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10 裏への招待(半強制)


 夜遅くになっても翡翠が一向に目覚めないので詳しい話をするのは後日ということになり、来留芽は藤野と一緒に翡翠の家へ向かっていた。来留芽が同行しているのは恵美里への説明のためだ。


「本当に恵美里にも話して良いもの?」

「私もそこは心配しているけども、土地神様が言うにはその子も翡翠と同じくらい……下手したら翡翠以上に力を秘めているらしい」

「あの恵美里が……。でも、一度知ってしまったら後戻りはできない」

「そこは可哀想だと思うけど、このままではまた今回のような事件に発展しかねないからね。早いうちに霊力の制御に慣れてもらわないと」


 藤野の話によると日高親子の守りは彼が所属している集団……夜衆が一手に引き受けていたらしい。しかし、彼女達の霊力は恐ろしいことに時を経るにつれて上昇していると分かった。

 そうなると夜衆だけでは守り切れなくなってきたのだという。高い霊力は異形の者にとってのごちそうである。襲ってくるモノが増え、本部に話が行くほどになった。翡翠が常世商会に入れたのも本部が経過観察するためという理由が大きかったそうだ。今となっては果たしてそれに意味があったのか分からないが。それならば夜衆で引き受けてしまえば良かったのにという考えも浮かぶが、どうも大きな組織に睨まれたくなかったらしい。


「そして、ここにきて今回の事件だ。翡翠さんが常世商会で冷遇され、嫌でも力を高めざるを得なかったのは商会の、ひいては本部の手落ちだけど事件を起こしてしまったことのけじめは付けなくてはならない」


 本当に普通の一般人だったら誤魔化しきるのが本部の手であるが、不運なことに日高親子は霊力が強かった。だから本部に目を付けられてしまったのだろう。


「恵美里は完全に巻き込まれただけ……ほとんど部外者なのに」

「使える人材は逃したくないというのが本部の狸どもの見解だろうね。この流れはもう変えることはできないんだよ。でも、翡翠を冷遇するようなところに任せるわけにはいかないからこれから本気で仕事をしなくては」

「社長も今回ばかりは全力で本部と交渉すると思う」

「そうだね。守は本部でも恐れられているからね。……渡世の当主ともども」


 渡世家と古戸家はともに本部で恐怖伝説を築き上げているらしい。来留芽の両親が同時に本部に一時的に所属したときは藤野曰く笑える状態だったとか。一体来留芽の先祖は何をしたのだろう、父と母も何かやらかしたのだろうか、と疑問に思う。いつか聞けるといい。


「ここが翡翠さんの家だ。私は両手がふさがっているから……」


 インターホンを押すのは来留芽に任せたということだ。昔ながらの呼び出し音が聞こえてから少しして小さく扉が開かれる。


「はい……どちら様ですか? あれ、古戸さん?」


 流石に寝ていたのだろう。恵美里は少しだけぼんやりした顔で表に出てきた。


「こんばんは、恵美里」

「こんばんは……ええと……そちらの方は……あっ! お母さん! えっ、何があったの……」

「説明したいからとりあえず上がってもいい?」


 予想通り、藤野の背中でぐったりしている翡翠を見て恵美里は慌てていた。少し強引だと思うが家に上がらせてもらう。絶賛混乱中の恵美里は問いかけたことに素直に答えてくれる。そして、聞いた場所に翡翠を寝かせたところでようやく落ち着いたようだった。


「……古戸さん、だよね。この人は……?」

「来留芽でいいよ。この人は藤野さん。翡翠さんの知り合い。それで、落ち着いた?」

「うん。何が……あったの……?」

「まず、翡翠さんの状態についてだけど、今は疲労で眠っているだけで、しばらくすれば普通に目が覚めると思うから心配しないで」

「うん……分かった」


 そして、肝心の説明に入る。ここに来て来留芽は緊張していた。ほとんど関係していない人に話すのはこれが初めてだからだ。それに、知り合いである恵美里を来留芽達のいる裏に引き込んでしまうということに罪悪感も抱いていた。こちら側は時に非情で酷薄な世界……そして、人の愚かさ醜さ苦しみと向き合わざるを得ない影の世界だ。早々に馴染めるものでもない。

 しかし、彼女達を放っておくことはできない。特に翡翠は今回のことで自分の力を……異質さを自覚しただろう。たとえ忘却の呪を掛けたとしても絶対の効果は無く、何らかのきっかけで思い出してしまうことがある。それに、土地神はこの親子を観察し続けるとストーカー宣言していた。放っておいても自分の力を自覚する羽目になるだろうし、そうなったら本部も本気を出してくる。彼女達が使い潰される可能性も出てくる。

 だから、今のうちにオールドアに引き込むのだ。そのために来留芽はここにいる。


「今日……日付が変わっているから昨日かな……翡翠さんがそうなった出来事について説明するよ」


 そうして来留芽はまず大樹の元で起こった戦闘から話していく。話しながらそれとなく恵美里の顔を見るが信じた様子はない。そうだろうな、と思う。来留芽も裏を知らなければこういった話を信じるかは疑わしい。精神科を勧めるかもしれない。


「ええと……来留芽ちゃん……」

「信じられないかもしれないけどね、本当のことだから」

「でも、お母さんも……わたしもその土地神様? の加護を受けているって言うけど……分からないし……危険だと言われても……加護を止めてもらえばいいんじゃないの?」

「土地神様の加護はあなた達を守ってくれるものだから、止めるというのは逆に危険」

「少し口を挟んでもいいかい? ええと、恵美里さん。君は今だいぶ混乱しているようだからまとめるよ。

 まず、君達親子はこちらで言う霊力……不思議なことを起こせる力、かな……それを普通の人よりも多く持っている。それは幽霊やあやかしを引き寄せてしまう。これは分かってくれたと思う。

 それで、霊力が多い人はあやかし等にとってとても美味しそうに見えるらしい。だから君達は危険にさらされている。ただ、君達のような人は神様にも気に入られやすい。土地神様の加護を受けているのがその証拠だね。そのお陰で弱いあやかしは近付けないようだ。だから加護の効果をなくしても意味は無いんだ。問題なのは君達の高い霊力でね。今、その霊力はダダ漏れになっているんだ。そうするといらない騒動が寄ってくるし君達自身も危険になる。

 来留芽さんの提案は君達自身が霊力を制御して身を守れるようにすると共に厄介な私達の世界の監察機関の手から逃れることができるようにということでなされたものだ」


 それを聞いて恵美里は途方に暮れたような顔を浮かべると呟いた。


「……それは、提案をのまないという選択肢がありませんよね……」


 来留芽も自分達が卑怯だということには気付いている。しかし、そうしないと恵美里達を異形から、本部から守れない。


「恵美里……」

「お母さん! 起きても大丈夫なの?」


 ちょうど翡翠が目覚めたようで、来留芽達が話しているリビングにやって来た。


「大丈夫よ、恵美里。藤野くんの話は聞こえていました。貴方方の提案を受けたいと思いますが、貴方方の世界の監察機関は私達に何をしてくると考えられますか?」

「そうだね……やはり一番可能性があるのは君達の持つ霊力を利用することだろうね。人によっては実戦でかなりの霊力を消費するんだ。しかし、君達のように霊力を豊富に持っている人が近くにいれば、それを分けてもらうことで霊力不足での戦闘不能を避けることができる」


 ただ、本部がそれをやるとすると、絞れるだけ絞ってアフターケアを一切しないということが考えられる。特に翡翠は今回の事件を起こしてしまった張本人とも言えるから罰として行ったと言われると止めることができなくなる。あそこは昔から勢力があったからか所属している異能者も傲慢(ごうまん)で手に負えない者がちらほらいるのだ。


「では、霊力が切れたときはどうなるのですか?」

「本当に全てを失ったときは昏睡状態になるかな」

「昏睡状態……もしかして、あの人は……」

「ああ、あいつはあらゆるモノを霊力に転換できるからあり得ないと思っていたんだがな。おそらく何らかの脅威が翡翠さん達に迫って、それから守るために貯め込んでいた霊力を使い果たし、自分の身を守る分が無くなってしまったところに攻撃を受けたのだろうね」


 翡翠の夫だった佳樹の話だ。来留芽は藤野から聞いていたので何を話しているか分かったが、恵美里は何も知らないのか、はてなを飛ばしている。


「お母さん……何か知っているの? 来留芽ちゃん達のこと……信じられるの」

「ええ。貴女のお父さんのことでね。少しだけ不思議なことがあったのよ。それと、昨日……いいえ、一昨日から信じざるを得ない体験をしてきたからね」

「来留芽ちゃんも……何か不思議なことを起こせたり、する?」


 ――ああ、そうか

 翡翠は超常現象を目の当たりにしたが、恵美里は見たこともないのだ。なかなか受け入れられないのも無理ない。それなら分かりやすい呪を使えば良いだろうか。

 来留芽は今現在の回復状況を見てできることを考え、人差し指を伸ばした。


「じゃあ、こんなのは?」


 前に薫にも使った呪だ。コップのお茶を熱くするものになる。分かりやすく超常的な術だろう。


「わぁっ! え……温かくなった……え!?」

「あら、助かります。温かくていいですね」

「え、お母さん、何で驚かないの」

「だから、お母さんはもっと不思議な体験をしてきたの。これくらいなら許容範囲内よ」

「タネも仕掛けもないよ。信じてくれる?」

「う、うん……目の前で起こったこと……だもん。信じるしかないよ」


 その後、来留芽と藤野は淹れてもらったお茶を飲んでから日高家を出た。既に日付が変わっているし、長居するのは失礼になるからだ。また明日オールドアで翡翠の扱いをどうするのか、霊力制御の指導は誰がやるのかを午前に決めて午後に二人を招いて通知することになる。


「社長はうまくやってくれるかな」

「守なら大丈夫だろう。今回は本気で交渉に向かったはずだから、むしろ本部の連中が可哀想になってくるな」


 自分も本部側だろうに、やけに良い笑顔を浮かべている藤野を来留芽は呆れたように見る。


「藤野さんも本部に席を置いていなかったっけ」

「あれは本部に依頼されたからだ。私は今も変わらず所属は夜衆だよ」


 つまり、夜衆はこの辺りを中心に活動してきた組織だから本部が委託したということだろう。本部に恨みを持っているはずの薫が普通に仕事することができている理由が今分かった。

 薫の事情は少しだけ聞いたことがある。彼は翡翠達とは違って誰にも能力者であると悟らせずにしばらく生きていたらしい。しかし、うっかり力の加減を間違え、異常者として知られてしまい、逃げ回る生活をしていたという。しばらくして社長に捕まったが本部が屁理屈をこねて掻っ攫っていった。そのときに相当なことをやらされたらしく、その後に何とかして保護したときにはひどく本部を憎んでいる様子だったそうだ。何があったのかは詳しく聞けないでいる。

 ただ、薫の場合は何らかの手を使って自分の力を自覚し、コントロールできていたから、オールドアに引き取るのも早かった。今回はどうなるだろうか。何だかんだと理由を付けて本部の子飼いになどと言われそうだ。……もしそうなったら社長をせっついて本部と徹底抗戦だ。


「まぁ、心配しなくても良いと思うよ」

(むしろ新たな恐怖伝説を築いてくるかもしれないんだよな……)


 渡世守を知る藤野からすればそちらの方が気になっていた。



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主人公以外の視点他あります
 『蓮華原市の番外』
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