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第二十六話:虎穴に入らずんば虎子を得ず、と申します

というわけでございまして!


雫谷(しずくだに)から

紀緒志(きおし)の運転する車は、

もときた道をグングンくだり、

ホテル・クロサワへと戻っていく!


車に乗っているのは、

運転席の紀緒志(きおし)と、

助手席の(しのぶ)

後部座席の勇作(ゆうさく)美鈴(みすず)と、

その美鈴(みすず)の肩の上に乗る 仁之助 (じんのすけ)


つまり、行きの車の中とおんなじ。

ただし違う点がありまして。


勇作(ゆうさく)の帰りを待っている間に、

美鈴(みすず)が、紀緒志(きおし)(しのぶ)

妖怪のことを全部話してしまったため、


まだ妖怪を見る能力もないくせに、

紀緒志(きおし)(しのぶ)の兄妹が、

とても興奮して前のめりに

なっている、という次第となっており。


美鈴(みすず)ちゃん!

もう!そういうことなら、

もっと早く説明してくれれば、

いろいろ手伝ってあげたのに!

ああ!妖怪と一緒に冒険なんて、

とってもステキな夏休みじゃない!

なんで最初から誘ってくれなかったの?」

ボーイッシュなボブヘアを

夜風に揺らしながら、

(しのぶ)が言う。


「そうですよ!お兄さん!

最初から全部話してくれれば、

いくらでも車を出しましたよ!」


「うるせえなあ、、、どうして

美鈴(みすず)のやつ、

ぜんぶ喋っちゃったんだよ」

後部座席で勇作(ゆうさく)

ふてくされて座っている。


「ねえねえ?

いま、美鈴(みすず)ちゃんの

肩の上にも、私たちには

見えないだけで、

妖怪クンがいるんでしょ?

どんな姿なの?ねえねえ?

ねえってば!」

(しのぶ)がウキウキしながら

後部座席を振り返る。


美鈴(みすず)の肩の上では 仁之助 (じんのすけ)が、

「なあ、勇作(ゆうさく)のアニキ、

この人たち、信用できんの?大丈夫?」

と心配そうに訊く。


「まあ、大丈夫だろう。

悪人じゃないし、

悪だくみするような賢さもない。

好奇心のままに生きてるだけだ。

車を出してくれる

便利な運転手と思えばいい」


「それにしても、勇作(ゆうさく)お兄ちゃん、

妖怪たちに、外国妖怪の正体を

明日には知らせるなんて言ってたけど。

何を企んでるの?

相手の正体なら、もうとっくに、

わたしたちは知ってるのに。

赤鼻(あかはな)のワレーリイだって」

美鈴(みすず)勇作(ゆうさく)にそう言うと。


「あの場で、赤鼻(あかはな)のワレーリイの

話をするわけにはいかなかった。

その話をしたら、さっそく、

信州妖怪たちは赤鼻(あかはな)のワレーリイに

雪女の仕返しにと襲いかかり、

この辺りは妖怪どうしの大戦場だ。

せっかくの避暑地、軽井沢がどえらい騒ぎになる」

勇作(ゆうさく)はけだるそうに、

そう説明する。


「だから黙っていたとして、、、

これから、私たちは、なにをするの?」


美鈴(みすず)。虎穴に入らずんば

虎子を得ずって言ってな。

時間まで区切られて、追い詰められた以上は、

こちらもいちかばちか、

状況を引っ掻き回さねばなるまい。そうだろ?」


「つまり?」


赤鼻(あかはな)のワレーリイに、

これから会いに行こうぜ。

敵か味方かはたまた中立か、

どう出るかさっぱりわからん相手だが、

ここは賭けだ」


仁之助 (じんのすけ)が、ギョッと

その両目を見開く。

「ええ?オレらだけで、

雪女をたちまち凍らせただけの力がある

外国妖怪に会いに行くのかい?」


「いや!」

勇作(ゆうさく)は首を振った。

「こちらも助っ人を

加えていこう!」


*****


ホテルの204号室を、

2,4,6の順でノックして。


勇作(ゆうさく)美鈴(みすず)

そして肩の上に乗った 仁之助 (じんのすけ)とが、

寝台の横に立つ。


酒臭い域を立てながら寝ていた

ルサールカ、その気配にきづいて

少し目を開け、

「ん?なーに?」

と眠そうに言った。


「酔い覚ましに、少し出かけないか?

これから赤鼻(あかはな)のワレーリイの

住処に行ってみようと思うんだ」

ケロリとした顔で勇作(ゆうさく)がそう告げると、


「・・・これ、あたしの見ている

悪い夢じゃないよね?」

ルサールカが頭をかきむしりながら言った。


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