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30代で結婚した僕が押入れで寝ていて怒られたときの話

作者: α

「こらっ!そんなところにいないの」と珍しく君が声を荒げている


ふと視線を合わせれば押入れの中をあきれた様子で見ている君がいる

どうやら子供が押入れで遊んでいたらしい


ふと僕がそれをしなくなったと気付く

押入れだからなのか?狭いからなのか?よくわからないが僕は押入れが好きだった

独身時代に実家を出てすぐに借りたアパートには押入れはなかった

「やっぱり押入れがあったほうがいい」と色々な物件を探しつつも何となくで借りたはずのアパートの居心地の良さもあり気が付けば東京に嫌気がさすまでそこにいた

東京を離れたときに(大げさに言っているだけで関東圏は出ていない)家賃と部屋の広さが反比例した感じになり迷うことなく無駄に広い押入れのある部屋を契約した


その後はフリーランスとは名ばかりのその日暮らしを重ねる日々だった

僕にとって年収とかキャリアとかに嫌気がさしていて必要最小限で暮らしていける代わりに何の保証もない生活を選んでいた

そんなある日のこと君に出会った


君はひどくおびえた目で僕を見てきた

僕だって君と出会うとは思っていなかった

夜になると暗い道でいきなり人に出会った時は意外と怖い

しばしの間があって君は「助けてください」と言ってきた

僕はどう答えたのかわからない


気が付けば無駄に広い押入れのある部屋に君といた

君は心を開いてくれなくて

僕はどうしていいのかわからなかった

それでも時間が少しづつ距離を縮めていった


君はDVの被害者であると認め

僕はそれならばその日暮らしを一緒にしようと誘った


なぜかはわからない

僕は定職につかない代わりにフリーランスとしてそれなりにやっていくようになった

君も少しずつ笑う回数が増えてきた


無駄に広い押入れのある部屋はいつしかちょうどいい部屋になっていた


ある日のこと

僕は独身時代のなごりで押入れに寝ていた

夜中に起きた君が僕の姿が見えないことに動揺して泣いていた

僕はあわてて起きた

正直寝ぼけてたから鮮明にはあの日の記憶は出てこない

それでもあの日以来僕は君の前から姿を消すことはしないようにしてきた


目の前では君にとって一番になったであろう宝物が姿を消していて

君はそれに動揺することはなかった

少しあきれた様子で「やっぱり男の人はみんな押入れが好きなのね」なんて勘違いをしている様子だ

そしてどうやら「まだ押入れの中がいい」と駄々をこねている様子だ


仕方ない

「俺も中に入るよ!一緒にそこで遊ぼう」と声をかける

「二人してそんなことしないの!」と君は本気であきれていた


それでいい

押入れで寝ていて怒られるくらいならば案外に大きな問題が起きることは少ないだろう

不確かな生活ではあるけれども不確かな分だけ人生のかじ取りをしっかりすればいい

押入れに入り懐かしく感じた暗さと狭さの中で気のせいかいつもよりまぶしく見える君を見ながら思った




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