第二十二話:ヤバいこれ話がオオゴトになっちゃった、、、
というわけで。
「ぶひゃひゃひゃ」
その美貌にはまるで似合わない、
ルサールカの下品な笑い声が
ホテルの廊下に響き渡る。
そう。結局、今夜も、こうなった。
ルサールカは、
またしてもウォッカで飲み潰れ。
勇作と美鈴の兄妹が
双方から肩を貸し、
なんとか彼女の部屋まで運び込む。
顔を真っ赤にしたルサールカは、
「спасибо !спасибо !
あなたたちには二晩連続で
面倒かけちゃって。
おまけにこんなかわいいお嬢さんに
肩を貸してもらうなんて!
あたし年下の女の子だいすき。チュー!」
「ぎゃあ!」
いきなりほっぺたにキスをされて
美鈴はブルンと震え上がる。
どうにか、ルサールカを
彼女の部屋のベッドに横にさせると、
すう、、、すう、、、
と、ルサールカは、
心地よさそうに寝息を
立て始めた。
「きれいな妖怪さんで、
ステキだとおもったけど、、、」
美鈴は、ほっぺたの
キスされた辺りを触りながら、
「なんていうか、凄く、、、
元気なお姉さんだね、、、」
勇作も子供のような寝顔の
ルサールカを見下ろしながら、
「しかし、よかったじゃないか。
お前、なんだか凄く気に入られたみたいだぞ」
「そうみたいね。
となると、わたしもがんばって、
お酒も覚えて、
この人のサシ飲みに付き合えるように
ならなくちゃいけないかな?」
「それはやめておけ、、、
たぶん、こいつの酒量を
人間が真似すると
大変なことになる」
二人の兄妹は、
ランプの明かりを消し、
そっと部屋を後にした。
「なんか、オレたちはほとんど
何も食えなかったな。
食堂、まだ開いてるかな?
軽食でももらいにいこうか?」
「うん」
二人が階段を降りて
レセプションホールに戻ると。
フロントの赤絨毯の上に、
ちょこんと、
リスのような見た目の、
あの妖怪、
イヅナの 仁之助 が
座っていた。
仁之助 は階段を
降りてきた二人を見つけると、
ぱあっと顔を輝かせる。
「ああ!勇作アニキと
美鈴のアネゴ!
このホテルにいるって聞いたんで!
いやあ、会えてよかった!」
「あ!見える!」
美鈴が両手を口に当てて
頓狂な声を上げる。
「あれが、私の肩に乗っていた
モフモフ君?見える、今は、
あのコの姿が見えるよ!」
「よかった。お前の目もだいぶ
慣れてきているんだな。
それにしても 仁之助 、
わざわざオレたちを探しにきたのか?
明日また会おうって言ってたのに、
こんな夜分に?」
仁之助 はモジモジと
前足をこすり合わせて、
「あのう、、、実は、、、」
その様子を見て、勇作はため息をつく。
「何か悪い知らせだな?
いいよ。ココロの準備はできてる」
「ええと、、、いい知らせのほうも、
あるにはあるんで」
「じゃ、いい知らせから聞かせてくれ」
「あんたの見込みどおりだった。
雫谷 の婆さまのところで、
あの雪女、ていねいに
秘湯の湯をかけながら
カラダをほぐしていったら、
意識を取り戻したぜ」
「よかった!生き返ったか!
、、、で悪い知らせは?」
「その生き返った雪女が、、、そのう、、、
めちゃくちゃ、ロシア妖怪に
やられたことを怒っていて、、、」
「ふむ」
「見張っていたんだぜ!
おいらたちは見張っていたんだ!
でも、スキをついて、
仲間の雪女に連絡をされて
しまったらしく」
「おお、、、まさか、、、!」
勇作は首を横に振った。
「信州妖怪たちに、この件、
広まったってことか?」
「広まったどころじゃないぜアニキ。
凄い数の、信州の妖怪が、
雫谷 に、
雪女の見舞いに、続々やって来てる。
で、、、こんなことをした
外国妖怪には、
ケジメをつけさせねえといけねえって、
一部の連中が息巻き始めていて」
「ヤバい、それはヤバい」
勇作は長着の間に
手を入れて、左胸のあたりを
ポリポリと掻き、
「相手は赤鼻のワレーリイ。
信州妖怪たちが群れて立ち向かったって、
大量の犠牲が出るだけだ。
エスカレートしていくだけだよ」
「どうする?アニキ?
おいら、とにかくアニキに
まず知らせようと思って」
勇作は、 仁之助 の頭を撫でてやる。
「ああ、それでよかった。
早めに知らせてくれてありがとう。
すぐに手を打たないと」
「でもアニキ、
手を打つって言っても、
まず何をすればいい?」
「オレたちを、その 雫谷 に、
案内してくれないか?
まずは、信州妖怪たちを
説得できるかどうか、やってみよう」
「でもさ、アニキ。
おいらは信州の森の妖怪。
風と一緒に山を抜けることが
できるけど、
アニキとアネゴは
こんな夜更けに、
どうやって山の上まで行く?
道を教えることはできるけど、、、」
「あー」
勇作は目を閉じる。
「そうだな、、、自動車が必要だな」
美鈴が、恐る恐る、
「ねえお兄ちゃん。
気が進まないのはわかるけど、、、
また、黒澤の紀緒志さんを呼ぶ?
ここで自動車が必要なときは、
あの人だけが頼りよ」
「あー」
「お兄ちゃん。
わたしも正直、
気が進まないけど、、、」
「あー」
「わかるわよ、、、心配は。
こんな夜更けに呼び出したら、
あの人、ますます、
『自分は頼られてるんだ』って、
悪い意味で大喜びで、ノッてきちゃうわ」
「あー」
「どうする?お兄ちゃん?」
「美鈴、、、」
勇作は諦めたようにため息をつき、
目を開いて、こう言った。
「そうだな。実に気が進まないが、、、
紀緒志のやつを、、、
起こしに行こうか、、、」




