第五十一話:勇作、内務省に気に入られる
さらに季節はめぐり。
夏が終わって、
秋となりました。
残暑も和らぐ、九月の下旬。
その、宵の口の頃に。
東京は丸の内の、
しっぽりとした居酒屋で、
ビールを注ぎ合う、
勇作と藤田の姿がありました。
「そうそう!これをお渡ししておきますよ」
藤田がそう言って、
鞄から一枚の書状を取り出した。
「なんだい?それは?」
「機密文書扱いですがね、
お国から、あなたと美鈴さんへの、
お礼状ですよ」
「このたびの功績を讃えると共に、
今後のさらなる活躍を期待して、
本書状と金一封を与える。
内務大臣庄次竹二郎・・・。
え?金一封?」
「こちらですよ」
藤田が、素早く、
小切手を入れた封筒を、
勇作の懐に押し入れた。
「あなたの活躍は、
内務省でも高く評価されたんです。
どうです?今後も、妖怪絡みの事件が
何かあった時には、私とまた、組みませんかね?
表沙汰にはできないとはいえ、
こんなふうに、働きに応じては
お金を出して報いることもできますぜ。
大学を出てもよい仕事口がないとボヤいているなら、
どうです?この稼業?」
「うーん、ありがたいお誘いだけど。
表沙汰にできないってのが困っててね。
軽井沢に療養に行ったのに、
帰ってきてから何も変わってないと、
うちのオヤジは激怒してるんだ。
あーあ、、、この内務大臣からの手紙を
オヤジに見せてやれればなあ、、、」
「しかし、勇作さん」
藤田は、白い歯を見せて、
ニッと笑った。
「そんな顔をしていても、
妖怪絡みの事件が起こったとあれば、
東に西に、どこであろうと、
飛んでいくのが、あなたでしょう?
妖怪たちの世話を見るのが、
生来、あなたは、好きなんだ」
「うーん、そういうところは、
あるかもしれないね」
「たとえば、こんな事件は、どうです?」
ふいに藤田はそう言って、
カバンから新聞を取り出し、
勇作に手渡した。
「この新聞は?」
「山陽の地方新聞です。
そこの記事を読んでみてください」
勇作は、藤田が指さした記事を見る。
「・・・『鼻どろぼうのウワサ』?
葬儀の場が大混乱!
離島の村で、なぜか、
死者の鼻が消える怪異が連続発生?
しかも、鼻は切り取られたわけではなく、
鼻がなくなったあとは、
のっぺらぼうのように、つるつるの顔に
なっている?!」
「どうです?妖怪の匂いがしませんか?」
「うん、、、。思い当たる妖怪の名前が」
「内務省からの通達で、私が山陽に出張し、
この事件を調べることになったのですが。
どうです?面白そうでしょう?
一緒に行きませんか?勇作さん?」
「ううむ・・・!」
勇作は、頭をポリポリと掻き、
考え込んでしまう。
「行きたいとは思うが、、、
どうやってオヤジをごまかすか、、、」




