第四十九話:終わりよければすべてよしと昔から申しまして
この珍妙な戦いは、
ホテルの外から見ていた
信州妖怪や、人間たちには、
さぞかし凄いものに見えていたようで。
《迷宮化》を解かれた赤鼻のワレーリイが
激怒した時の振動は、
外から見ている側からすれば、
建物全体が揺れる豪快な様として見えていたし、
酔っ払った赤鼻のワレーリイが
三階の窓を開けて逃げようとした時も、
外から見ていたほうには、
突然、窓が内側から開き、
ごうごうと凄まじいつむじ風が
そこから吹き上がったように
見えていたわけだった。
人間側では、軽井沢町長の他、
黒澤氏を含む町の名士たちもいつしか集まって
心配そうにホテルを見つめており、
妖怪側では、雪降り入道たちの他、
白ギツネのオサキさんや、
15歳程度の街娘の姿になっている雫谷の婆さまも、
いつしか駆け付けてきており、
やはり心配そうにホテルを見つめていた。
そこへ、入口の両開きの扉が開き、
縄で赤鼻のワレーリイのカラダを
がんじがらめにした、美鈴が現れたので、
集まっていた者たちからは、
いっせいに歓声が上がって、えらい賑わいになった。
「いやあ、信じていましたけど、
やりましたね、美鈴さん!」
雫谷の婆さまが駆け寄りそう言えば、
「私の妖縛縄が
役に立ったのですね、よかった!」
と、あのハンサムな若山伏も感激の声を上げ、
オサキさんが、
「そら、言った通りだろ?
あの人間たちに任せておけば、
穏便に始末してくれる筈だって。
こんなに人間どもと喧嘩腰になる必要なかったろ?」
と、雪降り入道に言うと、
「ううむ・・・違えねえな」
と、雪降り入道もしぶしぶながら、
そう言葉を吐く。
美鈴の後ろから、
フラフラになりながら出てきた勇作は、
どうにか、オサキさんのところに歩み寄り、
「うまく、、、いきました」
と告げた。
「あいつが、赤鼻のワレーリイかい?」
オサキさんが、美鈴に引きずられて、
哀しそうな顔でうなだれている
ロシア妖怪を見て、言った。
「そのことですが」
酔いでフラフラしつつも、
勇作が言う。
「あのロシア妖怪は、雫谷へ連れて行って、
オサキさんと婆さまの手のもので、
監視してくれませんか?」
「ほう?というと?」
「人間に任せるわけにもいかず、
かといって、野放しにするわけにもいかず。
殺すことも難しそうな相手です。
となると、信頼できる日本妖怪に
預けるしかないかなと」
「ふむ」
オサキさんは、ちょこんと首を傾げてから、
「それは構わないけど、あたしたちには、
こういうときに従う、先祖代々の掟がある。
雪女を殺しかけ、
このあたりの山々を荒らした外国妖怪だ、
あたしたちの掟に沿って扱うよ?いいね?」
「よいでしょう。大丈夫、
あなたたちなら、公平で、
やりすぎない裁きを判断してくれるでしょうから」
「ほうらね?」
オサキさんは雪降り入道を見た。
「この人間に任せておけば、あたしたち
信州妖怪の面子も立つような
始末を考えてくれるって言ったろ?
結局そうなったじゃないか。
最初からまかせておきゃあよかったんだ」
「もうわかったよ。まいったな。もうわかったって」
雪降り入道も賛意を示した。
オサキさんの指示で、
ぞろぞろと何体かの
屈強な日本妖怪たちが進み出ると、
美鈴から、赤鼻のワレーリイを
縛りつけている縄を引き取り、
ズルズルと引きずって行った。
ホテルからは、
忍に支えられて、紀緒志が、
その後ろに 仁之助 が、
さらには、
フラフラになった藤田と、
もっとフラフラで、寝ぼけマナコのルカが
ぞろぞろと姿を見せた。
「うわあ、凄い。
美鈴ちゃんがみんなの喝采を浴びてる!」
忍が紀緒志を支えながら明るく声を上げた。
「落着のようですな。
私は内務省へ報告をしなければいけないので、
これにて、、、!」
藤田はそう言うと、みんなの方向へ一礼し、
森の方へと走り去る。
「どうでもいいけど、
部屋に帰ってもいいかな、、、
あたし、早く寝たい、、、」
ふああっとオオアクビをして、ルカが言った。




