第1話 陳叔至と臥龍先生の手記 その2
※
孔明は困っていた。
新野の面々が自分に反発しているのは知っている。
そうなるであろうと覚悟して隆中の庵を出てきた。
とはいえ、さすがに焦りがある。
もう新野に来て一か月にもなろうかというのに、いまだ親しく話せるのは麋竺だけ、という状況はまずいのではないか?
しかも、麋竺は劉備に近すぎる。
妹が劉備の夫人になっているので、うかつに麋竺に愚痴をこぼすと、そのまま劉備の耳に入って、過度な心配をかけかねない。
ではどうするか。
腹に言葉をためるのはよくない。
そうだ、書いてみよう。
思いを文字にすると、頭がすっきり整理されるものだ。
さっそく孔明は、手記を書いてみることにした。
※
臥龍先生こと、諸葛孔明、記す
困っている。
先日よりわが君に言いつけられた主騎の件のことだ。
例の、妙に名前の立派な男が、生意気にも辞めるのをいやだ、といっているのだ。
なんとか、かれが辞める方向に持っていくべく、理由を探っているのであるが、どうにもそれが見つからぬ。
主騎になろうとしているのは、趙雲、あざなを子龍という。
びっくりするくらい立派な名前の男だ。
軍師に招聘される以前に、徐庶から聞いていたのだが、かれは常山真定のきちんとした家系の子息であるということだ。
貴賎入り混じった雑多なわが君の陣営のなかでも、「貴」にやや近い、というわけだ。
はじめて名前を聞いたときは、粋がったヤクザ者が、自分に格好のいい名前を適当につけて威張っている類いかと思っていた。
だが、出自を聞けば、品があるような、ないような……いや、正直にいえば、かなり品は良いほうであろう。
徐庶も男ぶりの良いほうであったが、これほどではなかった。
世の中には、美形、という言葉がぴったり納まる男もいるものなのだな。
しっかり肉のついた、しかし無駄なところのひとつもない体つき。
甘い顔立ちだが眼光が鋭いので舐められることもなさそうだし(下手に絡めば、気づくとあの世に行っていそうだ)、背もわたしよりすこし高いくらいか。
それでいて武芸達者で、文字も読めるどころか、関羽どののように、兵法だけではなく四書五経までも修めているとなれば、完璧ではないか。
いや、完璧というほどでもないか。
徐庶が言っていたことであるが、ずいぶん人付き合いの悪い、愛想のない男だということだが。
不愛想なのは、まあいいとして、他に問題はまったくないというのに、なぜ将軍職を兼務して、わたしの主騎になろうとしているのか。
ひらめいた。
人格の問題があるにちがいない。
生真面目そうに見えるが、ああいうのに限って、女遊びが派手だとか、賭博好きとか、飲兵衛だとか、重大な欠陥があるのでは。
おそらく、なにかしらの問題を抱えているために、これまで目立たない立場でくすぶっていた。
本人もそのことを悩んでいて、今回、いくらか浮上するために、わたしの主騎になろうとしているのではないか。
なるほど、腑に落ちた。
野心家か。わたしを利用しようとしているとは。
さらに聞いた話だと、かなりの変わり者でもあって、城外に屋敷を構えることもなく、兵舎の一室をおのれの家として改造して住み着いているとか。
わたしより五つ年上のはずであるが、いまだ妻子もない、という。
戦乱で亡くした、ということでもないようだ。
わが君いわく、
「いくらなんでも親不孝になるから、家庭をかまえて子供をつくれ、とすすめたのだが、『わが君が天下を取られるまでは、わたしに家族はいりません』というのだよ。困ったものだなあ」
ということだ。
困った、といいつつ、わが君はうれしそうだったが……
それは言い訳で、じっさいは女関係が派手すぎて、整理しきれず、どこから手をつけていいのかわからないので、いままで、ずるずるときているのではなかろうか。
あの容姿だもの。女が放っておくわけがない。
これまた、腑に落ちた。
そうに決まっている。
よし、そのあたりを調べ上げ、わが君にご報告申し上げ、主騎の撤回をお願いしよう。
女房に逃げられたわたしが言うべきことではないかもしれないが、女人を大切にしない男に未来はないのだよ。
ところで、さきほどから、趙子龍のうしろでちょろちょろしている、あの男は何者なのであろう。
覚えにくい顔だな。
特徴らしい特徴がほとんどない。
つぎに会ったときに覚えていられるであろうか。
それに、なにやら、こちらを睨むようにして見てくるが、わたしは、なにかしたか?
まあいい。あれは捨て置くとして。
それにしても、兵舎で出る食事はひどいものだ。
これは、すいとん?
粉が練りこまれていないので、口当たりが悪いうえ、ところどころダマになっているし、そもそもの小麦の質がわるい。
これでは兵たちも力がでまい。
たしかにすいとんは行軍時には便利な食べ物だ。
兵卒が用を足す回数が減るからだが、しかし、いまは戦中ではないのだ。
いまくらい、もうちょっとマシな食事を食べさせてやってもいいはずなのに。
ふむ、見回りもよいものだな。
また改善すべき点が見つかってしまった。
あとで、さっそくわが君にお願いして、兵たちの食事をまともなものに変えてやろう。
うん?
食堂の片隅に、趙子龍もいるな。おぼえにくい顔の男と一緒に。
ほかの将軍たちが、兵士とは別な場所で食事を摂っているのに、あの男は兵卒といっしょになって、おなじ食事を摂っている。
とはいっても、兵卒たちと肩を並べているだけで、かれらと打ち解けているという様子もないな。
自分からかれらに話しかける、ということもしない。
周囲の兵卒たちも、かれの存在に慣れているようだ。
しかし、目立つ男だな。
これだけ男がうようよいるなかで、八尺の男というのはあまりいないし、服装が粗末なくせして容姿が立派だから、妙な感じだ。
小山の連なりに、いきなり高い山がぽんとある、というふうだ。
そうだ、あの服装の趣味、じつによろしくない。
なんだ、あの地味な色合いの服。
官給品をそのまま、なんの工夫もなく仕立てているものと見た。
将軍職にあるならば、それなりに染めてある、ちゃんとした服を着ればよいものを。
わたしとちがって、服装に頓着しない性質なのだな。
ああ、わかったぞ。
ほかの将軍は、みな妻子持ちだ。
だから、たとえ本人に洒落っ気がなくても、ほどほどに見栄でよい着物を着せてもらっている。
しかし、妻子持ちでないあの男は、気の毒に、ああいう、何も考えないで良い簡素な服に袖を通すしかないわけか。
白がかれに似合わないわけではないが。
うむ、わたしであれば、あの男に浅葱色などの淡い衣を着せるであろうな。
いやいや、そんなことは、あの男の周りにいるであろう女たちの考えることで、わたしの考えることではないな。
嗚呼、それにしてもなんて不味い食事だ。
それでも腹ペコの兵卒たちは嬉しそうに食べている。
気の毒で涙が出てきそうだ。
なに、そもそも、贅沢に慣れているわたしの口に合わないだけではないですか、と嫌味を言ってくるやつがいるぞ。
贅沢云々は関係なく、こんな粗悪なすいとん、まずいに決まっている。
おまえたちはどうして平気なのだ。
平気じゃない?
じゃあ、なぜ黙っている。
ふむ、料理番の男が、糜芳どののコネで雇われている男なのか。
麋竺どの弟君は、なかなかに困ったお方だな。
なんと。料理番に文句をつけると肉包丁を持って追いかけてくる、というのか。
それはいかん。
わたしが、気付いたからには、なんとかしてやろう。
料理番には、食事を改善するよう注意する。
それでもまだ食事内容が変わっていなかったら、そいつは馘だ。
その代わり、新野でいちばん料理の上手い料理人を探してきてやろう。
食事は、睡眠と並んで、人生における最重要事項だからな。
士気にもかかわることであるし。
……おやおや、兵卒たちがこれだけ喜ぶ、ということは、よほど我慢に我慢を重ねていたのだな。
約束は、かならず守ってやろう。
いま、趙子龍がこちらを見ていなかったか?
気のせいか。
いま気づいたが、かれは、この食事に我慢できる男、ということだ。
かれは食事のひどさに気づいていながら、黙っていた、ということか。
麋家と揉めたくなかったのかもしれないが、どちらにしろ、やはり愚鈍でやる気がない男なのであろう。
やはり、かれが主騎になる、というのは、わが君に頼んでやめにしてもらおう。
わたしのこれからの、自由な毎日のためにも。
陳叔至、記す
まだあの軍師は兵舎をウロウロしている。
正直に認めよう。
軍師がウロウロしていることで、全体にほどよい緊張感が走っている。
兵卒どもを統率する側としては、たいへんよろしいところである。
が、落ち着かないというのも事実である。
しかも、それまで「胡散臭いよそ者」を見る目で軍師を見ていた兵卒どもだが、現金なものだ。
食事の改良を軍師が約束したあたりから、兵卒たちは口々に軍師を誉めだした。
胃袋を掴んだ結果か、自ら率先して軍師に挨拶する者もちらほら出始めた。
ぬ?
兵舎からいなくなった。
と、思ったら、料理番のところへ行って、激しくやりあってきたらしい。
本人が誇らしげにいうところをそのまま語るなら、
「夜の食事については、今上帝が食べても美味いとおっしゃるだろうものを出せ、と命令してきた」
ということだ。
兵卒たちは大喜び。
うまい食事にありつけるから、というだけではあるまい。
もちろん、それもあるだろうが、連中がよろこんでいるのは、料理番本人を軍師がやりこめたことにあるのだろう。
あの料理番は、糜芳の後ろ盾があるのだといって怠慢にも威張りくさり、まともな仕事をしてこなかった料理番だったからな。
いくら新野一の人格者、糜竺どのの弟である糜芳のコネであろうと、主公の寵愛を一身にあつめる軍師には、かなわなかったようだ。
いまのところ、肉包丁片手に追いかけてくる気配はない。
めずらしいことに、おおはしゃぎする兵卒たちを見て、趙将軍が、口に笑みを浮かべて、優しい顔をされていた。
これは、兵卒たちと同じように、してやったりと思った、ということか。
糜芳と趙将軍、どういうわけか仲が悪いからな。
きっかけは不明なのだが、あれは糜芳の一方的な嫉妬だと、わたしは睨んでいるのだが。
たしかにうちの将軍、顔もよければ性格もよし、口は重たいが男気があるし、律義者で愚痴のひとつも言わないし、面倒見は意外とよいし、わりと話もわかる。
縁談も多いのに、承諾しないのも、また女たちの射幸心をあおっているらしいと聞く。
女にも男にももてまくる、わが自慢の上司である。
麋芳からすれば、あまりに出来すぎているので妬ましいのだろう。
それはともかくとして、あの軍師は、毎日、何回、着物を変えているのだろう。
更衣のたびに着物を替えているようだ。
また替えてきたぞ。
えらく派手な錦の帯を中心に、紺でまとめた衣裳だ。
桔梗の花のように見えるのう。
意外にも金持ちらしいということは聞いていたが、衣装ひとつとっても、相当なものだ。
みたところ、いつも上等な絹の衣を纏っている。
衣にあわせて、髪型までいじって、洒落っ気があるなどという言葉で片付かない派手好みだのう。
司馬徽先生の私塾に通っていた人間というのは、そんなに趣味人ばっかりだったのかな。
新野にはこれまで、こういう種類の人間はいなかったな。
いや、待てよ。以前の軍師の徐庶どのは、ちがったではないか。
清潔な服装をされてはおられたが、色合いはいたって地味。
絹なんて滅多に着ていなかった。
だが、羽目を外すときは、おおいに外して、張将軍と盛り上がっていたこともあったっけ。
翌朝には、昨日ははしゃぎすぎたといって、ものすごく落ち込んでいるのを見るのが、ひそかに楽しかったりしたのだが。
曹操のもとへ行かれて、その後、お元気だろうか。
お元気だと良いが。
おや、またも趙将軍が、軍師のほうを見ているぞ。
やはり気になるのであろうな。
「軍師は、なんだって今日は、俺ほうばかりちらちら見ているのだ」
と聞いてきた。
ああ、なるほど、軍師は、兵舎ではなく、趙将軍も見ていたのか。
たしかに、おかしい。
なぜ、軍師は趙将軍を見ているのだろう。
たしか趙将軍は、先日、主公より軍師の主騎となるよう命令されたはず。
それを受けて、逆に軍師が、気を遣って、自分で主騎たる趙将軍のそばにいる?
いや、ちがうな。
あの、尖がった目つき。
わかってしまった。
趙将軍のアラ探しをして、主騎を辞任させたいのではないか。
なんということだ。
趙将軍が直々に守ってくれるという贅沢を、あの軍師は理解していないのか。
趙将軍は、孫子が説くところの大将の気風、すなわち、才知、威信、仁愛、勇気、威厳、すべて備えていらっしゃる(まだお若いから、関羽殿には負けるけれども)。
こんなところで埋もれていてよい人ではない。
軍師がいやだというのなら、将軍のほうから、主騎の任務を断ってしまえばよいのだ。
だいたい、将軍が主騎などと、おかしな人事だ。
わが君のお決めになられたことにケチはつけたくないが、やはり部下としては不満である。
主騎のほうが、細作よりはマシだがな。
何を隠そう、細作は、わたしの前職だが。
あれは給金はよかったが、命がいくつあっても足りない、恐ろしい職業であった。
話がそれた。
趙将軍が主騎、というのはたしかに勿体無い。
わたしからも、わが君に、考え直してくださるよう、お願いしたほうがよいのだろうか。
だいたい、ああいう着道楽な若者と、うちの質実剛健を旨とする将軍の気性が、かみ合うとは思えぬからな。
よし、ではそうするとしよう。
明日にでもわが君のもとへお願いしに行くぞ。
しかし、軍師の、あの新しい帯はカッコイイな…
諸葛孔明 記す
兵卒の仕事も、大変なものだな。
士大夫の家に生まれたわたしは、徴兵されることのない身の上だ。
そのさいわいを、あらためて実感している。
兵卒たちは、朝は早くに起こされて、兵舎や調練場の掃除をして、調練をしたあと食事、また調練、食事、昼寝、調練、武器の手入れ、食事、就寝。
わたしであったなら、そんなキツイのに加えて、単調な生活には耐えられぬ。
しかもあの食事だったのだ。
同情するに余りある。
いま、みなは調練場の中央に、なぜか我が物顔で鎮座している大きな楠木の木陰に憩って、並んで昼寝をしている。
もうすこし、みなの日よけになりそうな樹を増やしてやるべきかな……間に合わぬか。
曹操が、新野、いや、荊州に南下してくるのは確実だ。
それは、早ければ、年内になるであろう。
植樹しても、おそらく木が育つ前に、大きな戦になる。
趙子龍は昼休みにどこにいるのか。
すぐにわかった。
みなが昼寝をしているのを横目に、厩舎に行って、調練でつかった馬の調子をみてやっているのだ。
わたしも後をついていって、様子を覗いている最中だ。
人が変わったようだ。
趙子龍、馬を前にすると、顔つきがちがう。
かなりの馬好きらしい。
新野の濃密な人間関係につかれて、馬に心の癒しを求めている、というクチかな?
馬のほうもずいぶんなついているようだ。
趙子龍が顔を出すと、鼻息を荒くして、尾っぽをぶるりとふっていた。
それを見る趙子龍のほうも、うれしそうだな。
馬に噛まれたので(おそらく馬は、毛づくろいをしてやっているつもりなのだろうけれど)笑って、たしなめていた。
悩みのなさそうな顔をしているな。
文武両道か。
そのうえ、あれだけ男ぶりがよいと、わたしのような悩みを持ったことはなかったろうな。
十代の頃は、女のような顔だからといって、性格までなよなよしているものと思われて、だいぶ心無い連中から舐められたものだ。
背が伸びたおかげで、それも次第になくなったが、もし背が伸びていなかったなら、下手をすれば宦官のような扱いを受けていたかもしれない。
もうこういう顔なのだから、仕方があるまいと、開き直ったのが、徐庶と出会ってからだったな。
おまえ、せっかく綺麗な顔をしていて、みんなによい印象を与えることができるのだから、もっともっと、よい印象を与えるように努力したほうがよいぞ。
かれはそう言ったのだ。
不思議と、かれのことばは素直に聞けた。
おかげで、肩の力が抜けて、笑顔を自然に出せるようになっていった。
それまでは、手段としての笑顔しか作れなかった。
ここで笑えば有利になるな、とか、好かれるだろうな、とか、そういう計算づくの笑顔だった。
徐庶は、わたしのこの、人目を惹く容姿が、やがて説客としての最強の武器になると言ったが、そうであろうか。
わたしに自信を与えるための、慰めではなかったか。
確かめようにも、本人はもう、遠い空の向こうなのだが…元気かな。
だれより優しい男だった。
しまった、本来の目的を忘れて、考え事にはまっていた。
あの男がこちらに気づいたようだ。
まあ、気づくだろうな。
こんなに短い距離で、じっと見つめていたのだから。
なにか嫌味でも言ってくるかな、と構えていたが、趙子龍は関心がない様子。
どうでもよいのか、馬の身体を洗い始めた。
馬は、きもちよさそうに、ぶるぶると鼻を鳴らしている。
しばらく見ていても、趙子龍はなにも言わず、黙々と、ほかの厩番といっしょになって、順番に馬の身体を洗ってやっていた。
こころから馬が好きなのだな。
でなければ、兵卒たちがぐうぐうと昼寝をして休んでいる合間に、自分は休まず、馬の身体を洗うなんて、なかなかできるものじゃない。
子龍とて、兵卒と一緒に調練をしていた。
一箇所にじっとしてたわけでもない。
銅鑼にあわせて大音声でもって号令をかけながら、型の不味い兵卒に丁寧に指導もしていた。
相当つかれているはずだ。
それに、馬を洗うのも、なかなか重労働だぞ。
身体の疲れを忘れるほどに、馬の世話が好きなのか。
聞いてみようか。
ああ、でもいまさらだし、わざとらしいかな。
徐庶ならたぶん、わたしを見つけたなら、
「やってみるか」
とでも聞いてくるだろう。
この男はそういう社交性はないようだな。
そもそも、わたしに関心がないのだろう。
やれやれ、主騎の話も、子龍から断ってくれたら、話が早いのに。
これ以上、かれを見ていても意味がないな。
さて、明日は河原の工事の視察もあるわけだし、わたしも眠くなってきた。
ちょっとわたしも調練場の日陰を借りて、昼寝でもしてこようかな。
今日の事務仕事については、糜子仲さまが、すべて代行してくださるとおっしゃってくださったし。
あの人は、ほんとうに親切なお方だ。
おや、その親切なお方の弟君が、なにやら剣呑な顔をして、こちらにむかってずんずんとやってくる。
あの弟君のほうは、苦手だな。
どうも言葉がきついし、妙にえらそうで。
とはいえ、これから志を共にする仲間なのだ。
それに、話をしてみると、意外と良い方かもしれぬ。
愛想よく。愛想よく。
と、ん?
弟君の後ろにいるのは、例の料理番ではないか。
なるほど、読めたぞ。
料理番め、わたしに怒鳴られたことをうらみに思って、弟君に言いつけたな。
言いつけを受けて、文句を言ってくる弟君も弟君だ。
ふん、武将ひとりに脅されて、怖じる諸葛孔明ではないぞ。
昼寝の前に、ちょうどいい運動だ。
あの食事は不味かった。
不味い食事では兵卒たちは力が出せない。
力が出せなければ軍が弱る。
事実を端的に言うだけ。
さあ、行くぞ。
つづく