第四十三話:勇作たち、新迷宮を打ち破る
それにしても、、、
よくみると、ルカはルカで、
さっきまでとは、何かが違う。
いつものサマードレス姿ではなく、
まるでかの
エカチェリーナ2世の肖像画のような、
おごそかな赤マントを床まで垂らしている。
頭には神々しい冠があり、
まるで「女帝」という感じの衣装だった。
そのルカが、似合わないマントを翻しながら、
次々に、部屋の各所に書き込まれていた
魔法文字を、水の弾丸で消していく。
そこへ。
また、バリバリと稲妻のような音がして、
別の側の壁を引き裂いて、
今度は勇作が
部屋に飛び込んできた。
こちらはこちらで、
勇作はいつのまにか、
日本陸軍の将校の軍服を着ている。
まさに、シベリアに出征中の兄の久作や、
二人の父である稲井大佐の
出勤時のような、堂々たる軍服姿であった。
その勇作も、
必死になって、
部屋中の魔法文字を消し始める。
促されるように、美鈴も我にかえり、
さきほどのライムソーダのグラスを掴み、
中身を、魔法文字のひとつに引っ掛けた。
そうやって三人で、
部屋にあったすべての魔法文字を消すと!
紳士淑女たちは、ついに、
悲鳴を上げながら、煙のように消えてしまい、
続いて、部屋の装飾のすべても
ぐしゃぐしゃに歪んで・・・
次の瞬間には、
三人とも、
工事中のホテルの二階に戻っていた。
服装についても、三人とも、元通り。
勇作は、長着にズボン、
美鈴は、小袖に行燈袴、
ルカは肩から腕までを露わにしたサマードレスである。
「いったいどうなってるの?」
茫然と美鈴が言うと、
ルカが答えた。
「赤鼻のワレーリイのシワザよ。
このホテルに《迷宮化》をかけていたのね。
ただし、森で見たやつとは段違いに
高度なやつだけど」
ルカは肩で息をしている。
「おまけに、あたしたちのココロにまで
迷宮化をしかけてきたわ。
どうやら、あたしたちそれぞれの
ココロの中の願望を実現した幻覚の中に、
あたしたちを閉じ込めるつもりだったたみたいね」
「え!ココロの中の願望!?」
美鈴は顔を赤らめ、
アタフタとする。
「ああー、それは・・・。
わ、私が、上流階級のパーティーで
ちやほやされる夢を
見させられていたなんて、
絶対に他の人には言わないでね!」
「それは、お互い様だな、、、」
先ほど、父や兄とそっくりの陸軍軍服を
着させられていた勇作が言う。
「そうね。お互い様ね」
先ほどまで、ロシア帝国の女帝のようなマントを
羽織っていたルカも頷く。
ともかく、ホテルは元の姿に戻っており、
ここ、二階の廊下も、
普通の長さに戻っていた、
すなわち、
突き当たりもあれば、
一階に戻る階段もある、
当たり前な長さの廊下に、
戻っていた。
そこへ、、、
ガタガタガタと、ホテルが振動を始めた。
「迷宮化をあたしに見抜かれて、
アタマにきたらしいわね、、、
あいつが、おでましみたいだよ!」
ルカが険しい表情で言う。
「ここじゃ戦えない、、、一階の
フロントまで戻るよ!」
彼女の声に促され、三人は、
ガタガタと音を立てて揺れる廊下を駆け戻り、
階段を駆け降りた。




