七人目
著者:林集一
女性器、声帯、肛門、眼窩。美しい穴はかくあれど、今僕を覗く無数の“銃口”ほどの価値は無い。
僕の前に立ち塞がる無数の人間。
彼等は皆、父と母の穴の中から出てきた。
そして、愛を受けて育まれ、僕に銃口を向けた事により死ぬ。
銃口を向けると言う事は殺されても良いと言うサインだ。
今日はどれだけの穴を拝み、犯せるだろうか? 見当もつかない。
ワクワクと共に観音扉を開く。
……。
初恋の掌のような熱気。
24対に勃ち並ぶ柱。
その1つ1つが今にも飛び出しそうな刺客を孕んでいる。
僕は両の袖口から愛銃を出し、構える。
すると、柱の影からぞろぞろと先走りの早漏共が溢れ出す。
自動小銃を仔犬のように構えたグラサン達。中途半端に仕上げられた彼等は、無感情の奥にマニュアルがある。従っているうちは可愛いものだ。
そう、訓練された者の銃口は筆記体の様に滑らかに動く。
米噛み、眉間、睫毛、瞳、光彩。
彼等が引き金を引くのは狙いをつけてから。
狙いを着けたかは顔をみればわかる。
米噛み、眉間、睫毛。ここで殺す。
瞳に殺意が宿った後は死んでも引き金を引く可能性が高い。
米噛み、眉間、殺す。
米噛み、殺す。
米、殺す。
撃つ気配を映す者だけが死ぬ。
そして、柱の影から次々と人間が産まれてくる。
そして俺に撃たれて死ぬ。
積み上がる屍。
カチカチ。
弾切れ。
やべ。
俺は足元の自動小銃を足で蹴りあげて、拾う。
パンパンパパパ
僕は鏡。
感情に一点の曇りもない。
柱の男達は皆逆さまになって血を流し、ちょろちょろとせせらぎを讃えている。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
ガチャリ。
人間共を突破して、ドアを開けた。
ステージ1クリア!
次の舞台には、片目眼帯の大男が迎えた。
「でかくなったな小僧」
「老けたなルガール」
目の前には因縁の敵。彼を倒さなければ扉の奥には行けない。
ルガールは問答無用で机の上に落ちていた銃を拾って、僕に向かって撃つ。硝煙。鉄の香り。
銃口は性格に僕の眉間を狙っている。尾骨が痺れる程の感覚が下腹部に走る。かくも美しい性器があろうか?
紙一重で射線を外すと、こちらも銃を拾う。
撃つ。撃たれる。撃つ。撃たれる。
人の身体は、極限まで美を追求した形に産まれている。その間接は柔らかく、人を殺すに特化する動きを可能としている。また、それを防ぐ技術も日々磨かれている。
銃口を反らし、腕を極め、周り、撃つ。
三角筋は蛇の如くしなやかに、僧帽筋はうなじを揺らして荒れ狂う。お互いがお互いにお互いの想像を越えるべく丁寧に動く結果がお互いにある種の秩序を齎している。
百人一首。スパンキング。混一色狙いのカン。
お互いにお互いの銃を押し合い、周り、避はす。
「ルガール」
「何だ?」
「飽きた死ね」
僕は殺意を込めずに銃を撃つ。どうでも良いのだ。
放たれたどうでも良い弾が胴体に当たり、花を咲かせる。
それは蝶を寄せる程、赤い。
倒れるルガールは何も言わず自爆ボタンを押した。
僕は自身の命の為に感傷を捨て、奥の扉を蹴飛ばした。
おしまい