の姉であり、このパーティの前衛を勤めている。ロングソードを使い、桃山とは違い重々しい装備を身に付けている。
どちらもポピュラーな武器を使用しており、その練度も高そうだ。今更、武器を変える必要も無さそうだ。
桃山も真剣ではなかったようで、そうなのと神庭の話を受け入れていた。
話が一区切りしたところで時間を確認すると、時間が迫っていたので、探索頑張って下さいと言って日野率いるパーティから離れ探索者協会に入って行く。
▽
会場に到着すると、そこは市民体育館ほどの広さがあり建物内だが、下は平らな地面になっていた。
受付で同意書にサインして、ネームプレートを受け取ると右胸に付ける。
今回の講座の参加者は三十人前後。
その誰もが、普通なら使わないような武器、殺傷能力が明らかに低い武器などをその手に持っている。
手甲に長い爪が付いた物、棍の先に大きく丸い物が付いていたり、知られている物では鎖鎌やトンファーなどもある。
中には、指輪に糸が巻き付いていたりと、それが武器なのかと聞きたくなるような物まであった。
そういうアキヒロも負けてはおらず、刃部分を取り付けると、自身よりも大きな大鎌を持っている。
大鎌に黒いマントといった見た目のせいで、周囲からは距離を置かれてしまう。
居心地悪く待っていると、講師であろう熟練探索者が三人入って来た。男性が二人、女性が一人が講座を受講する探索者達の前で立ち止まる。
そして、女性が一歩前に出ると、代表して挨拶を始めた。
「皆様、初めまして、本日の講師を担当させて頂きます一ノ瀬梨香子と申します。短い間にはなりますが、どうぞよろしくお願いします」
美しい礼を披露する梨香子。
その動作を取ってみても隙はなく、どれ程の実力があるのかアキヒロには想像も付かなかった。
その後、男性二人も自己紹介を行い、今回の講座の流れを説明される。
今回の講座の参加者は二十八人、それを三組に分けて、それぞれに担当の講師が着くそうだ。
その分け方は遠距離用武器、中近距離用武器、最後はその他に分類される武器の使い手達だ。態々、別ける必要性を感じないのだが、もしかしたら講師によって得手不得手があるのかも知れない。
そして、最後に言葉が続けられる。
「最後に、今、皆様が持っている武器を置いて、新しい武器を購入する事をお勧めします。 今持たれている武器には、特別な思い入れがあるのかも知れません。ですが、あなた方が持っている武器は、戦いに向いていない物なのです。 ダンジョンは遊びではありません。もしも、私の言葉で少しでも心が動かれましたら、別の武器をご検討下さい」
そう言って言葉を終えるとパンと手を叩いて、では始めましょうと笑顔で講座を開始した。
皆が呆気に取られながらも、講師の声に従って移動する。
説明があったように遠距離、中近距離、その他に分かれて行く。
アキヒロも中近距離のグループに並ぼうとしたのだが、講師の梨香子から呼び止められ、その他の方に並んで下さいと誘導される。
「え?僕の武器、大鎌ですけど……」
そう主張するが、貴方の武器はその他の方だと梨香子は譲らなかった。
「貴方が持っている物は、その他になります」
こうして振り分けられた先では、アキヒロ以外に三人おり、残りの二十四人は遠距離と中近距離に集まっている。特に中近距離に大半が集まっており、中には無手の人もいる。
「それでは、始めたいと思います」
その他のグループを担当するのは梨香子だ。
梨香子の格好は白いシャツに黒いパンツ、所謂、社会人の正装である。動き難いという事は無いだろうが、これから武器を取り扱う運動をすると考えると、とても適しているようには思えなかった。
その事を察したのか、梨香子はシャツを摘んで答える。
「大丈夫ですよ、これは特注品なので少々の攻撃ではビクともしません」
もしかしてその格好でダンジョンに潜っているのかと、別の意味で心配になる言葉だった。
「皆様をこちらのグループに分けたのは、あなた方が持っている武器がダンジョン産の物だからです」
そう切り出すと、説明を始めた。
ダンジョンの宝箱、若しくはユニークモンスターが使っていた武器には特殊な効果が付与されており、その扱い方が変わって来るのだと言う。
他に分けたグループにも、ダンジョン産の物を持っている者はいるのだが、その効果が特に変わった内容ではなかったそうだ。
「私達は鑑定スキル持ちなんですよ」
武器の鑑定は勝手に行われたのではない。
受付でサインした同意書に鑑定を行う旨が記載されており、アキヒロはそれを読んで同意していた。
中には反論する者もいたが、何も読まずにサインしたからだと他の参加者に注意されていた。
「安心して下さい、ここで知り得た情報は決して口外しませんから」
こうして始まった講座だが、最初はそれぞれの武器の確認と能力の使い方を説明していく。
糸が巻き付いた指輪、沢山のリングが連なった物、無手かと思ったら胸ポケットから針を取り出したりと、武器と呼んで良いか分からない物まであった。
そしてアキヒロの番になったのだが……
「あの……マントじゃなくて、こっちの大鎌の方なんですけど」
宵闇の大鎌ではなく、魔変のマントの方が注目されていた。
「そちらは後ほど、中近距離グループに行ってもらいますので、先にマントの方からにしましょう」
梨香子がアキヒロからマントを受け取ると、その使用方法を実演して見せた。
魔変のマントに魔力を流して自在に操る。
マントは姿を変え刃になり盾にもなり、長く伸ばして移動手段にも使って見せた。
「この手の魔道具は、使い勝手が良くて人気の物です。私の知り合いも愛用しているのですが、手に入れるのに苦労したようですよ」
良い物なので使い熟せるよう頑張って下さいと言われ、魔力の流し方のコツや、細部まで流すように魔力操作の訓練が必要だとアドバイスを受けた。
試しにアキヒロもやってみるが、上手く動かせずにひらひらと波打つだけだった。
練習が必要だなぁと続けていると、そろそろ時間となり、中近距離のグループへと向かう。
その前に梨香子に挨拶をしたのだが、近くで見ると小皺が多かった。
「私の顔に何か?」
「いえ!? 何もないです。はい」
やっぱり美人は笑顔でも怖いんだなと思いながら、中近距離グループに向かう。
「特殊な武器の中でもしっかりと使える物と、そうでない物がある。 お前が持っている大鎌はそうでない方だ」
そう説明したのは、中近距離グループの講師をしている安永という男だ。
安永はアキヒロから大鎌を受け取ると、振り、回転し、振り回転し、遠心力を活かして、高速で大鎌を振って行く。
「使えるじゃないかと思ったか? それは違うからな、使えるのはな、探索者の身体能力があってこそのものだ。一般人では不可能な動きを、探索者は可能にする。 特殊な武器を使い熟すには、前提として高い身体能力が必要になる。 その事を忘れずに精進してくれ」
大鎌を扱う上での注意点や〝突き”という最も効果的な攻撃が使えないなどの弱点を教えてもらい、最後に予備に片手剣などを準備しておいた方が良いと言われた。
今回の講座の最後は、梨香子の話で締められる。
「皆様お疲れ様でした。 本講座はこれで終いとなります。最後に、皆様方が使われている武器は消耗品であり、いつまでもある物ではありません。それはどんな名刀でも、伝説の武器でも同じ事です。 そして、皆様が使われている武器にも例外はありません。 探索者としてダンジョンに潜るならば、対策を検討してみて下さい」
そう言葉を区切り、これで終わりますと宣言して講座は終了した。
▽
講座が終了したのが午後一時。
探索者協会の売店でサンドイッチを購入して食べ終えると、アキヒロはその足でダンジョンに向かった。
まだこの時間は、採掘をしている探索者が多く、おこぼれに預かるような行為は出来ない。
もしも見付かれば、非難される行為だという自覚はあるから自重する。
カズヤは誰も気にしないと言うが、それが他の人も同じだとは限らないのだ。
極力、トラブルを避けたいアキヒロとしては、多くの探索者が引き上げる午後五時まで待つつもりでいた。
ただ、何もしないで待っているのも暇なので、ダンジョン内で先程の講座の復習をしようと考えたのだ。
そう考えて11階に到着したのだが、人が多くて練習出来そうな場所が見つからない。
慣れない武器を使い、人に当たっても困るので、階を変える事にした。
後で思うと、もっと情報を集めておくべきだったのだろう。
いや、10階以下でモンスターを狩ると危ないと聞いた事はあった。それでも、それを真剣に考えた事などなかったのだ。
10階の片隅で大鎌の練習をしていると、ユニークモンスターと遭遇した。
妖怪アンマン男
ビニール袋を被り、ジャンケンを挑んでくる妖怪。ジャンケンを受けるとグーで殴られ、チョキで鼻フック、パーで張り倒される。基本的に悪い人に挑むが、イチャイチャしているカップルを見つけると、問答無用でジャンケンを挑む。
最近、秋田県でなまはげパイセンを蹴落として、その座に居座ろうと画策している。(中身:田中)




