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第八話:軽井沢といえばソバですかパンですか?それとも両方か?!

二組の兄妹、合わせて四人は、

軽井沢駅の改札口を出たところで落ち合った。


挿絵(By みてみん)


「いやあ、迎えにきてくれてありがとう!」

そう言って美鈴(みすず)は、(しのぶ)というボブヘアの女の子に飛びつき、

いかにも仲良しそうに、きゃあきゃあと笑い合っている。


「やあ、どうも。こんにちは」

旅行鞄を下げて、後からゆっくりと

歩いてきた勇作(ゆうさく)がそう挨拶する。


「はじめまして!

黒沢(しのぶ)と申します。勇作(ゆうさく)さんですね!」

「いつも美鈴(みすず)が世話になっているそうで」

こういうところは、いちおう、軍人の子、

勇作(ゆうさく)もきちんとアタマを下げる

「その上、わざわざ迎えに出てくれたとのこと、

痛み入ります」

「とんでもございません。

私たちのホテルは少し山の上のほうにありまして、

歩いてくるのは大変ですもの。

自動車を用意してきたんですよ」

「それは、本当に助かります」

「では、いきましょうか!」


「あ、あのう!!」

あわてて、白タキシード姿の青年が、

美鈴(みすず)(しのぶ)勇作(ゆうさく)の挨拶に割り込んできた。


「そう!その自動車を運転して

ここまできたのは、

僕なのですよ!お兄さん!」


「お、お兄さん?」


いきなり「お兄さん」と呼ばれて、

さすがの勇作(ゆうさく)も目を丸くする。


美鈴(みすず)さーん。

やだなあ、僕のことを

お兄さんに紹介してくれないの?」


美鈴(みすず)は、固まった笑顔を青年のほうに向けたまま、

「ああ、そうでしたね。

勇作(ゆうさく)お兄ちゃん、これが(しのぶ)ちゃんのお兄さん。

さ、いきましょう!」


「待って待って!名前くらい紹介してよ!

もう!わかった!自己紹介させてもらうよ!」


そう言って、キザな青年は勇作(ゆうさく)のほうにアタマを下げ、


「はじめまして。(しのぶ)の兄の、

黒沢紀緒志(くろさわきおし)と申します!」


「え?クロサワキヨシ?」

勇作(ゆうさく)が訊き返す。


「ちがいますちがいます、

キオシって言うんです。珍しいでしょ、お兄さん!」


「ああ、キオシくんね。よろしく」

「駅前に自動車を回しているんです。

さ、案内しますね。

それにしても、お二人とも、

汽車に乗りっぱなしで、お腹がすいたでしょう?

駅とホテルの間に、

森に囲まれたおいしい、

カフェ併設のベーカリーがあるんです。

あそこで軽食にしましょう」


「ああ、それもいいけど。

知り合いに、いいソバ屋を教えて

もらったんだ。

そこに行ってみたいな」


「は?ソバぁ?」


紀緒志(きおし)は目をまんまるにして、

大きく首を振った。


「だめだぁ、そんなの。

だめですよ、お兄さん!

軽井沢まで来たなら、

パン、プリン、ケーキ、コーヒー!

洋食ですよ、洋食」


「──いや、洋食もいいけど、

オレはソバも食べたいんだ」


「まだ言っているよ、ソバ?

だめなお兄さんだなーーあはは!」

紀緒志(きおし)は笑いながら、

「大丈夫!ベーカリーについたら、

お兄さんもパンのおいしさに目覚めますよ!

じゃ、車をこっちに回しますから、

ここで少し、待っていてくださいね」

と、停車場のほうに歩いて行ってしまった。


勇作(ゆうさく)お兄ちゃん」

美鈴(みすず)がそっと声をかけた。

「別に、いつでも、ソバ屋には付き合うからね。

今はガマンしてね。面倒くさいかもだけど」

「いや、別にオレはパンでも

いいっつえばいいんだけど──」

「あのう・・・」

(しのぶ)というボーイッシュな女の子が、

恥ずかしそうに顔を赤らめながら、

深々と頭をさげた。


「兄が、、、あんなで。

申し訳ございません」

「ああ、いいんだよ。

いいんだ。別に怒ってはいないので」

ウキウキと自動車を回してくる紀緒志(きおし)のほうを見つめる

勇作(ゆうさく)の目の中には、しかし、

確実に、不穏な光が燃え上がり始めていた。


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