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第四十四話:稲井兄妹の「作戦」、発動する、、、(?)

ホテル一階のロビーホールにまで

駆け戻った、勇作(ゆうさく)美鈴(みすず)、ルカ。


建物全体の振動は、

三人にとって、

立っていられるのも「やっと」というほどに

明確に、強くなり。


どどんっ!


という轟音とともに。


二階の廊下の奥から、つむじ風が吹き起こって。


三人の目の前に「つむじ風」は着地し、

そこで小さな竜巻となって、

ごおう、ごおうと旋回する。


その、気流の回転の真ん中に、

あの、憤怒の表情の老人の生首が、

ふわりと浮き上がった。


再び対峙することとなった、

かの、赤鼻(あかはな)のワレーリイである。


美鈴(みすず)・・・」

緊張した面持ちで、勇作(ゆうさく)が訊く。

「東京からの汽車は、

もう軽井沢に着いている時間だよな?」


「とうに着いている筈なんだけど・・・」

美鈴(みすず)が答える。

「何をやってるのかしら、あの二人!」


「もう少し、時間を稼ぐか」

勇作(ゆうさく)はそう呟くと、前へ進み出た。

「ズドラーストヴィチェ!

ウチニ・プリヤトナ!」

いきなりの勇作(ゆうさく)のロシア語挨拶に、

赤鼻(あかはな)のワレーリイは

怪訝な顔で振り向いた。

「パジャルースタ、プロスティ、

シュト・ブチェラーム・ビリ・グルービ」


「クトー・チィ・マリチク?

(貴様はナニモノだ?)」

赤鼻(あかはな)のワレーリイは

地の底から響くような恐ろしい声で言った。


「よかったあ!

少なくとも、会話はできる妖怪みたいで!」

動じることもなく、勇作(ゆうさく)は呑気に言う。


「ちょっとあんた、何のつもりよ?」

戸惑っているのはルカも同じだった。

「あいつを話し合いでロシアに帰るよう

説得するっていうなら、

オススメしないけどね?」


「違うよ。あのさあ、ルカ、、、?」


「何よ?あらたまって」


「あんたのロシア語で話しかけてみてさあ」


「うん」


「あいつを、飲みに誘ってやって

くれないか?」


「・・・あん?」


そのとき、ホテルの入口が騒々しく開き、

仁之助 (じんのすけ)と、彼の仲間のイヅナに先導されて、

まず藤田(ふじた)が、

そしてその藤田(ふじた)に続いて、

黒澤の、紀緒志(きおし)(しのぶ)が、

それぞれ、大きな料理ワゴンを

押しながら入ってきた。

「お兄さん!お待たせしました!」

紀緒志(きおし)がそう叫ぶ。


「おそい!何してたんだ!」

イラッとした様子で勇作(ゆうさく)が言うと、


藤田(ふじた)が頭を掻き掻き、

「すいません。私が、こちらのお二人の

買い物の内容を聞いて、余計な知恵を。

どうせなら、クロサワホテルへ寄って、

たっぷりの氷と、

前菜も用意して行ったほうが、

赤鼻(あかはな)のワレーリイを

その気にさせられるんじゃないかって」


「え?ということは、料理付きか?」

勇作(ゆうさく)の表情が変わる。


「はい、お兄さん。遅くなりましたが、

うちのホテルのコックに大急ぎで、

ロシアのお客さん向けのおつまみを

作らせてきましたよ」

紀緒志(きおし)がワゴンを指差して言う。


「そして、こっちのワゴンに!」

(しのぶ)がそれを受けて、

元気いっぱいに、言う。

「頼まれたもの、持ってきましたよ!

東京の、日本橋の輸入酒店で、

あるだけのウォッカを、ぜんぶ!」


なるほど、(しのぶ)のワゴンには、

たくさんの氷に埋まるように、

ウォッカの瓶がぎっしり、

アタマを覗かせていた。


「・・・ねえ、あんたたち、まさか!」

ルカが、イヤそうに眉をひそめる。


「そうなんだ・・・そのう、

赤鼻(あかはな)のワレーリイは

アル中妖怪だと聞いて、

それで思いついた作戦なんだが・・・」

ルカに睨みつけられて、勇作(ゆうさく)

タジタジとなっているのを見かねて、


美鈴(みすず)がこう、後を受ける。

「ルカさんが妖術で(かな)わないというのなら、

お酒の飲み比べなら、

互角に勝負できるんじゃないかと。

お願い、ルカさん、

戦わずにあいつを生捕りにしたいの。

あいつを・・・飲み潰して!」


「バカじゃないの?あんたら二人!

あたしを何だと思ってんの?」

さしものルカもアタマから

湯気が立たんばかりに怒った。




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