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亡国の錬金術師、母になる。  作者: レトロ
第一章
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1

「だから何故だ!何故父上を置いて来たと聴いている!」


「ですから坊ちゃん…王の命でそうしたと言ってるでは…」



国が滅び森に消えたあと二人はそこから遠く離れた街に向かっていた。


しかし目覚めてからというもの坊ちゃん……つまり王子は現実を受け止められずにいた。


自分の国に居場所が無くなり親が死んでしまったということを。


「嘘だ!お前は昔父上に権力を奪われたことを知っているぞ!それを憎んで父上を助けず殺したのだろう!」


「いえ…ですから……」


「そもそも何故あんな反乱が起きたのだ!我が国は豊かではなかったが無理な税収も無茶な法律も無かっただろう!くそっ……!くそぉ……なぜ…」


「坊ちゃん……」



彼女には自分の親を奪われ住む場所も自分の誇りであった国を奪われ涙を流す王子に易々とかけられる言葉は見つからなかった。


今王子が言ったことは全て本当の事であり、自分では何も言うことが出来ないからだ。



(確かに今回の反乱はおかしい。自分の首を犠牲に坊ちゃんを逃がす様な…あの優しき王が反乱される理由は全くと言っていいほどない。)



国に使えたものとして怒りを覚えたがそれ以上に今は王子を優先するべきだと判断した。



「……坊ちゃん。私は本来六つの時に死んでいるはずです。それがこうして二十年も王に使える事が出来たのですから少なくとも私は感謝すれども恨むような事はありませんし王を裏切ったりはしません。

それとも坊ちゃんはあの王に私が恨みを抱く程の酷い真似が出来るとお思いですか?」



人民には厳格と知られる王は身内にはとにかく優しく全てを他人を基準に動き自分の事を後回しにするひとだった。


(そこがいい所と同時に弱点でもあったんですけどね)



「……おも…わぬ…」


「でしょう?」


「……本当に…父上は私を…私、だけを助けろと、言ったのか?」


「……えぇ。」


「…………そう…か……そうだな…すまない…だが、信じたく…無くて……お前がそんな事はするはずないのに……」


「いいんですよ、本当の事ですしね。」



生まれてから常に傍にいてまるで兄弟の様に育った相手を疑ってしまったこともあってか、現実を受け止めたことで疲れがましたのか。

王子の足取りがおぼつかなくなり消沈仕切っていた。



「……今日はここで一旦休みましょうか。」


「別に、気にするなまだ大丈夫だ。逃げろと言われたのだ。まだ気を抜くわけには行かない。」


「む……、では坊ちゃん、私が疲れたので休んではくれませんか?乙女に森歩きはきつい物ですよ。」


「……お前が乙女ならどの娘も乙女であろうよ、だが……まぁ…そうだな…お前が疲れたなら、仕方あるまい、休むか。」


「えぇ、そうしましょう」




そう言うと彼女は満足気に笑い手を突き出し何かを呟いた。

すると、ぼうっ…と手の中に水色の光が浮かび上がりどこかへとフラフラと飛んでいく。



「こっちですね。」



そう言い言った先には小さいが川が流れていた。



「今日はここで野宿です。」


「今のは習ったことがない真言だな。」


「えぇ、優先度か低いものでしたからね。いつかお教えしますよ。」


「うむ…助かる」


真言。それは錬金術として物質から力を取り出し扱う時に使う呪文のことである。

つまり錬金術とは物質から力を取り出しそれを扱うもののことを言う。


(この力があれば大方なんでも出来てしまいますからねぇ……)


再びこの世の理不尽さを再確認してしまうのであった。


考えつつもテキパキと水を組乾燥した枝を集め、野宿すると決めた場所を囲むように薄紅の粉を巻いておいた。



「坊ちゃん、食料を取りに行ってくるので火をつけて置いもらってもいいですか?」


「うむ、任せよ。」


「枝はここに置いておきますので。あ、決して私のあげたお守りを離しちゃだめですよ。」


「分かっている。」


「この円から出ちゃダメですからね。」


「うむ。」


「後、火の真言は森で使うと危ないので不用意に唱えちゃだめですよ」


「…うむ。」


「それから…」


「早く行ってこい!私を子供か何かかと思っているのか!」


「……もう、まだまだ子供でしょうに。では行ってきますね。」


「うむ。」



にっこりと笑い、そう言うと彼女は森を音もなく駆け出しその場を離れた。

だが、その目は明らかに獣を狩るだけの目では無かった。


しばらく走り開けた場所に来ると後ろを振り返りニヤリと笑い、森の闇に話しかけた。



「出てきたらどうです?こんな夜更けに乙女の後を黙ってつけるだなんて不躾な殿方ですねぇ。」



そう煽ると闇から一人の男が出てきた。



「ちっ……これだから錬金術師は…おい、王子をどこに隠した。」


「言うわけないじゃないですか。」



彼女がさっき仕掛けた薄紅の粉には彼女の真言が込められていた。

道中も少しずつ粉をまき追跡を誤魔化していたのだ。



「『その秘めたる根源によって示さざるは“隠し”』…いやぁ上手くいってよかったですよ使い慣れてないですからねぇこの真言は。」


「ふん、どうせ貴様を殺せば解決する話だがな。大人しく死んでくれ錬金術師さんよ。」


「嫌ですよ。あぁ、一様聴いても?貴方は誰に雇われたんです?」


「教えてもいいがどうせ分かってるんだろう?亡国の王子様とその従者ならなぁ?」



そう言ってその男が腰の剣を引き抜き殺気を放つ、空気がまるで凍ったかのように静かになる。



「貴様ら錬金術師は近接戦闘は弱い!そんなの百も承知だろう!死ねぇ!」



男がそう言い放ち上段に剣を構えながら飛び込むと同時に反対側の森から別の男が飛び出して来る。

挟み撃ち、最初から二人いたのだ。



「ふん!馬鹿正直に戦うわけがないだろう!」


「死ねぇぇぇええぇえぇぇえ!」



横薙ぎの後ろからの剣、振り下ろされる剣。

男はどちらも仕留めたと確信した。

だが、



「……私はねぇ、怒っているんですよ。貴方の雇い主に……その身勝手な行動に。」



彼女がそう言い放つと同時にその剣は錆付き初めまるで数百年塩水に晒し続けたかのような姿になり、当たる寸前にはもう既に塵と化していた。



「!?」

「なっ!?何故だ!?」



そう、有り得ないのだ。

錬金術は真言を唱えなければ発現し無いもの。その為唱える前に殺してしまえば脅威にはならないはずだった。



「さぁ?何故でしょうね?」


「いっ、今のは真言じゃない!なんだ!今のは!」



男達の叫びを無視し、彼女は薄紅の粉を撒き呟いた。



「『その秘めたる根源によって示さざるは……”雷”』」


「なっまて!やめっ……!」



武器を失い、予定どうりに行かなかったことから動揺し逃げ出そうとした瞬間、張り詰めるような空気と耳を貫く爆音が鳴り響いた。

雷が男達に降り注いだのだ。


「!!!!!!!」


そんなものを耐えられるはずも避けられるはずもなく声にすらならない叫びをあげ男達は絶命した。



「…ふぅ。」



黒焦げた地面と肉の焼けた匂いが当たりをたちこめ黒い煙が彼女を巻く。

まるで人が爆ぜたのかの様だった。

余りにも残酷な殺し方、そして死体。



「あぁ……やっぱりダメですねぇ。こんなのお坊ちゃんには見せられませんよ。あ、やはりここにいましたね。」



そう呟くと彼女は雷の余波で痺れ動けなくなっている小動物を拾い、楽しげに言うのであった。

まるで人が死んだ事を、殺した事を忘れたのかのように。



しかし、その顔には、



「やっぱり…人が死ぬ瞬間は美しいですねぇ」




三日月の様な笑みが張り付いているのだった。


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