第二十七話:軽井沢森林間の迷宮化、《強制解除》!
さてホテルでルサールカと合流した一同は、
そこからは徒歩で、
勇作にとっては
三度目の正直、
森カフェの裏手にあった
森林間の、暗渠のところに、向かった次第。
結局、「一同」というのは
どれだけの集団になったのか整理すると、
先頭に、懐中電灯を持った勇作。
その隣に、まだ酒気が抜けきっていないために
実にけだるそうな様子の、ロシア妖怪ルサールカ。
その後ろには、
肩にイヅナの 仁之助 を
ちょこんと乗せた、美鈴。
で,その後ろに、
ルサールカと 仁之助 のことを
見ることができないくせに、
一生懸命、話を合わせてついてくる、
紀緒志と忍の黒澤兄妹。
どうも軽薄な紀緒志と忍だが、
好奇心の強さだけで、
何が起こるかわからないこの冒険に
喜んでついてくるとは、この二人、
ある意味、たいしたオオモノかもしれない!
まあ、そういうわけで、
この集団でぞろぞろと、
あの、ナゾの古スラブ文字がある
暗渠のところまで、
進んでいるわけだが。
いや、よく見ると、、、
最後尾のはずの、
紀緒志と忍の兄妹の、
さらに後ろから、もうひとつ、
懐中電灯の光が、急接近してくるような!
「勇作のアニキ!待ってくれ!」
仁之助 が鼻をクンクンとさせてから、
緊張した声を張り上げる。
「どうした?」
勇作とルサールカは立ち止まり、
美鈴の肩の上の 仁之助 を見る。
「なにか、後ろからずっと、
おいらたちを追ってきているヤツがいるんだ」
「ふむ、、、まさか、あいつかな?」
勇作が眉をひそめて、そう言う。
一同、立ち止まり、待っていると、
カラカラカラ、と自転車の音を響かせて。
黒スーツに黒メガネの、
藤田が姿を現した。
「いやー、勇作さん!
イジワルですよ!
私を出し抜いて行こうなんて」
勇作は苦虫を噛み潰したような顔で、
「藤田のおっさん、あんたさては、
ホテルでずっと張り込んでたな?
呆れたよ。仕事熱心すぎるだろ」
と低い声を出す。
藤田は、ニッと白い歯を見せて、
「これでもれっきとした、
内務省警保局のモノですからね。
私の仕事の基本は、
地道な張り込みと尾行の繰り返し。
細かい動きも、逃しませんよ。
それに勇作さん、
いよいよオオモノ妖怪と対峙するってんなら」
スーツの下の自動拳銃をチラリと見せて、
「頭数は多いほうが安全では?」
と、言ってのけた。
「まあ、違いない」
勇作が諦めたようにため息をつく。
「ねえ、あのムサいおっさんはなんなの?
あたしのこと見えてるみたいだけど」
ルサールカが警戒した面持ちで言う。
「おいらのことも見えてるみたいだ」
仁之助 も警戒している。
「お初にお目にかかります。
内務省警保局所属の藤田と申します。
どうぞよろしく」
藤田は白い歯を見せて笑った。
ルサールカは頭を掻きながら、
「つまり、、、日本の秘密警察?」
と勇作に訊いた。
革命に揺れるロシアから逃げてきたルサールカ、
警察というものに良い印象を持っているわけがない。
「そんなところだ」
「信用できるの?」
「今のところは同盟関係みたいだが、
ルサールカ、いちおう、気をつけたほうがいい」
その勇作の言葉に、
ルサールカは首を振る。
「怖いねえ。ロシアも日本も、お巡りだらけで」
ともかく。
藤田を加えてますます大所帯となった
勇作たち。
ついに、あの、古スラブ文字の落書きのところに
たどり着いた。
「ここなんだ」
勇作は、ルサールカに言う。
「こいつが邪魔をしているらしくて、
この先の森の中が、一種の迷宮に、、、」
勇作がまだ話し終わらないうちに、
ルサールカが、
「ハアアアアアア!」
と凄い声をあげ。
その声に応ずるように、
水路の水が大きく生き物のように唸り、
鉄砲水のような水流となって、
古スラブ文字の書かれた石を打ち砕いて、
流していってしまった。
「おお!これは凄い!」
藤田が歓声を上げる。
「水を自由自在に操れるとは!
小川が近い、こういう森の中では、
実に頼もしい能力ですな!」
ルサールカは、勇作たちを振り返り、
「ごめんね、こういうわけで、
あたしにも魔法の解き方はわかんなかったから、
そのう、、、簡単な道を選んじゃったわ。
迷宮化は、解除されているはずよ」
とこともなげに言った。
そんなルサールカを見て、勇作、
「なあ、あんた、、、」
「ん?なに?」
「ただの飲んだくれ妖怪だと誤解してたけど、
もしかして、妖術のほう、かなり、、、
達人の域だったりするのか?
いまの、、、凄かったぞ」
「褒めてもらえて嬉しいけど、
赤鼻のワレーリイの能力は、
こんなもんじゃないからね」
ルサールカは、ふんと鼻を鳴らし、
「さ、行こうか」
と、暗渠を飛び越えて、
向こう側の森林へと入った。
一同も続々、暗渠を飛び越え、
ルサールカの後に続く。
その際、 仁之助 が興奮した口調で、
「これ、武者ぶるいっていうのかなあ?
ロシアの妖怪、凄い奴らとわかってきたら、
おいらもなんか、、、すげえ、
戦う気がガンガン湧き上がってくる!」
と、少年のような弾んだ声をあげていた。




