表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

vast and hazy




 ここは



               どこだ?






  暗闇の中にただもやがかかっている。






 俺は自分の手を見る。いつもの自分の手がそこにある。


 着ている服もいつものうちの学校のブレザーだ。


 足元は……わからない。白い靄がそこから発生していて、膝から下を隠していた。





  誰だ?



    俺の向かいに誰かが立っている。





 黒いスーツに身を包んでいるその少年は、華奢な体躯に似つかわしくないものを手にしていた。



  はじめは周囲の暗闇に同化して、何を持っているのか、わからなかった。やがて白い靄に照らし出されるように、その姿が明らかになる。少年の顔は見えない。しかし、その手に持っているのは、鈍く黒く光る、彼の胴よりも幅広の大剣クレイモア

    いつ振り上げたのかわからないその大剣クレイモアが、俺をめがけて、振り下ろされた。



 斬られた、とわかったのは、袈裟けさけに俺のブレザーが切り裂かれ、俺の肩が首と離れ、俺は自分のはらわたあらわになるのを見、血が噴出し、



    叫んだはずだった。



     しかし声はどこにも響かなかった。



       まるでここには空気がないように。




 俺は、死んだ。















 いや、待て。




 死んだやつがなぜこうやって




 意識を文章にして記すことが出来るんだ?






 真っ暗だと思っていたらもやがかかっていた。

 白い靄を踏んで、俺は立っていた。

 手が何かを掴んでいる。体温が既に馴染んでいるが、固くて、冷たいものだ。


 俺はそれを掲げる。青い光を内から発しているその大剣クレイモアを。

   刀身に見慣れた自分の顔が映るが、死人のように表情に生気がなかった。


 刀身を少し下げると、自分の首から下が映った。堅苦しい黒いスーツに身を包み、ストライプ柄のネクタイを締めている。



        敵が

             来る!



 俺のからだが動いた。殺気を感知して、まるで自動人形のように。


 靄ごと、敵を斬る。


 無音だった。しかし敵を斬った手応えは確かに伝わって来た。


 靄が晴れ、敵がはらわたをぶち撒け、現れる。

 それは俺自身の姿だった。





    やつは、死んだ。





 なぜ……殺した?


  俺は、なぜ、自分自身の姿をしたやつを殺したのか?


   敵だから。

   殺気を見せたから。

   しかしやつは武器を手にしていなかった。



 理由などわからない。


 何もわからない。


 ひとつだけわかることは、


 今、目の前に、また敵がいる。


 凄まじい殺気を放って、俺を殺そうとしている!




    靄の向こうに、いる!




 靄を裂いて、やつの武器が襲いかかって来た。音もなく。

 俺は大剣クレイモアで受けた。衝撃だけがからだに響く。

 やつの武器も同じものだ。着ている服も、ネクタイまで同じ黒いスーツ。

 顔も、同じだ。ただひとつ、違うことは……、やつのほうが、強い。


 間違いない。やつは経験を積んでいる。おそらく俺達の間にある差は、髪の毛一本分の違いだ。それほどまでに、違いがあるのだ。


 俺の剣がやつの肌をかすめる。やつは紙一重で引いてかわす。


 やつの剣が俺の肌を斬る。俺は紙一重で引き、やつの剣は俺の肌をぐ。


 髪の毛一本ぶんの傷が、俺の皮膚に次々と増えて行く。



 音はない。俺の息は荒い。やつの攻撃を避けながら、こちらも大剣クレイモアを振るい続ける。やつの表情は殺気に満ちている。自分の表情は見えない。やつと同じ顔でありながら、おそらくはまったく違う表情をしている。

 やつのスーツは黒いままだ。俺のスーツはだんだんと赤みを増す。

 やつのスーツは黒いままだが、俺の大剣クレイモアがその布だけを裂いて行く。俺のスーツはだんだんと赤みを増しながら、裂けて俺の肌を露出して行く。


「まだだ」

 俺は口を動かした。声はどこにも響かない。


「まだだ!」

 俺は声を響かせようとした。


 対峙する俺自身が強く笑う。

 とどめを刺せると確信した笑いだ。



 鮮血が舞った。やつの胸から。



 俺の大剣クレイモアが、やつの胸に真っ直ぐ突き刺さっていた。自分でも何が起きたのかわからなかった。俺がしたことと言えば、死を覚悟しなかっただけだ。諦めなかっただけだ。


「ウルギ……」

 やつの口から、無音の中に声が漏れた。

「オレハ、シンダ」



 一陣の風がどこからともなく吹き、靄を飛ばす。すると現れた、やつの足下にあった、俺のからだから流れ、そこに出来ていた血溜まりが。やつはそれに足を滑らせたのだ。



 靄がどこにもなくなると、暗闇だけになった。手応えだけを残して、敵も眼前から消えて失くなった。


 限りない静けさが俺を包み込んだ。


 俺は目を閉じる。


 目を閉じても、何も変わらなかった。


 ゆっくりと、目を、開ける。


 いつもの俺の部屋のベッドだった。そして目の前には、何もなかった。




 さて、この何も書かれていない白紙に何を書こう?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何を読まされたんだ……?
2024/10/01 22:48 退会済み
管理
[一言] 累々と積み上がった自分の屍とか? その合わせ鏡みたいな光景はとても怖いけれど…
[一言] しいな ここみ様 誰がスランプでしたっけ・・・!?<(_ _)>(*^-^*) タヒやチがふんだんに表現されているが 不思議と陰惨さがなく 賛美するわけではないが 美さえ感じる スプラ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ