1話 であい
あの事件から数ヶ月が経った。
まぁ、事件というほど大きな騒ぎではないが、私がメガネの彼に出会った最初の日でもある。
ちなみに、私は現在中学二年生。
来月には学年が一つ上がり、高校受験が始まる。だが私には受験なんて関係ない。
親の影響で、お金持ちが集まる中高一貫の学校に通っている。だから受験などする必要がなく、世間一般でいうエスカレーター式というやつだ。
そのため、私は家業のことで手がいっぱいだった。夏には神社で毎年行われるお祭りがあり、そこで巫女姿を披露することになっていた。
巫女の格好をするせいで私の容姿は親に全て決められている。髪型からメイクまで、私が可愛くない子供だったら捨てられていたのではないかと疑うぐらい、親たちのお人形にされていた。
まぁ、母親が私の容姿を決めるのならまだ許せる話だが、全ての元凶は父親で容姿から私生活まで強制されていた。そのせいか父親の私に対する目線も少し気持ち悪さを感じていた。
「これで完璧よ!」
母親に着付けをしてもらい、神社の外の掃除をして欲しいと頼まれた。これは週末になると毎回やっていることで、近所の人たちとの交流も含め、神社の周りを綺麗にする仕事だ。
「なんで私がこんな雑用をしなきゃならないの?」
私は一人でイライラしてた。こんな生活じゃ万年反抗期になるのは当たり前だ。
そんなことを思いながら神社の周りのゴミを黙々と集めていると、続々と近所人たちが朝の参拝をしに現れた。
「あら〜、桜子ちゃんは朝からお手伝いでお偉いさんね〜」
近所のおばあちゃんたちが私を褒める。
もういい加減聞き飽きた。毎回同じことを言われてるし……
そんな年寄りに紛れて一人若い男性が参拝に来てた。
って、あの人はこの前の?
「おはようござ……って君は!?」
巫女姿の私に挨拶をするメガネの男性。
私の正体に気づいたのか、驚いた様子でこちらを見つめている。
「あの〜、ずっと見られてると動けないんですが……」
「あっ、すまない!まさか君がこの神社の巫女さんをやっていたとは」
「私が巫女をやってちゃダメなんですか?」
イライラしている私に話しかけると大体こうなる。
「いやいや、そんなこと言ってるんじゃなくて、すごい似合ってるよ!」
「に、似合ってる?!」
「そう、すごく似合ってる!すごく可愛いよ!」
この人、女子中学生に言っているって知ってるのか?これは軽い犯罪だぞ。
まぁ、可愛いと言われて悪い気はしないけど。
「僕は最近、引っ越してきたばっかりで知らないことばかりなんだけど、ここの風情といい、人付き合いといい、何から何まで素晴らしいところだよね!」
「はぁ、そうですか」
急にあなたのこと言われても困るんですけど……
「僕の名前は鷲田 令次。よろしくね!」
自己紹介までし始めたよ……
てか今、初めてこの人の名前を知ったな。鷲田 令次、令次、れいじ、レイジさんか。
「あの、良かったら君の名前を聞いても良いかな?」
「あ、私は橘 桜子です」
「お、名前も綺麗だね!桜子さんか〜」
名前もって、なんだこの人。私を口説いてるのか?
「私、仕事に戻って良いですか?お話ししていると親に怒られるので」
「あぁ、すまないね!それじゃ、これから宜しくね、桜子!」
「さくらっ、って、いきなり呼び捨てかよ!」
なんて馴れ馴れしい人なんだ。本当によく分からない。
そして、あの日以来、毎日レイジさんが参拝に来た。レイジさんは毎回、私に質問などをしてきては自分のことを語っていた。そのためか、会話をする機会も増え、お互いのことを知り尽くすまで顔を合わせていた。
「レイジさーん!また父親に暴力を振られたんだけど、いい加減助けてよ!」
「またあの人にやられたのか……今度はちゃんと警察を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「警察だと面倒くさくなるでしょ?だから、レイジさんが一発殴ってくれればいいの!」
「そんなこと言われてもな〜」
私はレイジさんにかなり懐いていた。一人っ子の私からしたらお兄ちゃん的存在で、相談にも色々乗ってくれたし、心配だって人一倍してくれる。つまり、完璧なお兄ちゃんってわけ。
「わかった、僕から剛さんの方に言っておくから、また嫌がらせをさせられたらすぐ逃げて来なよ?」
「わかった!今日もレイジさんの家に行くね!」
「いや、嫌がらせをされたら来ていいんだよ?毎日、家が開いているわけじゃないし」
そう、私は父親に暴力を振られた日にはレイジさんの家にあがるようになっていた。レイジさんの家は高級マンションで、私の部屋をわざわざ作ってくれた。そして、あの忌々しい暴力狂の父親から匿ってくれていた。
もちろん淫らな事はしていない。レイジさんだってしっかりそこは弁えている。
けれど、毎日のように私に構ってくれていたレイジさんが、いつの日か急に神社に姿を現さなくなった。
その理由は……あの、一人の女性に出会ったからだ。