第二十九話:「水」対「零下50度冷気」では水が絶対不利でありまして
ルサールカの言葉を受けて、
藤田が勇作を庇いながら木陰に身を低くし、
仁之助 が、美鈴、紀緒志、忍に
「頭を下げて!」
と指示をし自分も地に伏せる。
皆が身を守っていることを横目で確認するや、
ルサールカは、ダッと赤鼻のワレーリイの
周囲を駆けながら、
竜巻の中央に浮かんでいる
赤ら顔の老人の生首に向けて、
龍のような生き物の形状に立ち上がらせた水流を
次々に打ち込んでいく。
だが、ルサールカの繰り出す水流は、
赤鼻のワレーリイの顔に
到達する前に、凍らさせて動きを
止められてしまう。
赤鼻のワレーリイの周りに
続々と氷塊の山ができていくだけで、
ルサールカの攻撃はまるで
ダメージを与えることができない。
地に伏せて頭を押さえている
黒澤兄妹には、戦いの様子は見えないが、
凄まじい轟音と突風は感じられるらしく、
「ねえ、なにがおこっているの?」
「誰か説明してください!」
と悲鳴のような声を、それぞれ上げた。
仁之助 が、その兄妹の声に応える。
「ルサールカの姉さんが、
すげえ戦いをしてるんだよ!」
「どうなんですか?勝てそうなんですか?」
紀緒志のその言葉に、 仁之助 、
「ええと、、、おいらに言わせると、、、
厳しそうだな。。。水と冷気じゃ、どうにも、、、」
とまで言ってから、シュンと口をつぐむ。
水流の連打をことごとく氷漬けにされて
止められたルサールカ。
足を止めることなく、また位置を変え、
今度は、小さい水の「つぶて」を
雨のように赤鼻のワレーリイに
向けて放った。
その、細かい水のカタマリたち。
やはり赤鼻のワレーリイによって
氷漬けにされてしまうが、
さきほどの水流とは違って、
それらは小さい氷の無数の弾丸となって、
スピードを落とさず、
そのまま赤鼻のワレーリイに
散弾銃の弾道のように襲いかかった。
「うおう!」
それを見た 仁之助 が歓声を上げる。
「その手があったか!アッタマいい!」
だが赤鼻のワレーリイ、
ますます怒りの表情に変わり、
自分の周りを取り囲む竜巻の
回転速度を上げる。
あと少しで、赤鼻のワレーリイに
雨あられと降り注ぐところだった氷の散弾、
強風にはじかれて、ばっと周囲に散らかり、
森の中の樹木たちに突き刺さる。
その音響を聴いて、紀緒志がまた叫んだ。
「『その手があった』って、なんのことですか?
コチラが反撃に出たんですか?」
仁之助 、固まった表情のまま
「いや、、、ダメみたい」
と小さい声で応えた。
そして、赤鼻のワレーリイ、
ぷうーっと、真っ白な息を、
ルサールカに向けて吹きかける。
「あ!」
ルサールカは立ち止まり、
あわてて自分の眼前に、
水を集めて、水でできた「盾」を作る。
その盾に、赤鼻のワレーリイの息が当たり、
みるみる、ルサールカの盾は凍ってしまう。
だが、赤鼻のワレーリイは
「ぷうー!」と、しつこく息を
吹きかけ続ける。
ルサールカは水を集めて
盾を大きくする。
が、ルサールカの「水の盾」、
どんどん大きな氷塊に膨れ上がり、
どんどん、ますます、重くなっていき。
ルサールカが初めて、
苦しげに、地面に片膝をついた。
「ううーーん!!」
ルサールカは必死に水を集め続けるものの、
彼女が両手で支えている
巨倍な氷塊はますます大きくなり、
かつ、だんだん、
中心からヒビが入り、広がり始めていた。
氷塊が砕け散り、
赤鼻のワレーリイの白い息が
ルサールカの身体を直撃するのは
時間の問題と思われた。




