煙の正体とは?ーダイン視点ー
ーダイン視点ー
ふーむ。世の中は広い。
こんな事もあるとはな。
俺が浴びて一瞬で石像となったのに、何故部屋の隅にあの煙が渦巻いているのだ?そもそも、我が眞猪族の魔力を消し去る家とは。
平凡な犬族の小太りのシンと言う男。見た目通りでないのかもしれぬな。
ピッ。
その音をこの後何回も聞くことになるのだが、俺は生まれて初めて度肝を抜かれたのだ。
あのシン殿が扱う妙な魔道具が煙に向かって光を放ったのだ。
触れたら、一瞬で石像となる奇妙なモノは俺でも歯が立たぬのにシン殿は近くではないか!!
慌てた俺を引き止めたのは、腹立たしい鳳凰族のガイエとか言う奴だ。
「危険はない。査定屋としてのシンさんは恐ろしい力を持つのだ。我らの付け入る隙などない」
「馬鹿を言え。お主は知らぬから悠長な事を言ってられるのだ。アレに触れたモノは石像になる、コレは誰も逆らえぬ何かなの…えっ」
言いかけた俺が固まったのは、煙をまるでボールの様に掴んだシン殿が眺めているからだ。何故石化せぬ?あやつは一体…。
「分かりました、ガイエさん。
この煙は有毒なガスで出来ているのです。石像となった人々を戻すにはクエン酸かな?となればレモン。あ、こっちの世界ではレラと言う実だと思いますよ」
顔を近寄せて何か空中を見つめながら話すシン殿は少し不気味に見える。背筋にゾワゾワとした寒気を感じるのはいつ以来か。
ま、眞猪族の矜持としてそんな素振りは見せぬがな。
「ダイン様。シンさんのあの様子はそっとしておいて下さいませんか?有能な能力の割に繊細な方なのです」
そっとしておくだと〜!!
こんな出鱈目な能力を見せられてか?
俺は言いかけて珍しく固まった。
「ありました、ありました。先日レラの実を取っておいたのです。コレをかければ…ほら!!見て下さい。煙が溶けて残ったのは何だろう?えーっと」
レラの実の話が出た時、実は心中ではため息が出てたんだ。神話の時代の架空の果物だそ?神様が我々の先祖に下さったと言う伝説の実なのだ。
で、あの黄金に輝いているのは本当にレラの実らしい。あの煙が1発なのだから。
更に背筋に汗が流れようとしていた時、商人とか名乗った小僧がしゃしゃり出た。
「シンさん。そちらに隠したのは何ですか?いつもなら見過ごしておきますが、この様な事態です。お話願いませんか?」
コイツ絶対性格悪いぞ。丁寧な癖に追い込むのがあの笑顔だものな。それに泡を食うシン殿はどう見ても鈍臭い犬族そのものなのだがな。
「あ、あの。コレってばそんなに悪いモノなのですか?悪さをしてしまったのかな」
明らかにしょげているシン殿の手のひらには、見た事もない何かのカケラがあった。
「いいえ。シンさん。道具というのは使う者の心得次第でどうにでも変化するモノです。
ですから、元々の持ち主が失くした後どう使われようと責められる謂れはありません」
少し優しさを滲ませた様子に見えるが、落しのテクニックに違いない。シン殿はいっさい気づかずホッとした様子だ。
「コレはドライアイスと言うモノのはずです。ただ。俺の知ってるドライアイスは空気に触れたら気化するのだけど何で石化させたりしたんだろう…」
半分は理解できない単語だった。
その時に気づくべきだったのだ。
シン殿が只者ではないと言う事に。
そのせいで甘く見ていた俺は痛いしっぺ返しを食うのだから。。