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第五十二話:こうしてまた冒険は続くことに相成りまして!

深夜。


すっかり遅くなった勇作(ゆうさく)


神田の稲井邸に帰ってまいりました。


明かりが消えて、しんと静まった屋敷の廊下を、

そろり、そろり、

ぬきあし、さしあしで通る勇作(ゆうさく)


ところがそれだけ

気をつけたところで、無駄なことだった様子で。


和室の襖が、ガッと開き、

浴衣姿の美鈴(みすず)が顔を出す。

「おかえりなさい、お兄ちゃん!」


その声に仰天し、文字通り、

宙に飛び上がってしまった勇作(ゆうさく)


その懐から、藤田から貰った

新聞記事の切り抜きが、

ヒラヒラと舞い落ちる。


「遅くまで、誰と飲んでいたの?」


「学校の友達だよ」


「ふうん?ほんとに?

私に秘密で、藤田(ふじた)さんあたりと

こっそり会っていたりしてないよね?」


どうして、この兄は、妹の前ではこんなにも

油断だらけで蒙昧になるのか。

アタフタと、金魚のように口をぱくぱくさせている。


「ああ、やっぱり。

で?藤田(ふじた)さんとはどんなハナシを?」


「いや、、、先日は軽井沢で、

お互いがんばりましたよねー、

という飲みの場を、、、」


「ふうん?この新聞記事はなに?」

廊下に舞い落ちていた切り抜きを、

美鈴(みすず)は拾い上げる。

「・・・鼻が消える怪事件?

今度は、山陽ということね?」


「あちゃー・・・」


「これ、行くの?」


「・・・」


「行くつもりね?お兄ちゃん?」


「・・・」


「まさか、私をおいて、

一人で行こうなんて、

そんなつもりじゃないわよね?」


「・・・」


「よかったあ!

なんで、ぬきあしさしあしで

帰ってきたんだろう?

まさか私に黙って何か企んでいるのかと

疑っちゃった!まさかねえ。

で、いつの汽車で行くの?」


「・・・参ったな」


「お父様には、

何かうまい言い訳を、

私が考えておくね!」


「・・・ハイ、お願いします」

どのみち、美鈴(みすず)が一緒でないと、

急な旅行の言い訳など立つわけがない状況なのだ。

なんだかんだ、勇作(ゆうさく)には、

もはや美鈴(みすず)が必要だった。


「それで、お兄ちゃん?

軽井沢には寄るの?」


「いや、、、それはムリだろう。

あの人は、軽井沢からは

出てくる気はないと思う・・・」


*****


ちょうど、同じ夜。


軽井沢のクロサワホテル、204号室を、

黒澤(しのぶ)が訪れていた。


ガチャリとドアを開けて、廊下に顔を出すルカ。

「あら?どうしたの?こんな夜更けに」


「実は、ホテルの事業拡大の下見のためにね、

明日から急に、兄と私とで、

山陽に出張旅行に出ることになったの。

しばらく留守にするから挨拶にと思って」


「おやまあ、ご丁寧だねえ。

まあ確かにあんたがいないと、

いろいろあたしも寂しいけど。

ま、楽しくやってきなよ」


「おみやげ買ってくるからね」


「ああ。気をつけてね」


(しのぶ)が立ち去ったあと。

部屋に戻ったルカ、ふと首を傾げて、

ひとりごちる。


「山陽って言ってたっけ?

うーん、、、なんか、

赤鼻(あかはな)のワレーリイが、

山陽にもロシア妖怪が既に住んでる、

みたいな話をしてたような気がするけど。

ま、いっか」

ルカは、ベッドの上に豪快に仰向けになった。

「私の契約書にあるのは、

『軽井沢が妖怪の攻撃を受けた場合は』

日本妖怪と協力するって条件だし。

山陽で何があろうと関係ないか」

そう言って目を閉じ、

まもなく、すうすうと、寝息を立て始める。


彼女の部屋の、机の上には。

オサキさんたちと取り交わした、

あの契約書が、窓から入る夜風に

ひらひらと揺れていた。


そこに書いてある一文、

「軽井沢の町、および、

()()()()()()妖怪の攻撃を受け

危機になった場合は」

の部分が、秋の柔らかい月光に、

優しく、照らし出されていた。


《完》

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