第三十五話:軽井沢の歴史に残る悪夢の午後!
はたして!
勇作の「いやな予感」こそが
大当たりでございました!
勇作と美鈴が
旅籠屋の二階でイヅナたちへの
指示出しをしている、
ちょうどその頃。
ちょうど夏の、よい時候、
まことに気持ちのよい午後
・・・の筈でありましたが、
この日この午後は、
後々まで、軽井沢観光協会で
語り草となる、
悪夢の午後となったのでした!
*****
たとえば軽井沢
外国人野球グラウンド。
アメリカ人避暑客たちの選抜チームが、
ご婦人たちの声援を受けながら、
草野球に励んでいたのですが。
カキンと軽快な音をたてて、
クリーンヒットが飛び出した!
・・・と思ったその時!
ブオオオオというものすごいつむじ風が
グラウンドの真ん中で巻き起こり!
「ワッツゴーイングオン?」
実は信州妖怪、風三郎が、
「ロシア妖怪、どーこだーぁ!」と叫びながら、
グラウンドの真ん中を突っ切っていった
せいなのだが、アメリカ人逗留客たちには、
その姿は見えず、突然つむじ風が
襲ってきたようにしか見えない!
気づけば、そのつむじ風が通り過ぎた後は、
マウンドもベースもすべて
めちゃくちゃになっていた上に、
つむじ風にまきこまれた紳士たちの
ユニフォームはびりびりに破れ、
下着一枚だけの哀れな姿に!
「オーマイガッ!」
「ジーザス!」
慌てふためいて逃げ出す紳士たちに、
声援を送っていたご婦人方も、
きゃー、と黄色い悲鳴をあげて
腰を抜かして逃げ出します。
野球グラウンドは、大混乱!
*****
オシャレなカフェが並ぶ商店街では。
日本の珍しい品がないかと
ゆったりと土産物屋を覗いていた、
ドレスを着飾ったフランス婦人。
見つけたのは、土産屋の軒先に
たてかけてあった、和風の大きな傘。
「オー!トレビアーン!」
美しいご婦人は、その傘を手に取る。
だが、ご婦人にはただの傘に見えたそれ、
妖怪が見えるものには、
目玉とベロと一本足が生えているのが見える
カラカサオバケでありました!
ぐいっと掴まれて、
おどろいたカラカサオバケ!
フランス夫人の手から飛び出して、
ピョンコ、ピョンコと往来を
跳ねながら逃げていく。
道ゆく人々も、その傘を見て仰天!
蜘蛛の子を散らすように、
跳ね回る傘から逃げていく!
いちばんひどい有様になったのは、
傘を手にとった、あのフランス婦人。
あまりに驚いたせいで、
腰が抜けてしまい、
足はガクガク、地べたにへたりこんだまま、
「シ・・・シ・・・シルヴプレー!」
と情けない声をあげて、
気を失ってしまいました。
傘から逃げ惑う人々と、
あわててフランス婦人を
介抱しようとする人々とで、
商店街は、大混乱!
*****
いっぽう、こちらは、テニスコート。
凛々しいドイツ紳士二人が、
対戦に熱中していたのですが。
ひとつ休憩を入れて、
水筒の水を飲もうとしたとき、
ヒュウウウウウ!
と冷気が襲ってきました。
実は雪女が、テニスコートを
「ロシア妖怪、どーこだーぁ!」
と叫びながら横切ったところでしたが。
その姿が見えないドイツ紳士二人、
気づいた時には、
水筒の水はカチカチに凍っている上に、
まるで雪山から降りてきたかのように、
頭や肩にどっさり雪が乗っており!
「!!シャーデ!ゼアシャーデ!」
と悲鳴をあげて、
水筒を放り出し、
あわててホテルの方へ逃げ出しました。
テニスコートも、大混乱!
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「きゃー!」
「わー!」
「ひいー!」
「Noーー!」
「Нетーー!」
軽井沢のあちこちから、悲鳴が鳴り響く!
ホテル・クロサワのフロントは、
急遽、宿泊をキャンセルして、
東京へ帰りたいというお客様で、大混乱!
支配人の黒澤氏、
あの紀緒志と忍の父親も
みずからフロントに出てきて、
「みなさま!どうか、落ち着いて!
きっとこれは何かの間違いなんです!
どうか、お部屋に戻ってお待ちください!
必ず、何が起こっているか調査し、
みなさまの滞在を安全に守りますので!」
その支配人のところに、
フロントマンが駆けつけてきた。
「お電話です!」
「今は忙しい!後にしろ!」
「いえそれが、、、町長からなのですが」
「なに?」
黒澤氏はあわてて、フロント脇の、
電話ブースに入る。
「もしもし?
ああ、町長さん!
この騒ぎ、もうご存知ですか?
このままではお客様みんなに、
逃げられてしまいますよ!
・・・え?」
電話の向こうから、
切迫した老人の声が聞こえてきた。
「わしは知っておるぞ。
これは、妖怪の仕業だ。
ひいじいさんの時代にも、
よく似たことがあったらしい」
「ええ?妖怪、、、?」
一瞬、頓狂な声を上げた
黒澤氏だったが。
それに続いて町長が言ったコトバに、
黒澤氏は落ち着きを取り戻し、
やがて、大きく頷いた。
「わかりました!町長の指示に従います!
私もお金を出しますので、
町長のお知り合いの、
山伏、僧侶、神主、
妖怪が退治できそうな者には
片っ端から、軽井沢に集まって貰いましょう!
このままではホテル経営はおしまいだ!
本当に町長のおっしゃられるように、
この騒ぎが妖怪のシワザだとしたら、
こちらだって黙っちゃいない!
我々も覚悟を決めてかからないと!
これは、妖怪との、戦争ですな!」




