エレガントショット
玲奈はあまりのショックに立ち尽くしていた。周りは慰めの声すらあげられない。そして、耐えられなくなった彼女は、その場から逃げるように立ち去った。
「お、おい」
流石のふたばも額に汗を滲ませていた。勝つことが全て。そう教えられて、ここまで来たのだ。なのに、勝ったことで、こんか嫌な思いをすることになるなんて、思ってもみなかった。つまらないと、ふたばは思った。そして、一人呟いた。
「何だかつまらないね」
同じように帰ろうとするふたばを、金城真奈美が止めた。
「待って、玲奈ちゃんを倒した実力凄いと思うけど、このままじゃ、私達が納得できない。だって、玲奈ちゃんは今まで、一緒にやって来た仲間だもん。それを、いきなり現れたあの娘に、これから同じレギュラーとしてやろうだなんて、私は言えない」
真奈美は美しい金色の長い髪を振り乱しながら言った。後頭部の真っ赤なリボンが揺れる。彼女はラケットを強く握り締め、ふたばに向けた。
「私と勝負して」
真奈美は言った。すると、すかさず美月が現れて、二人の間に入った。
「私の意向が気に食わないのか」
「部長、だって、こんなの酷すぎます」
「ならば、またデュエルで決着を着けよう。もし、金城さんが勝ったなら、玲奈を正レギュラーに戻し、星野を外す。だが、代わりに、星野が勝ったら、星野に正選手を譲り、君には補欠になってもらうよ」
「構いません」
真奈美の決意は固かった。ふたばはもちろん勝負を受けた。
二人はコートに入った。審判は美月が行うらしい。
「さあ、二人とも並んで。行くよ。デュエルスタート」
サーブ権は真奈美にあった。彼女は金色の長い髪の毛を風に靡かせながら、ボールを高く上げた。
「優雅に参ります」
スカーンと気持ちの良い音がした。ボールは左右に回転しながら、シールドを越え、ふたばのエリアへ入った。
「せやぁぁ」
すかさずふたばは打ち返した。ボールは左右に激しく回転しているスピンショットだった。
「はああああ」
真奈美も負けじとラケットを振るうが、ボールはラケットの前で軌道を変えて、そのまま地面に落ちた。
「くっ」
「ふたば、1点先制だ」
容赦の無い剛球。だが、真奈美はまだ余裕の表情を見せていた。
「お遊びは終わりよ、エレガントサーブ」
ボールはふたばのエリアの地面に着くと、そのまま回転を増して、真上へ跳ね上がった。
「はああああ」
ふたばは飛び上がって、打ち返そうとするが、間に合わず、ボールは地面に落下した。
「出たね、金城さんのエレガントサーブ。バウンドした瞬間に、回転数を大幅に上げて、跳ね上がる恐ろしいサーブだよ。テニスでツイストサーブと呼ばれているものに近いね」
「でも、ふたばちゃんも、凄いショット持ってるよ」
海月が言うと、麻美は溜息を吐いた。
「はぁ、日向さんはどっちを応援してるのよ」
ふたばは金城のエレガントサーブを返せずに、1ゲーム落としてしまう。
「このまま行きます」
「悪いけど、そのショットは見切ったよ」
ふたばは不敵に微笑むと、力強くスピンサーブを放った。
真奈美はそれを返すわけでも無く、ただ見ていた。当然、ふたばの方に点数が入って行く。
「どうしたの。打ち返そうともしないで」
「ふふ、次のゲームでエレガントサーブを打ち続ければ済む話。こんなところで、余分な体力も汗も掻きたくないのよ」
「真剣勝負なのに余裕だね。俺なら、這いつくばっても1点が欲しいけど」
ふたばはそのまま5-0で1ゲームを奪った。そして始まる第3ゲーム。真奈美は再び、エレガントサーブを放った。
ふたばはすかさず後ろに跳んだ。すると、やはりボールがバウンド後に激しく上方向へ跳ね上がった。
「まだ研究中の技なんだけどね」
ふたばはそう付け加えると、両足に力を込めた。足先が青色に発光する。魔力を足のみに集中しているようだ。
「はああああ」
まるでトランポリンの上でもいるようにふたばは飛び上がった。
「スカイハイ」
ふたばは上空で、まるでバレーボール選手がジャンプをしながらスパイクを決めるように、相手のエリアへ向けて、ボールをラケットで叩き付けた。
ボールは凄まじい速さで急降下し、真奈美の右頬を掠め、地面に激突、何度かバウンドをした後、コロコロと転がった。
「な、何よ今の」
「スカイハイとか言ってたね」
「ロブを上げれば、スカイハイで叩き落とされてしまうわ」
皆、二人のデュエルに魅入っていた。そして、第3ゲームも大詰めになった頃、真奈美の顔から余裕の二文字が消えた。
「はぁはぁ」
「そろそろ決めるよ」
ふたばは必殺のスピンショットを放った。ベーゴマのように回転しながら、ボールが真奈美の脇を抜ける。
第3ゲームはふたばが取った。先に3ゲーム取れば勝ち。サーブ権はふたばにある。
「行くよ」
ふたばは勢い良くサーブを打った。ボールがギュルギュルと激しく横回転する。必殺のスピンサーブが炸裂した。
「このおおおお」
真奈美は必死になった。しかし、ふたばの加減で軌道を自在に変える打球を、返すどころか、満足に追うこともできない。完全に大人と子供だった。
サーブを返しても、その後のショットには対応できない。無駄に左右に走らされた挙げ句、美奈子は体力が尽きたのか、ほとんど、走ることもしなくなった。
「はぁはぁはぁ、あんた性格悪いわよ。わざと疲れさせるなんて」
「手加減なんてしてたら負けちゃうからね。悪いけど、本気で行くよ」
デュエルが続けば続くほど、動きが鈍くなる真奈美に対して、ふたばは時間の経過と共に、疲れるどころか、寧ろ、動きが洗練されて行った。ボールの回転が激しさを増し、鋭利な刃物のようになる。
「ゲームセット。ウォンバイ星野ふたば。スリーゲームトゥワン」
終わった。ふたばはラケットを静かに降ろした。美奈子は俯いたまま、ラケットを強く握り締めていた。勝ったのに気分が悪い。ふたばにとっては、理解し難い現象だ。
「くくく、あははははは」
突然美奈子は笑い始めた。
「うわ、美奈子が壊れた」
彼女の異様な反応に、どん引きする部員達。そんな彼女らを余所に、美奈子は汗と涙の雫を飛ばしながら、爽やかな表情をしていた。
「頼もしいじゃない。あなたがいれば、うちは全国大会で勝てるわ」
それは負け惜しみでは無かった。美奈子は頼もしい味方を得たとばかりに喜んでいた。そう、全ては全国大会優勝のため。彼女らの目的はそれだけなのだから。




