爆風の後でーサテ視点ー
ーサテ視点ー
初めての事で驚いた。
俺を怒鳴って突き飛ばし投げ入れた枝は何かを成した。その内容はいつもの様にシンさんのみしか分からない。
気合の入った横顔の迫力に構えが一瞬遅れる。
そうだ、あの爆発にだ。
ダイン殿の眞力の封じ技をあの木ギレで破るだけでは無く爆風まで生じると誰が予測出来るだろうか?
最大魔法に近い爆風に何とか肉体強化の魔法を纏わせた俺はやっと立っているだけで精一杯で、実際は目も開けられない。
これでは辺り一面が壊滅する…は!!
シンさんは…。
不安と嫌な予感に騒つく胸の内を他所にやっと目を開けられた俺の見たモノは。
シンさんの前に立ちはだかるブヤンとガイエ様だった。二人はシンさんの前で結界を張り爆発から彼を守っていた。だけではない。
後方にあるこのポンズ村すら無傷だった。
驚いているかとシンさんの顔を覗けば、何故か焦った顔をしている。
視線の先には斑らに石像化したダイン殿の姿があった。
慌てたシンさんは、私が止める間もなく原液のままレラの汁をかけていた。
。。。やはりか。染みるというレベルではない激痛に身を捩るダイン殿に慌てて布で擦っているのはシンさんの恐らく優しさ。
全く優しさとして通じてはいないが。
ダイン殿は必死にシンさんから逃げている。助け舟を出さねば。
そりの合わないガイエ様と一匹狼で鈍感なブヤンでは役に立たないからな。
「シンさん。こちらの石像もお願いします。とにかく、村長だけでも事情聴取する必要がありますから」
そう言いながら『レーレ』を取り出してガイエ殿へと渡した。以前、秘薬として有名な薬をあっさり作ったシンさんに口止めをして『言い値で買いますから私のみにお売り下さい』とお願いして一品。
これひとつでも、我が商会にとりシンさんは最優先取引先となる。
一飲みしたダイン殿は、あっさり治った自分の身体を眺めては首を捻っている。
まぁ、常識外の薬だからだ。
その間にも、またもや原液を頭からかけたシンさんを誰も止めておらず村長がのたうち回る。慌てた俺は薬を飲ませる。
ふぅ、常識人がもう一人くらい欲しい。
一瞬で治癒したはずの村長は項垂れたまま、動かない。
「村長さん、何か訳がありますよね?」
肩を落とす村長に即座に同情をして超お人好しのシンさんにブヤンさんが耳打ちしていた。
「ここは、シンさんの『グーテ』が役に立つと思いますよ。アレ特別旨いですから」
シンさんは役割ができる事を喜ぶのを利用したな、まぁ正解だがな。
走って家へと戻るシンさんが消えた瞬間に、ガイエ様とダイン殿の怒気が辺りを埋め尽くす。
俺ですら息が苦しい。
「お二人とも、このままじゃ証人が居なくなりますから少し抑えて下さい」
振り返ったブヤンの余裕の素振りに差を感じる。本物のSSランクの冒険者は違うと思い知らされる。
冒険者を離れてだいぶになるのに、未練だなとため息が出る。
その後の取り調べで、ガイエ様やダイン殿よりブヤンの方がヤバイかもしれないと認識を変える事になる。
だが、内容は深刻だった。
黙り込む我々に、「お茶が入りましたよ〜」とシンさんの声がかかる。
村長の腕を掴んだブヤンが「とにかく、シンさんにも知恵を借りよう」と家へと向かった。
出された『グーテ』に村長が仰反るのにシンさんが相変わらず「えー?苦いかな」と頓珍漢な答えを返していた。
シンさん…。
苦笑いが浮かんだ。。