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蓮華原市のあやかし奇譚  作者: しまもよう
花丘家之蔵
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5 蔵へ


 細も帰ってきて、早速今日の本題に入ることになった。簡単にまとめた資料が全員の手元に渡っている。それを何となく眺めて会議室が静かになったとき、社長が話し始めた。


「皆知っているかと思うが、依頼人の大岡修三によれば……」


 ポイントは花丘家の当主も依頼してくれたのでより大胆な手を使うことができるようになったこと、樹が持ち帰った文書の存在、そして花丘家の蔵のリストについてだ。


「ふ~ん……リストを見る限りあそこの蔵には夜桜関連の物はなさそうだね」

「ああ。樹が持ち帰った文書で大体のところが分かるからな」


 文書は持ち帰ってきたばかりだからまだ内容をまとめていなかった。だから回し読みすることにしたのだが、パラパラと読むだけでも問題の彼等のすれ違いがよく分かってしまう。もちろん、これだけの情報で断言するわけにもいかないが。


「じゃあ、問題は日程と担当者ってことっすか」

「日については一応占っておいた。ただ、細はそっちも得意だったはずだからすりあわせておきたい」

「ああ、それはやってあります。……こちらでは明後日、もしくは来週の土曜日がベストですね。ただ、桜のことを考えると明後日一本でいくべきかと」


 来週だと桜が散ってしまうかもしれないのだ。それで問題の鬼女が現れなくなってしまったら困る。


「……やはりそうなるか」

「ああ、そう言えば社長~。それについてなんだけど、今日来ていた花丘家の当主の孫、あの子を巻き込んだ方が良いかもしれない」

「樹、一体どうやって見たんだ? もしかして、得意の……」

「そう、お得意の盗撮で! ……いや、冗談だって。犯罪者を見るような目は止めてくれないかな~、来留芽。実は訓練がてら鴉と視界を共有していてね~。ビビッと来たんだよ。彼さ~、たぶん日記に出てくる忠次の魂を持っているよ。まだ確証があるわけじゃないから今夜あたり確認しに行くけど」


 その言葉に社長や細、来留芽は額を押さえて溜息を吐いた。ブレーキ役がいなければどんな犯罪行為でも平気でやるのではないだろうか。そう思わせるような樹の行動には頭が痛い、ということだ。しかし、もたらされた情報は重要な内容を含んでいた。


「樹兄、夢渡りの術で確認するなら資料に書いておいた小野寺先輩や千代の夢を覗いてみれば良いと思う。もちろん、ちゃんと許可を取ってね」

「へぇ。『夢』を見ている人がいるんだ。僕の本領発揮だね~。分かった、でも、許可は来留芽が取ってよ」


 それはそうだ。いきなり知らない人から「今夜夢を覗かせてもらっても良いかな」とか言われたら恐怖しか浮かばないだろう。そんな風に声を掛けてくるとしたらそれは通報されるべき変態だ。


「そういえば細、京極家の話だが……あそこはまだ“商売”をやっているのか?」

「まだ続いていると思います。隠れ蓑ですから。何かウチの者が無礼を働きましたか?」

「ああ、いや……花丘家の当主がずいぶんと京極家を警戒していたからな。あの人は一般人だから少し奇妙に思っただけだ」

「あー、財閥であれば多少の関わりはあるかもしれませんね」


 細はあまり自分の生家(せいか)の話をしない。それは樹や薫もそうだ。ただ、京極家は極道の家系だとかいう話は意外に有名なようだ。正直、それは言えなくて当然だと幼心にも思った。細はよく一般に紛れて生きていられるものだ。裏のシステムが上手く機能しているのだろうか。


「それよりも、夜桜と蔵整理に向かう人選をどうするか、だな」

「社長。蔵の方はいつやるのかな~?」

「大体予定が開いているのが来週の土曜日だな。細と来留芽と樹は動けるはずだ。巴と薫はどうだったか……」

「あー、来週は本部の仕事っすね。巴も同じっす」

「そうか。それならば先程挙げた三人だな。行ってくれるか」


 当の三人は特に用事が入っているわけではないので了承する。

 そして夜桜については社長から関係者各位に日程と参加の有無、花丘家の当主には孫の一樹を参加させてもらいたいこと、蔵を改める日を連絡した。



 ***



 そして翌週の土曜日。夜桜の鬼女も無事に解決し、その後始末を終えたころ、花丘家の蔵を改める日がやって来た。


「ようこそいらっしゃいました。オールドアの皆様ですね? 私はこの家の家政婦をしている伊藤と申します。まず当主様のところへ案内するように仰せつかっておりますので、ついてきてください」


 この日、花丘家まで来たのは来留芽に細、樹の三人だった。いると心強い社長は残念ながら用事が入り来ることができなかった。ただ、もし手に負えないものだったら遠慮無く呼び出すようにと言われている。もちろん、その場合は遠慮無く呼び出すつもりだ。手に負えないものは社長に丸投げする、というのは暗黙のルールである。本人は少し嫌そうだったが。


「栄一朗様。オールドアの皆様がいらっしゃいました」

「そうか。入れ」


 伊藤に誘われて入ったそこは和室だった。掛軸も品の良いものだ。許可を得て座ると当主はこちらの面々を見て「若いな……」と呟いていた。それは仕方が無いだろう。年配の人でオールドアに来てくれると言ってくれた人はいなかったのだ。彼等にはすでに一生を過ごすと決めた場所があった。オールドアの所属のままでも、妖界を中心に回っている人もいる。

 現世をメインにして働いているのは来留芽達のような若い面々なのだ。


「まず、儂は花丘家の当主、花丘栄一朗だ」

「私はオールドアの社員、京極細です。彼は山無樹、その隣は古戸来留芽です。この度はこちらにご依頼いただき、ありがとうございます。こちらのリストを参考にさせていただき、この人選となりました。こちらは大事なものなのでお返しいたします」


 細がリストを机の上に置く。これを見れば花丘家の蔵にはかなり値打ちのある物が置かれていると分かってしまう。無闇矢鱈に外に出すべき情報ではない。それに、一部神事に使える物まであった。それを裏に知られたら狙われることになるだろう。


「まだ必要なのではないか? 蔵で照合するのに使うはずだと思っていたが。整理が終わってから返してもらえれば十分だぞ」

「いえ。もう覚えてしまったので大丈夫です」


 樹がいるから問題なかったりする。それに、危険なモノがいるならいちいちリストと照合していられないから返してもいいのだ。


「ふむ。そうか。それならば返していただこう。ところで、どうしてその人選になったのか聞いてもいいか?」

「はい。例えば巻物や掛軸については私や来留芽が詳しく、彫刻などは樹が詳しいです。取り扱いや万が一修復などが必要になった場合、このメンバーであれば対応できます。それに、問題の鎧ですが、封印する必要がある可能性も出ています。その場合は樹が鎧の暴走を抑え、私と来留芽が封印をします。そう言った意味でも人選はこのようになりました」

「封印する必要があるかもしれないのか……その場合、蔵に置いたままにするのは危険ではないか?」


 確かに危惧していることは分かる。細は顎に手を当てて慎重に返事をする。


「場合によりますね。封印した上でも危険であればオールドアが引き取るという選択肢もあります。いずれにせよ、一度見てみないことには何とも言えません」

「そうか。では、これが蔵の鍵だ。場所が分からないだろうから一樹に案内させる。あと……そうだ、その……以前にオールドアへ行ったときつくも神などが見える呪符とやらをもらったのだが、また売ってもらうことはできるか?」


 当主が少し躊躇ってから聞いてきたことに来留芽達の想定外のことで、戸惑う。


「何故、とお聞きしても?」

「ああ……この根付のつくも神の話が面白かったのだ。儂の知らない祖父の行動も教えてもらえて……久しぶりに楽しくなった。呪符が欲しいのは短い余生に彼等と話してみたいと思ってしまったからだ」


 つくも神は比較的人に好意的な存在だ。人の美しさも醜さも全てを知り、受け入れてくれる。それでいて、純粋だ。そして持ち主に対して思慕の念を抱いているものが多いから、根付の白蛇にしても純粋な好意をぶつけてきたのだろう。

 花丘財閥の頂点たる当主は長年人の光闇を見てきたに違いない。決して綺麗なままではないはずだ。そういう人ほど純粋さに溺れてしまう。

 闇が深い者ほど眩しい光を求めてしまう。その気持ちはよく分かる。しかし、呪符を売ることはできない。それは彼のことを思ってのことだった。

 細は頭を振って拒否を示す。


「……残念ながら、そのような理由では呪符を売ることはできません。申し訳ありません」

「やはり希少なのか? あのような呪符は」

「まぁ、貴重ではあります。ただ、私が売らないと言ったのは見鬼の呪符を使い続けることで重大な事故が起こる可能性が高くなるからです」

「儂は今更死ぬことを恐れはせんぞ」


 違う。事故に遭うのは当主だけではない。

 来留芽はそう叫びそうになってすんでの所で抑え込んだ。話しているのは細だ。来留芽が口出しする場面ではない。それに、彼ならこれらのことを分かっている。呪符については来留芽よりも先輩なのだから。


「あなたはそうだとしても、あなたの家族は違うでしょう。見えている人がいるだけで異形は近寄ってきます。彼等は悩みを解決して欲しいとやって来るのです。後から後から絶え間なく。そのうちに普通の人が見えるほど異形が溢れるでしょう。それに驚いて怪我をするかもしれません。それに、財閥の家が異形で溢れているとなったら社会も混乱するでしょう……」


 細が全てを言い切る前に栄一朗が慌てて止めに入る。


「ああ、分かった分かった! 裏には裏のルールがあるのだな。呪符は危険なのか……。分かった、時間を取らせて済まなかったな」

「いいえ。それでは、蔵の方に行かせていただきます」


 来留芽達はその部屋から出た。しかし、来留芽は最後に見てしまった。当主が根付に目を落としたところを。その横顔はどこか寂しげだったのだ。そして、白蛇さんが慰めるように頭を擦りつけていたのが印象的だった。


「当主は本当に大事にしていたんだろうね。つくも神はたいてい献身的だけど、一方的であることの方が多いもの」


 それが、彼等は互いに想いがあった気がする。


「言ってもしかたがないよ、来留芽。例えつくも神と話すことだけを目的にしていたとしても彼は一般の人だから。こちら側に踏み込ませてはいけない。一回二回だけなら良いんだけどね~」


 そんな彼等に近付く影があった。一樹だ。


「オールドアの皆様ですね。ようこそ。僕が花丘一樹です。蔵へ案内させていただきます」

「お願いします」


 蔵は意外と離れた場所にあるという。というか、財閥の家は屋敷もそうだが敷地面積も広いと悟った。


「そういえば花丘は夜桜の際に幽霊が憑いていたな。あれ以降何ともないか? 体調とかおかしいと感じたら小さな事でも言ってくれ」

「大丈夫です。あの日は少しだけ寂しい気がしましたが、それも寝てしまえば消えましたから」


 忠次も一樹を形作るものの一つだったのかもしれない。しかし、それについてはもう心配することはなさそうだ。


「それはそうと、あそこが我が家の蔵です」

「なるほど……古いな」


 それに、霊能者だからこそ分かるが、異様な空気が広がっている。空は晴れているというのに蔵の周りだけ曇っているように暗く感じる。澱んだ空気だ。


「何かやばい物がありそうだね~……」


 樹の感想が全てを物語っている。その時既に楽な仕事にはならないだろうという予感がしていた。



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主人公以外の視点他あります
 『蓮華原市の番外』
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