八人目
著者:野田莉南
玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開ける。
いきなり。
見たことのない石の回廊が続いていた。
——あーあ。来ちゃったよ。
昨今の高校生事情は複雑だ。
自分の意志では道を選べずに。
終わらない喧嘩を買わなければならない。
本日の舞台は横幅10メートル。
幾重にも広がるコの字型の石柱が特徴的だ。
四角く切り取られた天井からは、西日が差し込んでいる。
回廊をオレンジ色に染めていた。
おもむろに僕は目を閉じる。
神経を研ぎ澄ませていく。
学ランの両袖口に拳銃の重みが感じられた。
音を立てることなく。
滑らかに。
2丁のオートマを握る。
最初から敵の数は決まっている。
スクールバスの横転事故で亡くなった生徒。
きっかり40名。
いつものように。
自動小銃を構えて潜んでいるはずだ。
その中には、アイツもいる。
想い出を振り払うようにして、僕は前を見据えた。
1歩。
踏み出す。
また1歩。
もう元には戻れない。
両手に銃を構えながら、僕は歩を進める。
石柱の影が動く。
敵との距離が縮まる。
銃声が轟く。
左右の銃を駆使して、歩き続ける。
——弾切れだ。
オートマを放る。
地面を蹴る。
自動小銃が宙を舞った。
吸いつくように。
銃が掌中に収まる。
僕は撃ちながら、淀みなく歩き続けた。
背後を振り返ることはしない。
閉ざされた石門の前で独り。
アイツが待っている。
2人だけの世界になった時、初めて僕は足を止めた。
「お久しぶりね」
彼女は笑って、言葉を紡ぐ。
「でも、私は忙しいの。あなたと違って」
夕日を受けた瞳の奥に、殺意の炎が灯る。
次の瞬間。
ダッと彼女が地面を蹴った。
速い!
振りかざされた刃が瞬く。
咄嗟に。
銃剣を合わせる。
鈍い音と共に空気が震えた。
目が合う。
彼女が斜めに滑らせたナイフの切っ先をかわす。
右に飛ぶ。
ズダン、と銃を撃ち込んだ。
しかし、当たった感触がない。
身をひるがえした彼女が、再び向かってくる……!
間に合わない!
銃剣が弾き飛ばされた。
ナイフが頬をかすめる。
無我夢中で体躯を蹴った。
彼女の体勢が崩れる。
最後の1発を見舞って、僕は終わらせるつもりだった。
が。
——クソッ。弾切れだ!
彼女から離れる。
目を閉じて、神経を研ぎ澄ませる。
袖口には拳銃の重みが感じられた。
素早く構えて仕留める……!
しかし、彼女の姿は忽然と。
その場から消えてしまっていたのだ。
腹立たしい。
怒りに任せて、勢い良く。
僕は門を蹴り開けた。
途端に。
玄関に飾っているユーカリの葉の匂いがする——。
了