2話 かのじょ
今日もまたレイジさんが来なかった。
これで1週間も経つ。さすがに退屈だ。
「相変わらず私はゴミ拾いですか〜」
呆れて独り言を繰り返していた。側から見たら絶対におかしい人だと思われる。
「あぁ、今日世界が滅びてもいいや〜」
空を眺めながら呟く。
「桜子、久しぶり!」
こ、この声は!?
「レイジさん!!」
声を聞いただけで喜びが顔に出てしまう。
ずっと待ちわびた瞬間ーー、
と同時に私の世界が滅びる。
「この子が桜子って言うんだ」
「えっ……?」
レイジさんが後ろを振り返り発した言葉は、全く私に関係のない女に伝わる。
「あぁ、この子がテメェのお気に入りってやつか」
口が悪い。しかも見た目が奇抜で、まだ若い。いや、歳はレイジさんと同じくらいか?
「ほら、一応エリカさんも挨拶しといて」
「な、なんでウチが!?」
「そんなこと言わずにさ」
「チェッ、たくよ……ウチの名前は一條 瑛利果。まぁ、鷲田とはーー、
「別にあなたに興味はありません」
つい言ってしまった。
我慢できなかった。信じられなかった。
レイジさんに彼女がいたなんて……
「あぁ!?なんだ、テメェのお気に入りはクソ生意気だなぁ」
「いや、そんな怒らないでエリカさん!ほら、桜子もさっきのこと謝って!」
「嫌です。いくらレイジさんの彼女さんだからって私は謝らないです」
「か、か、彼女!?」
彼女って言葉に反応したのは、意外にも女の方だった。
「な、なんであんたが驚いてんのよ!」
「だって、ウチはこいつの彼女でもなんでもないし」
「はぁ?」
「ただ今日は、鷲田に無理やりここに連れてこられただけだよ」
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
勘違いしていた自分が恥ずかしい。
「エリカさんそんなこと言わずにさ、彼女と間違われちゃったら仕方ないんじゃない?」
「はぁ!?ウチはあんたとは付き合う気なんて全くないからな!」
なんか安心した。
でも、レイジさんの彼女ではないのは確かだけど、レイジさんがこの女にベタ惚れなのはわかる。
なんかすごいムカつく。
「レイジさん、こんな女やめた方がいいですよ。こんなケバ女レイジさんには勿体ないです」
「な、なんだとテメェ!?」
さすがに我慢できなかったのか、ケバ女は私の胸ぐらを掴んできた。
「ちょ、ちょっと!エリカさん冷静になって!相手は中学生だよ?」
「はぁ!?ウチだってちょっと前まで中学生だったんだから変わんねーだろ?」
うるせぇよ、クソばばぁ。
「ちょっと前じゃなくてだいぶ前でしょ?」
「クソガキがよ、一回殴られなきゃわかねぇのか?」
早く殴れよ。そうすればきっとレイジさんが助けてくれるはず。
そう思っていた……
「あぁ、もう!桜子、いい加減エリカさんに謝ってくれ!」
えっ?なんで私が?どうして私が?
どう考えても暴力を振るいそうなケバ女の方を注意するでしょ?
「嫌っ、絶対に謝らないです!!」
沈黙が訪れる。
さすがに面倒くさくなったのか、ケバ女は私の胸ぐらから手を離し、そっぽを向く。
「だぁ、お前のお気に入りは少し教育が必要だな。目上の人に対する態度とかよ」
「ご、ごめんエリカさん。僕の方から謝っておくよ」
なんでレイジさんが謝るのよ!
なんて言えなかった。レイジさんを傷つけてしまった。そう思うと胸が痛くなって言葉なんて出るはずもなかった。
「それじゃ、桜子またね」
明らかにレイジさんのテンションが下がっている。
てか、そもそもなんで私にこの女を紹介したんだろう?
別れの挨拶も言えず私は、ただその場に立ち尽くしているだけだった。




