第四十一話:三人組、高度な術に囚われる
ホテルの一階のつくりは、
このようになっていた。
玄関から入ると、
そこは三階までの吹き抜けになっているホールであり、
正面には、開業時には
フロントデスクとなるであろうカウンターが
設置されていた。
そのフロントデスクの両脇に、
手すり付きの階段が置かれており、
二階、および三階の、
客室フロアに上がれるようになっている。
「・・・気配は、上のほうからするね」
ルカが、階段を見上げて、言った。
赤鼻のワレーリイの気配はする。
だが、他には、物音ひとつしない。
向こうは向こうで、
このホテルのどこかで息をひそめて、
こちらの出方をうかがっている
ということなのだろうか。
勇作を先頭に、
美鈴を真ん中に、
そしてルサールカをしんがりにして、
三人は、階段を上がっていく。
「まずは、二階を調べようか」
と、勇作が言った。
三人は、客室のドアがずらりと並ぶ、
長い廊下を、歩いて行った。
「ルカ、何か感じるか?」
慎重に廊下を進みながら、
勇作が聞く。
「んー?」
ルカはしきりに
首をひねっている。
「おかしいな。ついさっき、
かなり近くに
あいつの気配がした、、、
ような気がしたんだけど。
なんだか急に、その気配が消えた」
「おいおい、心配させないでくれよ」
勇作が、ルカの方を振り返る。
「ここまで追い詰めて、
万一、あいつを取り逃したら・・・あれ?」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
勇作の声に、
美鈴が不安そうに兄の顔を見る。
「・・・なんで、階段がなくなってるんだ?」
美鈴も、振り返り見れば、
これは、どうしたことだろう?
たしかに、階段を上がってから、
この廊下を慎重に歩いてきたはずなのに、
来た方向を振り返ると、
そちらにも、延々と、
客室のドアが両側にズラリと並ぶ廊下が
伸びている。
つまり、、、
前も、後ろも、
無限に続いているかのような、
異様な長さの廊下が、
延々と、カナタまで、
延びているばかりなのだ。
「おかしいぞ!
だいいち、このホテルの構造上、
二階の廊下がこんなに長いわけがない!」
勇作が、さすがに焦った様子で
声を上げる。
「あー、、、なんかマズいかも!」
ルカも落ち着かなそうに、
この異様な廊下の風景を見回している。
「それってどういうこと?
私たち、何か罠にかかったの?
ねえ、お兄ちゃん?」
美鈴が、勇作のほうを
振り返り、、、ハッと息を呑んだ。
そこに立って、今の今まで話していたはずの、
勇作の姿がない!
「ルカさん!たいへん!
お兄ちゃんがどこかへ、、、」
そう言いながらルカのほうを
振り返った美鈴、
またしても、声を失った。
いま、そこに立っていたはずの
ルカもまた、一瞬、目を離した間に
消えてしまっていた!
「え?ちょっと・・・
二人とも!どこへ行っちゃったの?」
無限に延びているかのような、
ブキミな廊下の真ん中に取り残され、
茫然とする美鈴。
ところが、フシギなことは、
まだ続いた。
「あれ?・・・ええっ?
ナニコレ、どういうことなの?」
美鈴は、自分の体を見下ろして
悲鳴に似た声をあげた。
先ほどまで、いかにも大正の女学生という、
行燈袴姿だったはずの美鈴。
まるで上流階級のお嬢様が着るような、
真っ白なドレスに、真っ白な手袋をはめ、
両手にはキラキラと美しい宝石をはめ込んだ
指輪をつけていたのである。
そっと顔に触れると、
いつまにか、上品な化粧まで
施し終えている。
(ステキなドレス、、、
でも、なんで?
いつのまに?どうして?)
その時、いちばん近くにある客室の向こうから、
何やら、賑やかな物音が聞こえてきた。




