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第十三話:妖怪ルサールカは若い男女を「くすぐり殺す」?

けっきょく。


妖怪ルサールカは、

みごとに、酔いつぶれた。


勇作(ゆうさく)は、

(こうなる予感は、していたんだ)

と心中思いつつ。


真っ白な彼女の片腕を

そっと自分の首に回し、

ルサールカに肩を貸してやりつつ、

ホテルの階段をのぼっていった。


挿絵(By みてみん)


「ちょっとあんた、

親切はありがたいけどねぇ。

ヘンな気を起こしたら、

()()()()()()からね。

ぶひゃひゃひゃ」

ルサールカは目を閉じて

首をぐらぐらさせつつも、

とても上機嫌である。


「君が人間に視えない妖怪でよかったよ。

いくら妖怪だからって、

男女がこんな格好で歩いていたら、

この高級ホテルから

つまみだされても文句はいえない。

さてと・・・」


二階にたどり着いた勇作(ゆうさく)は、

ルサールカに肩を貸したまま、

ようやく、204号室にたどりついた。


コン、コン、コン、コン、コン、コン。


昼間やった通り、六回、ノックをする。


するとガチャリと鍵がひらいて、

寝巻姿の、でっぷりとした紳士が顔を覗かせた。


「ええと・・・何か用ですかな?」


勇作(ゆうさく)は、慌てて、

「いえ、すみません。部屋を間違えました」

と言い訳をする。


「フン」

紳士はしかめ面をして、ドアを閉じた。


勇作(ゆうさく)は204号室のドアを見つめて、

「おかしいな。六回ノックしたのに」

と呟く。


すると、肩を貸してやっていたルサールカが、

ふわあっと大きくあくびをし、

半分寝ぼけている声で、


「2回、4回、6回のリズムで、12回ノックするのよ」

とつっけんどんに言った。


「そうだったね、忘れていた!」

勇作(ゆうさく)は、昼間の自分の暗号解きが

厳密には間違っていたことを、今、知ったわけだが、

それはルサールカには悟られないよう、

落ち着いて、


コンコン、

コンコンコンコン、

コンコンコンコンコンコン、

と軽快にノックした。


すると、ドアが勝手に開き、

昼間見たとおり、ホテルの設計を

()()()()()()()()()()()()()()

ロシア風の装飾の、広い部屋が出現した。


(この部屋の入り口が開いている間、

あの紳士がいる『本当の部屋』のほうは、

どこの空間にいっちゃって、

どうなっているのだろう?)


ふと、そんな心配がよぎったが、、、。


あまり深く、そういうことは、

考えないようにした。


さて、ルサールカを

なんとか部屋に

押し込もうとしたとき、


202号室のドアが開き、

美鈴(みすず)がちょこんと、廊下に顔を出した。


勇作(ゆうさく)お兄ちゃん、

こんな遅くに、何しているの?」


勇作(ゆうさく)は、美鈴(みすず)のほうを振り返る。


まずいときに妹が部屋から出てきたな・・・とは

思ったものの、まぁ、ごまかすことはできるだろう。


何せ、昼間の汽車の中でも確認したとおり、

この妹にも、妖怪の姿を「視る」能力はないのだ。

今も、勇作(ゆうさく)が一人廊下にいて、

ヘンな恰好で204号室の前に

立ちすくんでいるだけにしか

視えないはずだろう。


勇作(ゆうさく)お兄ちゃん・・・」

ふいに、美鈴(みすず)の表情が変わった。

「え?えええええ?

ちょっと待って!

そのキレイな外国の方は、だれ!?」


「・・・美鈴(みすず)

「なあに?」

「お前・・・この女性のことが、視えるのか?」

「視えるもなにも・・・どうしちゃったの、その人?

ひどく酔払ってるじゃない!

どこで出会ったの?」

「ちょっと待て、美鈴(みすず)!」


勇作(ゆうさく)は、落ち着くために

ひといき、呼吸を入れてから、


「お前、そのう・・・これまでに、

フシギなものが視えることとか、あったか?」


「・・・フシギなもの?

そうねえ・・・学校でもよく、

廊下で女の子の幽霊を見たり、

ベンチに座っているお婆さんの

幽霊を見たりして、

騒ぎを起こしちゃった

ことがあるわ。

みんなは、見間違いだっていうけど・・・」


「ああ、なんてこった」

勇作(ゆうさく)は、大きく溜息をつく。

()()()()()()()()()()()って・・・

なんて、()()()()()()()()()()()()なんだ・・・」

「え?なに?どういうこと?」


勇作(ゆうさく)は、諦めたように、

美鈴(みすず)、この人をベッドに

寝かせてあげたいんだ。手を貸してくれ」

と叫んだ。

「うん、わかった」

不審がりつつも、美鈴(みすず)が歩み寄ってきて、

ルサールカの、勇作(ゆうさく)が抱えているのとは

反対側の肩に、自分の肩を入れる。


「あらぁ!

もしかしてあなたの妹さん?

かわいらしい!

うっかり、()()()()()()ちゃうかも!

Очень(オーチニ) приятно(プリヤトナ)!」

そう言って、ルサールカは

美鈴(みすず)のほっぺたにキスをする。


そんなことを誰かから

されたこともない美鈴(みすず)は、

驚愕でぶるぶるっと震え上がる。


「お兄ちゃん、なんなの、この人?

・・・え? なにこの部屋!!

大きさが・・・おかしくない??」

美鈴(みすず)はもうパニック寸前だ。


そんな妹を叱咤激励して。


ようやく、兄妹は、

ルサールカを寝台に横にさせた。


たちまち、ルサールカは、

すう、すう、と寝息を立てて

気持ちよさそうに眠ってしまった。


「お兄ちゃん、この人、

『くすぐり殺す』って言ってたけど、

どういう意味なの?」


「これはロシア妖怪ルサールカ。

人間にイタズラをして水に引きずり込んだり、

美貌に惹かれて寄ってきた若い男女を

()()()()()()たりすると言われている」


「妖怪?!」


美鈴(みすず)

まだ女妖怪だけらしいが、

お前にも視えてしまっているものは仕方ない。

俺の部屋に戻ろう。

いろいろ、教えてやることがある」


兄妹二人は、204号室をそっと後にし、

隣の、勇作(ゆうさく)の部屋、

203号室のドアを開けた。


その時だった・・・!


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