第三十八話:勇作と美鈴、軽井沢のお偉いさんたちの前にデビューする
さて、その軽井沢の町役場、
二階の会議室には。
軽井沢の町長と、
観光協会の会長。
黒澤氏を含む、
軽井沢名門ホテルのオーナーや、
実業家の面々。
そしてこの町の土地を昔から取り仕切る、
いわゆる「名士」たち、などなど。
つまりは、軽井沢の開発を担う
「お偉いさん」方がズラリと勢揃い。
彼らが、修験道者や密教僧、
神主たちの代表を集めまして、
地図を広げてワイワイと騒いでおりますのは。
どうやら、今日一日で入ってきた
怪奇現象の発生地点に赤丸をつけ、
軽井沢の町から妖怪たちを駆逐するための
手順の算段を練っているらしい。
なるほど黒澤氏が先に言った通り、
「これは人間と妖怪との戦争だ!」という空気が
いつのまにやら、共通認識になっているようで。
「妖怪たちを各個撃破だ」とか、
「妖怪たちを炙り出しにして」とか、
「妖怪たちを殲滅するには」とか、
いきおい、コトバづかいも荒々しく、
戦争用語だらけになってくる。
そこへ、役場員の一人が、
あわてて駆け込んできた。
「町長!」
「なんだ!今は会議中だぞ!」
「それが、
どうしても面会をしたいと言う
お客様が・・・」
「後にしろと伝えておけ!」
「しかし、そのお客様、
妖怪たちをなだめる方法を
知っていると・・・」
「なんだと?」
一同、それを聞いて静かになる。
そこへ。
痺れを切らした様子で、
その役場員を押しのけて、
強引に、勇作と美鈴が
会議室に入ってきた。
「あ、あ!困りますよ!勝手に入られては!」
「悪いが、時間がないんだよ」
そう言いながら無理に部屋に入った二人を見て、
黒澤氏が、
「なんだ?勇作クンと美鈴ちゃんじゃないか?」
と頓狂な声をあげる。
「黒澤サン、この若者たちとは知り合いかね?」
「ええ、まあ・・・」
もっとも、黒澤氏にしても、
息子娘、紀緒志と忍の友人であるということ以外、
ニジマス料理を奢ってやったくらいしか記憶はないのだが、
それでも、町の名士の一人が
二人を知っているらしい、ということは、
このお偉いさん方の会議室では
勇作と美鈴に有利に働いたようだ。
とはいえ。
その、勇作と美鈴のすぐ後ろから、
ルカと 仁之助 が入ってきた瞬間、
若い山伏が、
「アッ!みなさん気をつけて!
そこに二匹、妖怪が!」
と叫び、懐から、シメナワのようなものを
取り出すと、エイヤッと 仁之助 に
投げつけた。
そのシメナワ、生き物のように
仁之助 に絡みつき、たちまち 仁之助 を縛り上げてしまう。
驚愕の悲鳴をあげる 仁之助 。
すかさず、ルカが片手を振り上げると!
会議室の面々の前に置かれていた湯呑みから、
お茶の水分が、ばっと空中に舞い上がり、
龍のような生き物の姿になって、
仁之助 のカラダを縛っていた
シメナワを、食いちぎってしまった。
自由になった 仁之助 、
毛を逆立てて怒り、若い山伏に対峙する。
ルカも片手を振り上げて体勢を整えたまま、
「へえ?あたしたちが見えるんだ?
あんたに関しては、インチキじゃなくて、
腕の立ちそうな人間だね?」
と静かに言う。
「やめて!やめてよ!」
美鈴が慌てて、大声を上げた。
「せっかく、人間と妖怪の調停に来たのに、
ここで人間と妖怪の喧嘩が始まってどうするの?」
「調停だって?」
若い山伏が頓狂な声を上げた。
それを受けて、「町長」と先ほど呼ばれた、
70代くらいの羽織袴姿の老人が、
すくっと椅子から立ち上がった。
「ううむ、これは不可思議な。
茶がまるで手品のように宙を舞うとは!
すると、わしらには見えないだけで、
そこにも、妖怪がいるのかな?」
「はい」
勇作が口を開いた。
「妹の言う通り、ここで妖怪と人間が戦うのは
愚かなことです。それに、、、私が保証しますが、
ここにいる二人の妖怪は、頼もしい味方です。
倒さなくちゃいけない妖怪は、
別の場所にいるんです。
そして、、、そいつの居場所を、
私たちはもう知っています」
「ふむ?」
町長は、そっと山伏のほうを向いて、
「まあ、よかろう。
とにかく、話を聞こうじゃないか」
と言った。
それを聞いて、若い山伏は
ルカと 仁之助 を睨みつつも
椅子に座り、
ルカと 仁之助 も、
山伏のほうを睨みすえつつ、
ファイテングポーズを解いた。
「さて」
町長が続けた。
「お二人とも、ぜひ、聞かせてくれんか?
調停、とさっき、言っていたね?
もしこの騒ぎを収める方法があるなら、
ぜひ、聞かせてほしいものなのだが」
「はあ、では」
勇作が、
軽井沢の名士たちの見守る中、
前に進み出た。




