4話 なつまつり
気づけば春も終わり、夏を迎えようとしていた。
私の嫌いな季節。それは夏。
だって、暑いのはもちろん嫌いだけど、それより何より最悪なことがある。
私の家。そう、橘神社で行われる夏祭りのことだ。
毎年、私の巫女姿目当てで来るお客さん含め、普段から参拝に来るご年配まで大勢の人で賑わう。それが鬱陶しい。
そして、その日は父親が唯一、家族に対して優しく接してくれる日でもある。
周りの目を気にしてか、祭りの当日だけ私たちにいい顔をする。それが気持ち悪い。
そんな逃げることのできない時間に追い詰められる。やらなきゃならないんだ。
そう思っていた矢先……
「桜子、大変よ!」
「どうしたのママ?朝からそんなに騒いでたらお父さんに怒られるよ」
「そんなこと言ってられないの!そのお父さんが倒れたのよ!」
「た、倒れた!?」
そんな知らせを聞き、私たちは一目散に病院へ向かった。
父親の容態はというと……ただの飲み過ぎだったらしい。本当に周りに迷惑ばかりかけているのを分かっていないのかな?
病室で爆睡している父親を放って私は学校に向かう。
「はぁ、残念だった」
「さくちゃんどうしたの?」
「いや、私の父親が倒れてさ、そのまま死んじゃえばよかったのにって」
「あっ、だから朝遅刻してきたってわけね!」
「まぁね、ただの飲み過ぎだったらしいし、本当に無駄な時間を過ごしたよ」
「あはは……さくちゃん本当にお父さんのこと嫌いなんだね」
「嫌いも何も、私は殺したいぐらいよ」
「こ、殺すって、いくらなんでも怖すぎるよ」
瀬川さんの顔が曇る。殺すは流石に言い過ぎたか。
でも、それが私の本心で、曲げることもない。
「とりあえず、夏の祭りは延期になったから結果オーライってことで」
「そうなの!?せっかくさくちゃんの巫女姿を拝見できると思ってたのに〜!」
「あ、あんたねぇ、写真を撮られる身にもなってみなよ。私の格好をコスプレだと勘違いしてる輩ばっかりなんだから」
「もう、私は純粋にさくちゃんの巫女姿を見たいの!写真なんていらない!しっかりこの目に焼き付けるんだから!」
「はいはい、とりあえず日程が改めて決まったら教えるわよ」
「ありがとう!!まぁ、さっきは写真必要ないって言ったけど、出来ればさくちゃんとのツーショットの写真が欲しいかな♪」
「あんた、結局私の写真目当てじゃない!!」
「あははっ、ごめんちゃい♪」
本当、こいつは私がいなくなったらどうなってしまうのか、心配しか残らない。
てか、仕方なく心配してるだけであって、私が自ら率先して心配してるわけじゃない。
そして、父親が退院し、本格的に祭りの日程を決める作業に入った。
祭りはなくなるわけもなく、延期はたったの一週間という事になった。
着々と祭りへの準備を始める神社関係の人たち。
表ではやはり良い顔をする父親。相変わらずムカつく。
なんて、そんな事を思っている暇もなく時間は進んで行く。止まる事なく進んで行く。
「さくちゃん、いよいよ明日だね!」
「あぁ、もう明日なのか……」
「もう、そんな暗い顔しないで!さくちゃんの巫女姿、すごく楽しみなんだよ!」
「あんたね、それを一番言われたくなかったのよ」
「さくちゃん……ご、ごめんちゃい♪」
瀬川さんはいつもの胡散臭い笑顔で誤魔化す。
「そんな言い方しても絶対に許さない!もう、今日で世界が終われば良いのに」
「それじゃ、私はさくちゃんと一生を終えようかな!」
「な、なによ気持ち悪い!」
「気持ち悪いは私にとって褒め言葉でございます!」
「はぁ、あんたの茶番には付き合ってられないわよ」
「そんなこと言わないで、明日の祭りは頑張ってね!」
「頑張ってって言われると逆に頑張りたくなくなるのよバカ……」
そして、私は夏祭り当日を迎えた。