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赤の悪役令嬢は銀の怪盗に盗まれる

作者: せせり

学園の卒業パーティー。

みんながあつまり、始まろうとした瞬間声があがった。


「公爵令嬢スカーレット・サフィーレ、婚約破棄をしてもらう!」


この国の王子であるライルットがのたまったのだ。

傍らには怯える様子の金髪に青い瞳をもつ桃色のドレスを着た可愛らしい少女、メアリア。

その二人の前に毅然とたつ艶めく赤髪にルビーのような瞳でそれらとはまた違った赤のドレスをまとった少女、スカーレット。


「理由はなんでしょうか」


スカーレットはまっすぐに問う。

その動じなさに王子はたじろぐが、すぐさま体勢を立て直す。


「いとしのメアリアをいじめたからだ!証拠は揃っている」


本人からの証言に、目撃者。


それが全部捏造であることをスカーレットは知っていた。スカーレットと婚約破棄するため、メアリアと一緒になるための策ともいえないような浅知恵。

しかし、王子の関心を己に保てなかったのは自分の力不足。

王子はかわいらしい男爵令嬢のメアリアに夢中だ。

こうなったらもう、王子とは信頼関係を築くことなどできない。

家からは勘当されるだろうが。


「わたくし、スカーレット・サフィーレ、婚約破棄を受け入れますわ」


わく王子とその取り巻き。

王子はスカーレットをとらえよと取り巻きに命じ、スカーレットは反撃のため得意の炎魔法の発動を準備する。


「おや、勇ましいお嬢さんだ。でも、お嬢さんが手を汚すまでもないよ」


彼女のまわりを囲むように円柱状に氷の壁が張られた。

後ろを振り向くと狐の仮面をした銀髪の青年が氷の壁の内側でこちらを見ていた。

ここのところ、貴族の不正の証拠を盗み出しては、新聞社や公機関に届けている義賊の姿、そのままだった。


「僕は怪盗白銀。君を盗みにきた。もう君は誰のものでもないんだろう?」


「ええ。そうね」


彼女は昨日の夜のことを思い出す。


ここ一年ほどで心を許せるほど仲良くなった庭師の青年に吐露したことを。


スカーレットにとってこの婚約破棄の出来事は予想できる出来事だった。


それでも事前に王に進言するなり対策をしなかったのは、彼女がもう疲れていたからだった。


自分を嫌う婚約者の王子に、自分を王国の歯車としか見ない両親と、頭の足りない王子の補佐として王妃として生きることを命じた王。厳しい王妃教育をスカーレットに施しながら、王子の教育には甘い王妃。

努力をして何事も優秀にこなしても誉められることのない日常。


その全てに疲れていた。


唯一、自分を誉めてくれてその努力を認めてくれた庭師の青年に心を傾けるほどに。

昨夜は翌日起こるであろうことをすべて話すと青年は、庭師とは思えないほど気品に溢れた笑みを浮かべた。


「あなたが何者でもなくなったら迎えに伺ってもよろしいですか?」


スカーレットは青年の立ち振舞いからただならそうな身の上に気づいていたが、うなずいた。

青年に好意をもっていたし、もうどうなってもいいと思ったから。


仮面で顔を隠し、髪の色も昨日までとは違うが少女には彼が庭師の青年だとわかった。


「わたくしを盗んでくださるかしら。怪盗さん」


スカーレットは青年に向けて手を差し出した。



「もちろん。美しき宝石、スカーレット」


青年は少女の手をとり、その体を横抱きにする。


その瞬間、氷の円柱は砕け散り、青年と少女は消え、困惑だけが場に残された。



青年は夜の道を人に見られないようにしながら少女を抱えて歩く。


「わたくし、何者でもなくなってしまったわ。名前をつけてくださる?

愛しの怪盗さん」


「そうだね。愛しの僕だけの宝石よ。

そうだな、その誇り高き赤と祖国の花にちなんで君に名をつけよう」


青年は少女の耳にささやく。


「赤椿というのはどうかな、ぼくの宝石」



「椿って……東方の国の花?」


「そうだよ、僕の宝石は賢くて美しいね」


「あなたは東方の国の出身なの?」


「ああ。僕の本名を伝えなければいけないね。銀月というんだ」


少女は言葉を失うほど驚く。


昔、月からおりたった人々が国を作ったと言われる神秘の帝国はその月からおりたったという人々の末裔がおさめている。


そして、末裔のしかも帝と帝位後継者にのみ月の名前が与えられるのだ。


「さて、はやく僕のお嫁さんを連れて帰らないと、民に怒られてしまうからね」


少女はお嫁さんという言葉に恥ずかしくなったが、青年の肩に顔を埋める。

青年に身を委ねながら、王妃ではなく将来は帝妃になることになろうとは不思議なものだと思った。



東の帝国に遊学中の氷術使いの銀色の皇太子が外国から美しき赤色の婚約者をつれて帰国し、民が喜び、帝と妃もよい娘をえらんだと褒め称えた。

その称賛に違わず赤色の娘はよく学び、帝国を支えるための知識を蓄えていった。東の帝国は皇太子が帝になるあたりからますます栄えていくことになる。



怪盗白銀は最後の仕事として王家の醜聞を革命派に垂れ込んだ。

それを革命派が利用してスカーレットを失ってバラバラになった王族を追い込み、捕縛し、辺境の地へ送った。

王国は共和国となり、少し離れた東の帝国とも外交するようになった。

お互いに人の行き来が活発になり、帝国が栄える原因の一助になったと言う。

評価ありがとうございます!

つたないですが、すこしずつ頑張りたいと思います。

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