第三十六話:ロシア妖怪ルサールカ、信州名物「おやき」の美味しさに目覚める
いっぽう。
旅籠屋の二階で、
ひたすらにイヅナ達からの
報告を待つ、勇作と美鈴。
旅籠屋の老夫婦が階段を上がってきて、
「さあ、おやつにどうぞ。
信州名物の『おやき』ですよ」
と、ホクホクに温まった
おやきを乗せたお盆を、
置いて行ってくれた。
「いや、ありがたい!
こいつは美味そうだ!」
と、勇作はそのうちの一つに
手を伸ばし、ガツガツと食べ始める。
美鈴も、一つを手にとり、
ぱくぱくと食べ始める。
昨夜からいろいろなことが
起こりすぎて、
しっかりした食事を
取れずにいたわけだから、
二人の喜びよう、無理もない。
そのとき。
「んーん・・・」
という声とともに、
ずいぶん長い間、昼寝をしていた
ルサールカが、ようやく、
布団から上半身を起こした。
「なーに?この匂い?」
寝ぼけた目つきのまま、ルサールカが言う。
「おやきだよ。ルサールカ、
これ、食べてみるか?」
モゴモゴと咀嚼しながら、勇作が言う。
ルサールカはのそのそと、
布団から這い出してきて。
「なにこれ?また変な食べ物だねえ。
うげ、、、ショウユ・ソーサみたいな
匂いが凄いよ!またこれ、
塩っ辛い食べ物なんじゃないの?」
「信州の山菜を盛り込んだ、
マンジュウってとこだ。
まあ、食べてみろよ」
勇作に促されて、
ルサールカはおそるおそる、
『おやき』のひとつを手で掴み、
ひとかじり、してみる。
「・・・ん?」
ルサールカは
もうヒトクチ、
もうヒトクチと、
『おやき』をかじり、
「・・・なにこれ?おいしい!」
と叫び声をあげた。
「ルカさん、もうひとつ余ってるよ。食べる?」
美鈴の、その誘いの言葉に、
ルサールカは喜んで、
『おやき』のおかわりを頬張った。
「いやー!あたし、
凄くおなかがすいてたみたい!
そこに、なにこれ?
めちゃくちゃ美味しい!
この、饅頭皮のホクホクなところと、
それに対比する野菜のシャキシャキ感が、
たまんないねー。
いやこれ、いくらでもいけるわ!」
「ルサールカ、、、」
勇作がほとほと感服した顔でつぶやく。
「日本食を、食わず嫌いしていただけで、、、
めちゃくちゃ、ハナシがわかるヤツだね。
いいよ、オレのも分けてやるから、
食いねえ、食いねえ!」
勇作のおかわり分まで分けてもらい、
ルサールカはホクホク顔で、
『おやき』をどんどん平らげていった。
その際に、ふと、美鈴のほうを見て。
「ところで。。。
あんたさっき、あたしのこと、
なんて言った?」
「え?・・・ああ、
『ルカさん』って呼んだわ。
なんか、『ルサールカさん』だと、
呼びにくくて。
『ルカさん』って呼んだ方が、
いいかなって思って」
「ルカさん?」
ルサールカは、おやきを頬張りながら、
「ルカさん。ルカさん。ルカさん・・・」
と、自分の口で三回、反芻してから、
「なんか、それ、いいね!」
と、ご機嫌になった。
「最初に会ったときは、
気難しいおねーさんなのかと
思ってたけど」
ますます、感心したように、勇作が言う。
「あんた、、、ハナシがわかるなあ!」
ほくほくと『おやき』を食べ続けるルサールカ・・・
もとい、「ルカ」の、実に幸せそうなこと。
その時、階段のほうから、
「あーにき!」
という、軽快な声が聞こえた。
振り返ると。
仁之助 が、自分よりも
年下らしい、赤色と緑色の、二匹の小型のイヅナを
従えて、階段のところに座っていた。
ニヤニヤと、とてもご機嫌そうに、勇作のほうを見ている。
その明るい表情を見て、
勇作も、ぱっと表情を輝かせる。
「もしかして、わかったのか!?」
「ああ」
仁之助 は、ニッと笑った。
「美鈴のアネゴの言う通りの分担で
探していたら、あっけなく、見つけたぜ。
赤鼻のワレーリイの居所をね」




