ある夜の試合
「そうだ、そう。
剣を『愛する』なんて表現したんだ。
そんな奴から剣を得るのが、
簡単であるわけがない」
アサの前には刀を抜いた女。
アサの手には剣。黒い剣。
「この剣は俺が今持つ、一番良い剣だ。
あんたの刀にも劣らないと俺は思っている」
「あなたは、本当に剣が好きなんだね」
アサは少し笑った。
「ああ、俺の生きる理由だ」
当然のことだとアサは言った。
アサの目を見たままリリは話す。
「その黒い剣を失いたくないのであれば、
このまま、引き下がってもらえないか?」
「無理だ、俺の心にかけて。
もしも、この剣を使って俺が負けるなら、
俺がこの剣にふさわしくないということだ」
「そうか」
リリは息を吐いた。
瞬間、雰囲気が変わる。
まるで歴戦の剣士のように。
筋肉も骨も、戦うために鍛え続けた人間であるかのように。
倒れるアサ。
語りかけるリリ。
「約束通り、もう、この刀を盗ろうなどとしないことだ。
そしてもう二度と、ウミネコ麦酒房に危害を加えるな。
君もその剣が好きなら、軽々しい行動で、その剣を失うようなまねはしないことだね。
剣を賭けると君は言ったが、私は刀と店に手を出さない約束が守られれば十分なんだ。
その剣、奪いはしない。君も剣を愛するなら、
その剣、大切にしてあげたまえ。
良い剣だよ。盗人の真似事なんて好まない高貴な剣だ」