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リベレーター  作者: 風時々風
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 首都東京の地下に網の目のように張り巡らされた下水道の中。ぬらぬらとした汚物に覆われた細長い空間に金属同士がぶつかって上げる火花が散っていた。ぶつかり合う物の片方は人間の腕の形。もう片方は銀色に怪しく光るコンバットナイフの刃。ナイフを自分の体の一部のように自在に操っていた男が言う。

「強いか。だが」

 男は呟きながら、相手との距離をとる。零に近かった距離から、一気に十メートルは離れていた。男は腰に下げているフォルスターからやはり銀色のデザートイーグルを抜く。腹に響くような発砲音が下水道の中を駆け抜ける。五十口径の弾丸を両足の膝辺りに一発ずつ、左腕の付根に二発食らった相手が、男に近付こうとして走っていた勢いのまま派手に倒れた。男が銃を構えたまま相手に近付こうとすると相手は右腕を黒く汚れたコンクリートに突き立てて上半身起こした。

「殺せ」

 澄んだ音色の高い声。全身をすっぽりと覆うフード付きのコートで隠しているが、これだけ激しい動きをしていれば、体のラインなどは見えてしまう。男は、事前に得ていた情報とその姿、今聞いた声色から、相手が依頼されていた件の対象であると改めて確信した。

「フードを外せ。ゆっくりとな」

 それでも視認する必要がある。対象でない者を殺害又は捕獲したとしてもなんの報酬も得られない。それどころか後始末が面倒になる。相手がゆっくりと言われた通りにフードを外した。長い黒髪。汚れているが白く見える肌。目尻の上がった目の左の瞳は青で右の瞳は黒。

低めの鼻にバランスのいい細い赤い唇。男は溜息をついた。

「本当だったな。B02。まだ十代前半の女か」

 男の言葉を聞いた女が綺麗に整っている顔を醜く歪める。さながら、悪鬼のように。

「撃て」

 男は銃口を下に向けた。狙いは女から外れた格好になる。

「もう、抵抗できんだろう。大人しくついて来れば殺しはしないさ。どうだ? 言う事を聞いてくれないか?」

 女がゆっくりと立ち上がった。男は素早く銃口を女の胸の辺りに向ける。

「やめろ。どの道死ぬ。ならば今がいい。もう、あんな場所には戻りたくない」

 男が悪戯っ子のような笑みを作る。

「考え違いをするな。お前には価値がある。色んな所がお前を欲しがっている。私は簡単にはお前を手放さないさ。私自身がお前を殺す理由もない。なんなら、お前が脱走した目的を果たすまで面倒をみてやってもいい」

 女が一瞬だけ、ほんの一瞬間だけ年相応の女の子のきょとんとした顔をした。だが、すぐに悪鬼の如き形相となる。

「もういい。分かった。好きにしろ。立っているのが精一杯だ。悲しい物だ。お前の今の言葉に縋ろうと思ってしまった。こんな事では、ここで逃げられたとしても、この先、生きては行けまい」

 女が操り人形が糸を離されたみたいにがくんと膝を突く。男がゆっくりと近付く。

「私の名はショウ。ショウヨサノ。傭兵をやっている。ショウと呼んでくれていい。お前の名前は、常葉青でいいのか?」

 女が微笑んだ。屈託のない笑みだった。

「青でいい」

 女が上げていた顔を俯ける。ショウが側に行くが青はもうなんの反応も示さなかった。

「気を失ったか。私も傭兵稼業はもう引退した方がいいかな。お前の顔を見た時、死んだ娘の顔がちらついたよ」

 ショウは顔を上げると下水道のぬらぬらと得体の知れない滑りに覆われた天井を見詰めた。


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