垣間見る春の一幕。
本文のワンシーン(ネタバレになるので後書きに書きますが…)が浮かび、深夜テンションで書き殴り。
時間潰しに使って頂けましたら光栄です。・゜・(ノ∀`)・゜・。
サラリと撫でられる感触に、朧気な意識の中で自然と体がねだるように動き出す。
幾度も繰り返されるその動きは、労るように慈しむように…我欲ではなく、他欲によって―コチラの事を考えて―されていると判る心地に、自然と口角は上がり、穏やかな目覚めを促してくれた。
「……ピ…ジョ、ン…さ、ま…?」
寝惚けた意識のまま視界に映るぼやけた輪郭。
形を視認する前に、色彩だけで誰かなのかを確認して名を紡ぐ。
けれど、昨夜に行われた営みの後遺症か…涸れた微かな声しか発せない事に、思うままに話せぬ我が声に眉を顰めてしまう。
「おはよう。リィヴァ。よく眠れたかい?」
「……ハイ…」
次第に鮮明へと変わる世界。
その中心に佇むのは、約三ヶ月前に婚約を経て婚姻を結んだ旦那――ピジョン―さま。
今では見慣れてしまった光景に、自然と笑みが生まれる。
まだ思うように話せないまま、おはようございます…。と、控えめな声量で返せば、小さく頭を撫でられる。
その感触や、撫でる手の平から伝わる温もりに、まるで猫になった気分だと思わなくもないが、更に撫でて欲しくてジッと視線を向けてしまう。
「……キミは、そうやって…」
「…はい?」
「………ハァ…」
束の間、無言で見つめ続けたせいか、旦那さまが視線を逸らしてしまった。
しかも、耳の頭や目尻の部分だけ赤くして何かを呟いている。
呟かれた言葉自体は聴こえているけれど、その続きを知りたくて敢えてジッと見つめ続ければ、今度は深い溜息を返されるだけだった。
甘やかす行動はしてくれるのに、言葉だけは控えめ。
言葉だけで行動がないのも嫌だけれども、たまには両方与えてくれてもイイと思うのです…。
そんな事を考えている内に、意識は思考は活動を始めたのか、他の部分にも目や意識が向き始めます。
…旦那さまの服装が、正装に近い物です。
……何故?
――ふと、ある事が脳裏を過り、ギギ…ッ。と、まるで錆びた鉄道具のように頭を背後へと向けます。
現在、自分が居る場所は寝室で。
旦那さまが佇むのは扉側なため、自分は横向きで相対していた。
意識が覚醒した事で、身に宿る倦怠感の他にも空腹感を覚えた事で、かなりの時間が経過をしていたと予測は出来ました。
…出来ましたが……。
「――ウ、ソ……」
まさか、開かれたカーテンの先に見える風景が既に夕暮れ時に見えるのは…目の錯覚、でしょうか…?
それとも、朝焼け?
仄かな期待を抱き、縋るように旦那さまへと視線を向けます。
「ずっと寝ていて、お腹を空かせているだろう?料理長に早目の晩餐を頼んだからね。あと数刻もすれば、食べれると思うよ?」
「……嘘…」
旦那さまの言葉に、二度目の“嘘”を紡ぎます。
そして、頭では判っていても手が勝手に動いてしまいました。
「何故、私を連れて卒業パーティーに参加されなかったのですか?!」
まだ着替えを終えてないと判る旦那さまの襟首を掴み、眼前へと引き寄せた彼の瞳を至近距離で見つめ、掠れ気味な声など気にせず強めに訴える。
行動が予想外だったのか…僅かに呆けた表情を浮かべるも、直ぐに気を取り直してか、穏やかな微笑みを浮かべられました。
「……“何故?”と、訊くのかい…?」
「…!…ッ…」
ヒヤリと、彼が発する声に含む冷気に、自然と体が萎縮します…。
表情は笑っているのに、眼は仄かな暗さを宿して淡々としている様に、何かが起きたのは一目瞭然で。
――けれど、自分の考えが間違いでなければ、ソレは私自身が体験しなければならない事だった筈なのです。
「――何故、三ヶ月前には既に全課程を修了し、早期卒業を終えたキミが、『二週間前に起きた落下事故』の犯人にされるのだろうねぇ…?」
更に冷気が増したと判る発言に体が微かに震え、今度はコチラが視線を逸したくなったけれど、私の記憶が間違いでなければ、キミが自由に動けたのは夕方以降だと言うのに。と、続けられた事で反論材料はまだ残っていると気付き、気合で目を見合わせたまま返しの言葉を口にします。
「…言っておきますが…。ソレは、ピジョン様のせいですからね…?加減を、何度もお願いしましたよね…?」
そのせいで、本来であれば今日出席する予定だった卒業パーティーに出ることが叶わなかったと暗に伝えれば……。
「え?無理だよ」
「……」
冷ややかな笑みの中に垣間見せる、艶を含んだ笑みと共に告げられた検討皆無な断言に、開いた口が思うように閉ざすことが出来ませんでした…。
「――そもそも。何故、私が危険と判っている所に、大切なリィヴァを連れて行くと思うんだい?」
ベッドサイドに置かれている椅子に座っていた旦那さまが、改めて足を組み換えしながら、さも疑問だと言うように発言をしますが…――。
「…ソレを言うのであれば、卒業する学友の皆さまへ、最後のお別れの挨拶の機会を不意にされた私の想いは蔑ろですか…?」
「………え?」
思わず、不満を宿した眼差しで見つめれば、ソコを突かれると……。と、歯切れの悪い物言いへと変わり、ソレが治らぬ内に次々と言っておきたい事を伝えます。
「蔑ろですか?貴重な、数少ない、ピジョン様の許可もちゃーんと頂いた、素敵なご令嬢様方との挨拶は、無碍ですか?」
「………。ソコは、その…。…後で…ちゃんと、埋め合わせ、する、から…」
ソコは、本当に、ゴメン…。
最後に、意識して若干瞳を潤ませ睨むように上目で見つめれば、冷ややかだった表情は直ぐに戸惑いに変わり、最後は敗者宣言さながら両手を肩上の高さまで上げて謝罪の言葉を頂きました。
判れば宜しいです!
機会を与えるという言質も頂きましたので、この点については許して差し上げましょう。
…ですが――。
「確か、そのお話は、私も同席した上で知った“情報”です。その後に、どう対策するか話し合った筈ですわよね?」
「……まあ、そう…なんだけど、ネ?」
疑問を軽く頭を傾げたまま口にすれば、同じように旦那さまも首を傾げて答えてくれる物の、その表情は苦笑いに近い物で。
「…私が、“敗ける”とお思いでしたか?」
「いや、勝敗ではなくて…」
続く言葉が見受けられず、声にはせず唇だけ微かに動かす様は言えにも言えずと焦らしを与えられているようで。
つい、フツリと浮かんだ苛立ちを声に出す事で発散します。
「では、何ですか…っ!ピジョン様だけ、ご友人達と卒業パーティー楽しんだなんて、ズルいです!」
「――その返しは、悪化するパターンでしかないから、行けないように抱き潰したんだよね…」
まるで、私の答えが不正解だけれども、妥協して正解にしてあげよう。と、温情でしかないと思える物言いに、幼稚と判っていながらも反論を続けます。
「ッ〜!ちゃんと、私だって、“相対”出来ますのに!」
「……多分、無理だと思うよ?」
「何故です?!」
「だって――――リィヴァは、“好き”と想った相手しか視界に入れないからだよ」
「………。そんな、事、ないです…わ」
「自覚してるから、今、ソッポ向いたよね?」
「ッ?!ち、違います!ちゃんと、誰であっても、相対出来ます!」
「――出来たら、冤罪の被疑者にされる前に阻止出来たと思うけど?」
「うぅ〜…」
ちゃんと…。ちゃんと、相対出来ますのにっ! 何で、信じてくれませんのっ?!
言葉にしたいのに、言っても伝わってくれないソレ等を、枕の支えとして置いている柔らかな手触りで気に入っているクッションを使い、旦那さまへ攻撃して訴えます。
ぼふ、ぼふ。と、旦那さまの頭を目掛けて腕を奮っても、ガードするように配置された旦那さまの腕が邪魔で当たりません!
旦那さまなら、一撃受けてくださいませ!
――コレは、本当は、彼が自分の為にしてくれた配慮に感謝はしつつも、やはり自分の事は自分で解決したい想いと、最初で最後の二人で迎えられる筈だった卒業パーティーを無くされ、不満や寂しい想いを言えたり言えなかったりする、とあるご令嬢と、彼女の言いたい事も言えない事も大概理解はしつつも、ソレでも自分の欲求の方―彼女の安寧が第一―が上回り、多少怒られるだけで済むならその道を喜んで選ぶ、他人には冷徹腹黒何でもござれな、とあるご令息の春の一幕。
回答:ご令嬢が襟首掴んで引き寄せる所。
――ココから生まれたお話なので、本当に何も考えずに書きました…。スミマセン…(平伏)