第十五話:雪女秒殺?の事件の現場で
さて、深夜の軽井沢。
内務省警保局、類似宗教対策課という、
いかにもあやしげな組織に属する、
いかにもあやしげな黒スーツと黒メガネ姿の
藤田に案内されて。
勇作と美鈴は、
懐中伝統を片手に、
ホテルから見れば裏山にあたる
林道を抜けていった。
本当は、勇作としては
美鈴を連れてきたくは
なかったのだが。
ルサールカとの出会い。
内務省警保藤田の登場。
そして兄の勇作に
妖怪たちの問題を解決するという
裏の仕事があったと聞き及び。
妹としての自分も、
とことん、兄についていき、
手伝わねばならないという
妙な気合いが入ってしまったらしい。
ホテルで待っていろと言っても
聞く耳をもたない。
それで、やむなく、連れてきた。
「さあ、つきました。ここが現場です」
藤田はそう言って、
かなり林道を高く登ったところにある
うっそうとした茂みの一角に、
懐中電灯を向けた。
見ると。
なるほど。
真っ白な着物を着た、若い女性が、
目を恐怖に見開いた表情のまま、
全身をびっしりと霜に覆われ、
凍らされて、草葉の上に、倒れている。
「うわあ、、、ひどい!」
思わず美鈴は目をそむけた。
いっぼう、勇作は
その冷凍された女性の上にかがみこみ、
瞼に懐中電灯の光を当てている。
「さあ、勇作さん。
どう見ます?」
藤田が聞いた。
「たしかに、雪女だね」
勇作は、藤田と美鈴のほうを振り返る。
「ナニモノかと、冷気での勝負をしたが、
たぶん、、、秒単位で完敗したんだ。
目を閉じる間すらなく、
凍らされたように見える」
「相手は、ナニモノでしょう?」
「わからないけど、、、」
勇作は肩をすくめる。
「信州の雪女を一撃するやつなんて、
日本の妖怪の中では聞いたことがないな。
この雪女、どうする?
このままここに放置しておくのかい?」
「軽井沢に今、張り付いている、
類似宗教対策課は、私だけでしてね。
地元の警察を使うわけにもいかないでしょう?
この子は人間じゃないので、
オモテの事件にはできない」
藤田は言った。
「そうだな、、、。
仕方ない、この雪女には、
ここにしばらくいてもらおう」
勇作のそのコトバに、
藤田が「え?」と声を上げる。
「しばらく、とは?」
「つまりね、藤田さん。
この雪女は凍らされたものの、
さすがに、雪女。
氷漬けにされたくらいじゃ
死んでいない」
「なんと!」
「長野の妖怪たちの手を借りれば、
蘇生できるかもしれない。
ここは、、、オレから、
長野妖怪たちに話をしよう」
「ふむう。
長野妖怪たちに、
この件を、教えてやるのですな」
「ああ。雪女を助けるのは、
同じ地元の妖怪たちの力を借りるのがスジだ」
「よいとは思いますが」
藤田は、そっと声を低めた。
「仲間の雪女がヨソモノに負けたと聞くと、
激昂して勝手なことを始める
地元妖怪も出てくるかと、危惧しますがね」
「あのさあ、藤田のおっさん」
勇作は、藤田の方を見て、
「その通りだよ。その通りだけど、
この雪女を助ける方法が他に
思いつかないなら、、、。
ここは、オレを信じて、
任せてくれないか?」
「いいでしょう。ご随意に。
ただし、騒ぎが大きくなって、
長野妖怪が暴れ出すようなことになったら、
私も東京に応援を呼んで、
介入せざるを得ません。
あしからず」
「わかった。だが、最悪の事態になる前に、
少し、オレに時間をくれ」
「よいでしょう」
藤田は、例の白い歯を見せて、
にっと笑った。
「美鈴。一回、ホテルに戻り、
朝まで休もう。
明日は忙しくなりそうだ」
「お兄ちゃん、長野の妖怪に話をしに行くの?」
「ああ。どうせ、お前もついてきたいんだろ?」
「うん。それと、、、」
美鈴は、藤田に聞こえないように、
勇作の耳に口を当てて、
ひそひそと、こう言った。
「わたしだって気づいているわよ。
この場所。昼間に、あの変なスラブ語の
文字を見つけたところに、近い」
「わかっているじゃないか、美鈴」
勇作に褒められて、
美鈴はうれしそうに、顔を明るくした。




