3話 くらすめいと
学校に行きたくない。
せっかく、学年が一つ上がり、中学三年生になったのに行く気にならない。だって、レイジさんがあの日以来、神社に顔を見せなくなってしまったから。
まぁ、その他にもいろいろ理由があるんだけど。
そんなことを朝から思っている。
行きたくない理由?それは、行ったところで私の周りに誰も寄って来たりしない学校なんて行く意味あると思う?
何故、私の周りに誰も来ないかって?
それは、私はイジメられているからだ。まぁ、目に見えるようなイジメではない。陰口、悪い噂話、先生による生徒差別。
とにかく、内面から攻めてくるようなイジメだ。だから、そんなにダメージはない。
だって私はちゃんと自分を持っているし、そんなことをする奴らはみんなガキだと思っている。元々、下に見ている人間から何かされたところで気にすることでもない。
だけど、学校には行きたくはない。
それは、さっき私は誰も周りに近寄らないって言ったけど、ただ一人だけ私に毎日擦り寄ってくる馬鹿がいる。
そいつの名前は……
「おはよー!!さくちゃん!!」
「うわっ!?あ、あんた、朝からうるさいのよ!もっと静かに挨拶できないの?」
「あ、驚かしちゃった?そう言えば、さくちゃん大きな声嫌いだもんね。ごめんちゃい♪」
「うざっ……」
この人間拡声器の名前は、瀬川 翔子。元気だけが取り柄の女の子。まぁ、顔は少しだけ可愛いとは思うけどね。少しだけね!
「てか、あんた、前髪また切ったの?」
「そうだよ!気づいてくれたんだねさくちゃん!」
「ま、まぁね、あんたの髪型には気を配るわよ」
「あ、ありがとうねさくちゃん……」
瀬川さんの前髪は常に眉上で切りそろえられている。それには理由があって、私がイジメられている原因でもある。まぁ、瀬川さんが悪いわけではないけど。
一年前、私はイジメられていた瀬川さんを助けた。
ってわけじゃないけど。ただ、あの時は無性にイライラしていた。
瀬川さんに対するイジメは私とは真逆。目に見えるイジメ。
例えば、机に花を置かれるなんて当たり前で、暴力だって振るわれていた。水かけや弁当を捨てられたりと、イジメの種類を挙げたらキリがないほどに。
そして、前髪がいい例だ。瀬川さんは前髪を切られていた。自分の意思とは裏腹に、他人に切られていたんだ。
因みに、毎回髪の毛が伸びるたびに切られていた。それが嫌で、今は自分で髪の毛を切っているらしい。
まぁ、実際のところ、私には全く関係ない話なんだけど、その日はたまたま運が悪かった。私はすごくイライラしていた。所謂、女の子の日ってやつだった。
いつも通りイジメられている瀬川さんを尻目に私は教室に入るつもりだった。
その日のイジメは髪の毛を切る。まさにその日だった。
瀬川さんはその日、何故か私をずっと見つめていた。助けて欲しいとも言わずただ見つめていた。
それにすごい腹が立った。いつもなら見過ごすはずなのに、見過ごせなかった。
我慢できなかった私はイジメていた女の子を殴った。そして、瀬川さんも殴った。
まさかだと思うでしょ?イジメていた人だけ殴るならまだしも、イジメられていた本人まで殴るなんて。だって、ムカついたんだもん。
でも、私は瀬川さんに近寄った。
自分でもわからないけど、瀬川さんを殴った後は彼女を抱きしめていた。それは、殴った罪悪感からやった行為ではない。ただ、抱きしめてあげたかった。
私を見るなと、文句の一つ言ってやろうと思っていた。でも、私は何も言わずそのまま彼女が安心するまで抱きしめてあげた。
当然、イジメられていた人を助けたのなら、私もイジメられる。けれど、それでも良かった。馴れ合いで付き合っている友達にもちょうど疲れていたところだったし、みんなにいい顔している私自身が腹立たしかった。
そして、イジメられていてもずっと笑顔でいる瀬川さんを見ているのが本当は辛かった。
なんで、誰かに助けを求めないのか。なんで、ずっと笑っていられるのか。
そんな瀬川さんが、父親の暴力に我慢していた私と重なって見えた。誰かに助けを求めたいのに、実際はみんな見て見ぬ振り。そんなの辛いに決まっている。
だから、私が少しでも彼女の理解者になってあげようと思った。
それがきっかけで彼女とは「友達?」になった。
実際のところ、瀬川さんは私のことが好きだ。友情を通り越して人間として好きらしい。いや、もはや性別の壁も通り越していると言っても過言ではない。
「さくちゃん!」
「な、何よ急に!」
「だ、だ、大好きだよ!」
なんで少し照れながら言うんだよ……
「はぁ!?私はあんたのこと嫌いだから!」
「もう、そんなこと言うさくちゃんも大好き!」
そう言うと瀬川さんは私に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと!?離れなさいよ!」
「もう、さくちゃん照れちゃって可愛い〜。チューしたいぐらい!」
「あ、あんた何言ってるのよ!こんなこと誰かに聞かれたらどうするのよ!」
「いいじゃん、いいじゃーん!」
「あんね……」
まぁ、別に聞かれてもいい。イジメられっ子の私たちの話なんて誰も相手にしないんだから。
イジメられっこの集まり?側から見たらとっても惨めで情けないだろうけど、私は何故か安心する。
そんな馴れ合いで接する友達より全然マシだ。
だって、瀬川さんといる方が、素直に笑っている自分がいるから。
「そう言えば、あんたを助けた時のこと覚えてる?」
「うん、覚えてるよ!」
「なんであの時、私をずっと見つめてたの?」
「そ、それは、なんでだっけな〜」
「何もったいぶってるのよ、早く教えなさいよ!」
「わ、私に似た人がいるなって思ったの」
「えっ?」
「さくちゃんがとても無理してそうに見えたから」
まさかの回答。あんたと私が似てる?全然似てないっつーの!
って言いたいところだけど。言ってしまえば特大ブーメランなわけであって……
まぁ、何だかんだ、私も自分に似ていると思ったから近づいた。なんて、そんなことは口が裂けても言えない。
「ふ〜ん、そうだったんだ」
「あれ、さくちゃん怒らないの?私と一緒じゃ嫌でしょ?」
「何言ってんのよ、私はあんたと一緒でもいいわよ」
「えっ、本当!?」
「ただし、私の方が何百倍も可愛いけどね!」
「ふふっ、当たり前だよ。さくちゃんの方が可愛いに決まってるじゃん!私の自慢の友達だもん!!」
友達か……悪い響きじゃないかな。
学校に行く前は面倒臭いけど。行ったら行ったで、なんだかんだ楽しいかも!




